家族法研究会の検討の進め方について

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研究会の検討の進め方について
第1 本研究会の検討課題
家族法分野では,近年,相次5 いで法改正が行われてきた(2011年の親
権,2013年の非嫡出子相続分,2016年の再婚禁止期間,2018年
の相続法,婚姻開始年齢,2019年の特別養子制度)。また,現在,法制審
議会民法(親子法制)部会では,実親子法や懲戒権に関する検討がなされて
いる。
10 本研究会では,家族法分野における立法について,現在どのような論点が
なお残されているのか,また,それらの論点について検討の方向性としては
どのようなものがあり得るのかについて,方向性を定めることなく論点の整
理を行うこととしたい。
本研究会で取り扱う論点としては,以下のものが考えられるが,これらを
15 取り扱うことについて,どのように考えるか。
また,これらのほかに本研究会において検討すべき論点はあるか。
1 親権概念の整理等
現在,民法の懲戒権に関する規定(民法第822条)の在り方については,
20 法制審議会民法(親子法制)部会において,調査審議が行われている。もっ
とも,懲戒権を包含する概念である親権についても,以下の各点等を中心に
改めて検討する必要があるものと考えられる。
本研究会においてこのような検討を行うことについて,法制審議会におけ
る調査審議との関係も踏まえ,どのように考えるか。
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⑴ 親権の法的性質
親権は,その名称からすれば純粋な親の権利であるようにも思われるが,
その法的性質については,権利であると同時に義務であるとする見解や,
権利性はなく純粋な義務であるとする見解等がある。また,親権とは義務
30 であるとされる場合にも,親権者が誰に対して義務を負っているのかとい
う点については,社会又は国家に対して負う公的な義務であるという見解,
子に対する私法上の義務であるという見解,それらの両方の性質を有する
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義務であるという見解等があり,親権の性質については,定まった見解が
ない状況である。
このような親権の法的性質について整理をすることは,子の養育に関する
家族法制の見直しにおいて,基本的な視座を提供することになるように思
5 われる。
⑵ 親権の内容
親権者が子に関して何をすることができ,また,子に対して何をしなけれ
ばならないのかについては,民法第820条以下に規定されているが,現
10 行法による取扱いで問題がないのかという点については,十分な整理,検
討がされていないようにも思われる。
すなわち,親権と監護権とは,父母の離婚後は父母に別々に帰属すること
があり得るが,例えば,子の医療,進学等に関する決定は,現行法上は子
の監護に含まれるものとして監護者がすべきものであると考えられるが,
15 そのような取扱いで問題はないか(それとも,そのような決定をする権限
は,監護権とは別の親権の一内容であって,むしろ親権者がすべきもので
あると考えるべきか。)。
また,例えば,親権者は子の居所を指定することができるが(民法第82
1条),父母が離婚した子について,面会交流に関する定めがある場合に,
20 現行法上は,親権者が面会交流を事実上不可能とするような転居をするこ
とに制限はないが,そのような取扱いで問題はないか。
さらに,例えば,一定の年齢に達している子が苦痛を伴う医療行為を必要
としている場合に,親権者と子の意見が対立しているときであっても,現
行法上は,そのような医療行為を受けるか否かは親権者が決定すべきもの
25 と考えられるが,そのような取扱いで問題はないか。
社会の複雑化や,医療の高度化等によって,今後,子の養育の在り方に関
する決定も更に複雑になっていくものと考えられることから,親権の内容
について整理することが考えられる。
30 ⑶ 親権という用語
海外では,親子間の法的な関係について,子に対する支配よりも義務や
責任の要素を強調する観点から,「親権」という用語を改め,「親責任」(英
国,アメリカ,オーストラリア等),「親としての配慮」(ドイツ,スイス
等),「決定責任」(カナダ)といった用語に置き換える動きがある。
35 親権概念を整理するとともに,我が国においても,親権という語が,親
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子間の法的な関係を表す言葉として適切であるかについて,改めて検討す
ることが考えられる。
2 父母の離婚後の子の養育の在り方
⑴ 父母の離婚5 後の子の養育の在り方に関する基本的な視座
平成23年の民法改正により,民法第766条第1項,第771条にお
いて,父母が離婚をする際に定めなければならない事項として,「父又は母
と子との面会及びその他の交流」,「子の監護に要する費用の分担」が明示
されるに至った。
10 もっとも,平成30年度における未成年の子がいる夫婦の離婚届出件数
のうち,離婚届に設けられたチェック欄において,面会交流と養育費のそ
れぞれについて「取決めをしている」にチェックが付されているものの占
める割合は,いずれについても64.7%である。また,厚生労働省が公
表している平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要によれば,養
15 育費の受給状況について,離婚した父親から「現在も受けている」ものの
割合は24.3%であり,離婚した母親から「現在も受けている」ものの
割合は3.2%である。さらに,面会交流についても,母子世帯で「現在
も行っている」としたものの割合は29.8%であり,父子世帯では45.
5%である(いずれも分母となる総数に「不詳」という回答(無記入,誤
20 記入等)を含めて算出した割合である。)。
父母の離婚後の子の養育の在り方については,子の利益を最優先に考慮
すべきことは明確にされてきた。しかし,「子の利益」という概念は抽象的
であり,個別的な紛争の解決の場面において,具体的な指針を示すもので
はない。そこで,父母の離婚後の子の養育の在り方については個別事情の
25 影響が大きいものではあることを踏まえつつも,抽象的な「子の利益」よ
りも具体的な検討の視点・考慮要素を検討することができないか。
⑵ 離婚後共同親権
上記⑴の現状を背景に,父母の離婚後も,父母の双方が子の養育につい
30 て責任を持つべきであるとして,父母の離婚後の共同親権の導入を求める
意見がある。実際に,国際的な観点からすれば,離婚後共同親権を採用し
ている国が多い状況にはあるといえる。
もっとも,他方で,離婚した父母が親権を共同行使する場合には,子に
関する決定を適時適切に行えなくなることで子の利益を害するおそれがあ
35 ることや,DV等の夫婦間の問題が離婚後にも持ち越されるおそれがある
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こと等の点に配慮する必要もある。また,離婚後共同親権を導入したとし
ても,基本的には,子はどちらかの親の元で生活することになると考えら
れ,面会交流の充実や養育費の支払確保の必要性が直ちになくなるわけで
はないことにも留意する必要がある。
そのほか,仮に,離婚後共5 同親権を導入する場合には,父母が離れて暮
らしている以上,通常は,子の主たる監護者を父母のいずれか一方に定め
ることになることから,監護者が単独で決められることと,共同でなけれ
ば決められないこととの区別がより重要となるため,上記1⑵で指摘した
親権の内容について,十分な整理が必要になる。
10 離婚後共同親権の導入の当否を検討することについて,どのように考え
るか。
⑶ 協議離婚の要件の加重
我が国では,離婚のほとんどが協議離婚によってされているが,協議離
15 婚の場合には必ずしも法律の専門家等の関与がないことから,未成年の子
がいる父母が離婚する場合であっても,離婚当事者が養育費や面会交流の
重要性について必ずしも十分に認識することがないまま離婚に至っている
事例も存在する可能性があり,このことが養育費の支払率や面会交流の実
施状況が低調であることの背景となっている可能性がある。
20 そこで,一定年齢以下の子の父母が離婚する場合には,父母は,離婚後
の子の養育に関する事項についてのガイダンスを受講しなければならない
こととすることや,子の養育に関する計画を策定しなければならないこと
とすることが考えられる。
他方で,協議離婚の要件を加重することは,DV等の被害者にとって,
25 加害者から離れることを難しくする側面があることにも留意しなければな
らない。
協議離婚の要件について検討することについて,どのように考えるか。
⑷ 面会交流の促進
30 面会交流の審判・調停については,監護親がすべき給付の特定に欠ける
ところがない場合には,強制執行をすることができるとされているが,面
会交流を行うためには子の引渡しと子の引取りが繰り返されることになり,
これを直接強制や代替執行により行うこととすると,子にとって過酷なこ
ととなる。このため,一般的に,面会交流は直接強制や代替執行になじま
35 ず,間接強制(民事執行法第172条)しかすることができないと解され
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ている。その結果,家庭裁判所が面会交流を命ずる審判をした場合であっ
ても,直接的に面会交流を実現することができず,当該審判どおりの面会
交流が実施されない事例があるとの指摘がある。
この点については,例えば,面会交流を支援する団体との連携の在り方
等について検討することによ5 って,民事法制により監護親の面会交流への
自発的な協力を促進することが考えられないか。
また,例えば,客観的にも面会交流が子の利益のためになると考えられ
るにもかかわらず,監護親が正当な理由なく面会交流に協力しない場合の
実体的な規律の在り方等を検討することについて,どのように考えるか。
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3 未成年者を養子とする場合を中心とした養子制度の在り方
特別養子を中心とした養子制度の在り方に関する研究会(以下「養子研」
という。)は,当初,特別養子を中心としながらも養子制度全体について論点
整理を行うことを予定していたが,研究会の内外から,特別養子制度につい
15 ては改正を急ぐ必要があるとの指摘があったことを踏まえ,まずは特別養子
制度に関する喫緊の課題についての論点整理を行った。養子研が平成30年
6月に取りまとめた「特別養子を中心とした養子制度の在り方に関する研究
会中間報告書」(研究会資料1-2)は,特別養子制度に関する喫緊の課題に
ついての論点整理が中心となっており,養子制度に関するそれ以外の論点に
20 ついては,「残された論点」として列挙されるにとどまっている。
本研究会では,家族法分野の残された課題を取り扱うことが予定されてい
ることから,養子研において残された課題とされた論点についても検討をす
ることが考えられる。
また,その中には,例えば,①養子となる者が未成年者であっても,いわ
25 ゆる連れ子養子の場合には家庭裁判所の許可なく縁組を成立させることがで
きるとされていること(民法第798条ただし書)を見直すべきではないか
という点(同報告書2⑷:36ページ)や,②養子となる者が15歳未満の
者である場合には,父母のうち親権者でも監護者でもないものの同意なく代
諾で縁組を成立させることができるとされていること(民法第797条第2
30 項)を見直すべきではないかという点(同報告書2⑶ウ:34ページ)等,
父母の離婚後の子の養育の在り方とも密接な関係を有する論点も含まれてい
る。
未成年者を養子とする場合を中心とした養子制度の在り方について検討す
ることについて,どのように考えるか。
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4 財産分与制度の在り方
⑴ 平成8年の法制審議会答申
離婚後の財産分与の制度については,法制審議会が平成8年2月26日
に決定した「民法の一部を改正する法律案要綱」において,①財産分与の
理念(目的)が離婚当事者間5 の財産上の衡平を図ることにあることを明示
するとともに,その際の考慮要素をより具体的に列挙することによって財
産分与の内容の明確化を図り,また,②財産分与の考慮事情の一つである
各当事者の財産の形成・維持についての寄与の程度について,その異なる
ことが明らかでないときは相等しいものとするという,いわゆる「2分の
10 1ルール」を明記することを内容とする改正案が示されている。
もっとも,この点に関する民法改正は,これまで行われていない状況に
ある。
(参考)民法の一部を改正する法律案要綱(抄)
15 平成8年2月26日 法制審議会総会決定
第六 協議上の離婚
二 離婚後の財産分与
1 協議上の離婚をした者の一方は,相手方に対して財産の分与を請求することが
できるものとする。
20 2 1による財産の分与について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をす
ることができないときは,当事者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請
求することができるものとする。ただし,離婚の時から二年を経過したときは,
この限りでないものとする。
3 2の場合には,家庭裁判所は,離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため,
25 当事者双方がその協力によって取得し,又は維持した財産の額及びその取得又は
維持についての各当事者の寄与の程度,婚姻の期間,婚姻中の生活水準,婚姻中
の協力及び扶助の状況,各当事者の年齢,心身の状況,職業及び収入その他一切
の事情を考慮し,分与させるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めるもの
とする。この場合において,当事者双方がその協力により財産を取得し,又は維
30 持するについての各当事者の寄与の程度は,その異なることが明らかでないとき
は,相等しいものとする。
⑵ 除斥期間
民法第768条第2項は,「前項の規定による財産の分与について,当事
35 者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,当事
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者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。た
だし,離婚の時から2年を経過したときは,この限りでない。」と規定して
いる。
現行法において除斥期間が2年とされている趣旨については,必ずしも
明らかではないとの指摘があ5 る一方で,様々な事情によって2年以内に財
産分与を請求することができなかった場合には,財産分与を請求すること
ができなくなり,そのために経済的に困窮するに至っている者がいるとの
指摘がある。
10 本研究会において,財産分与の除斥期間について検討することについて,
どのように考えるか。
⑶ その他の論点
離婚後の財産分与について,上記⑴及び⑵の点の他に検討すべき点はあ
15 るか。
5 その他の論点
ほかに本研究会において検討すべき論点はあるか。
20 第2 検討の順序について
本研究会において,どのような順序で検討をしていくべきか。

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