別居親ヘイトのはじまり
週刊金曜日は2017年5月19日号で「『親子断絶防止法』はだれのためのもの?」という7ページの特集記事を組みました。その中では冒頭弁護士の斉藤秀樹氏が「問題のある別居親のための法律は必要ない」と主張していました。
斉藤氏は文中、「現在、家庭裁判所では、別居親から面会交流の申立があれば原則として面会交流させる方針をとっており、監護親からDV・虐待等の訴えが出ていても子の福祉に反することを立証できない限り面会を認めている」。だから「面会が認められない親は子の福祉に反することが明らかな、相当問題がある親といっていい」と述べています。子どものためにならない別居親のために法律なんて作るな、というのです。以後のページも同様の趣旨で組まれていました。
私たちは子どもと引き離された親の団体です。ある日突然子どもを連れ去られ、子どもに会いたいと家庭裁判所に申し立てても、取決めができる割合は約55%(2016年司法統計)。週刊金曜日が批判の前提とする事実と、データや私たちが見ている現実とはかけ離れていました。
家庭裁判所に行けば子どもに会える?
子どもに会いたいと家庭裁判所に申し立てても取り決めに至るのは約半分。この割合は何年も大きな変化はありません。審判(決定)だと会える割合はさらに1割減ります。月に1回以上の取り決めができるのは3割。それも2時間程度でそれ以外は隔月や年数回。写真の送付という取り決めも……取り決めをしても4割が会えなくなります(2014年日弁連アンケート)。
週刊金曜日によれば、子どもに会いたいと申し立てたうちの2人に1人が「相当問題がある」ということになります。ほんとうでしょうか?
なぜ別居親だけ「問題がある」?
離婚時の親権取得率は8割が女性、裁判所では父親が親権を取得する割合は1割ほどです。一方、児童虐待の加害者は実母は57%、実父が29%(2012年)。結婚相手からのDV(精神的なものを含む)を受けた経験のある女性の3人に1人、男性は5人に1人です(内閣府2014年)。
斉藤氏の記事では、米国で離婚後父親が殺人事件を起こした事例が67件紹介されています。DVや虐待を「問題がある」根拠とするなら、同居カップルと女性が8割を占める同居親も同様です。しかし週刊金曜日の記事では、女性が加害者や別居親の事例は一例も取り上げていません。週刊金曜日は「別居親はほとんどが男なので会せると危険」と、世間の先入観を煽っています。つまりヘイトです。
何かひどいことしたの?
「身体的な暴力がなくても精神的被害がある」「被害者が逃げてきているのがDVの証拠。面前で暴力を見る子どもも被害者」と別居親の加害性を主張する人もいます。現在のDV被害者保護の仕組みは、一方の主張や主観で加害者が認定されるのです。市町村が一方の主張だけで「避難者」の住所秘匿をする制度の問題点を裁判所も指摘しています(2018年4月25日名古屋地裁判決)。そして親権取得のために子どもを確保するのは法曹界の常識です(財団法人日弁連法務研究財団『子どもの福祉と共同親権』)。
これが「親による子の拉致」が常態化し、同居親にも「問題がある」親が含まれる理由です。もちろんDV防止にかかわる支援者のモラルを著しく下げDVは一向に減りません。
現在の制度でも会える親は会えるし
共同子育てはできる?
週刊金曜日の企画にはそんな主張もあります。たしかにその通りです。でもそれが子どものためだとするなら、なぜそれを両者に強制してはいけないのでしょうか。対立が強ければ子どもが苦しむかもしれません。しかしそうであれば同居親の言い分だけを重視することもできないはずです。パートナーとの間に葛藤を抱えたとき、子どものために約束し、解決できるカップルがあるなら、拉致を正当化することもできません。そして子どもにとって親の優劣はつけられません。問題はどちらかの親ではなく互いの関係だからです。
だから海外では、自分の言い分の正しさのみを根拠に子を連れ去ることは違法で、親に強制されるのは子どものための話し合いです。共同親権のもと子どもを引き離す親は親権をはく奪されるのです。DVは犯罪、実子誘拐は民事不介入……それは男女平等の否定です。
なぜ私たちは
週刊金曜日のヘイトを見過ごしたのか?
男性のDV被害者は女性と同じように被害を訴えても逃げる場所がありません。女性の親権取得率が8割になるのはこうした理由です。子どもを確保した同居親と裁判所も含めたその支援者が「問題がある親」と認定します。データが示す男性のDV被害者や女性の別居親の存在は彼らにとって不都合でしょう。
しかし私たちが「新潮45」はヘイト本と批判しても、「子どもに会えない親=妻に逃げられた夫」として嘲笑し、週刊金曜日のヘイトを認識できないとしたら……。それは週刊金曜日が、デマとともに「金を稼ぐのは男の仕事、子育てが女の役割」という読者の先入観を巧妙に掻き立てながら記事を構成しているからです。
「問題がある」のは実は、「稼がない男、育てない女」。出世より育児の継続を望む男性や、自立のために子どもと離れて暮らす選択をした女性……家の形式よりも自分らしさを大切にしようとする男女を、「男らしくない」「母親のくせに」と無言のうちに叩き、「女性の権益」のためになりふり構わず、自分たちが批判してきた家制度でもヘイトの武器にする。そういった矛盾に気づかないほど、私たちの間には、男性への蔑視表現が蔓延し、家族をめぐる性差別が根付いています。
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共同親権運動ネットワーク
T0265-39-2116/メールcontact@kyodosinen.com
ドキュメント「週刊金曜日」の右往左往
「ヘイトだ」「差別したつもりはない」
5月19日に記事が出た翌週、共同親権運動ネットワークは週刊金曜日に直接出向いて申し入れ、抗議とともに事実誤認については金曜日自らが誌上で訂正し、取材し直すか十分な反論が可能なページ数による対抗言論を、保証するよう伝えました。
担当者の宮本有紀氏は休暇を理由に現れず、小林和子編集長と北村肇発行人が応対しました。「記事はヘイト」という私たちの問いかけに、二人は「差別したつもりはない」と述べました。
対抗言論は投書欄
公開討論会の呼びかけは無視
その場で小林氏に指摘個所を寄せるよう言われたので、私たちは6月7日に29項目を挙げました。それを送る前に論争欄で書かせると小林氏から電話で提案されましたが回答を待ちました。週刊金曜日の事実誤認は認識の違いだけですまされず、週刊金曜日自らが事実を訂正すべきだと思ったからです。
ところが、1か月半後の7月29日に編集長名で送られた週刊金曜日の見解は、私たちが指摘した点について、わずか3項目しか回答せず、その内容も論点を意図的にずらし、それ以外は「見解の相違」と切り捨てていました。間違いも認めず、もちろん誌面での訂正も応じません。しかたなく8月1日に19項目の公開質問状に切り替えました。
その後回答期限が過ぎても回答が来ないので、週刊金曜日が当初から提示していた論争欄に投書し、誌面で週刊金曜日に公開討論会を呼びかけました。週刊金曜日にはその後呼びかけに応じるか書面で問い合わせましたが、今も返事がありません。
共同養育支援法案
(親子断絶防止法案)反対!
現行の法運用では、暴力があってもなくても、親権目的の子の誘拐は野放しで、連れ去り時に子どもの意思は考慮されません。その後親子が再会できる保障もありません。子どもを確保した側の主観で引き離しが継続し、親子関係が困難になります。私たちは誘拐の加害者が「おそれ」があれば親子を引き離せ、子に発言を強いて「会いたくない」と言わせることを容認するこの法律案には反対しています。
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週刊金曜日への公開質問状とその間のやりとり
公開討論会を呼びかけた週刊金曜日論争欄の記事
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週刊金曜日記事への識者の意見
村上らっぱさん(『府中萬歩記』編集部)
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古賀礼子さん(弁護士)
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濱野 健さん(北九州大学文学部准教授)
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