この記事に関する弁護士の土井さんの反論はこちら
https://doihouritu.blog.so-net.ne.jp/2018-08-20
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/300636
上川陽子法務大臣は、7月17日の記者会見で、「親子法制の諸課題について、離婚後単独親権制度の見直しも含めて、広く検討していきたいと考えています」と述べ、共同親権制度導入を検討する方針を示した。これについて、どう考えるべきか。
そもそも、「親権」とは何か。民法では、子と同居し保護する監護権(820条)と、教育・居所・職業選択・財産管理などの重要事項決定権(820~824条)の二つが親権の内容とされる。現行法では、離婚した父母のどちらかが親権を持つ単独親権制度が採用されており、共同親権は選択できない。
これに対し、制度の導入を求める人は、共同親権が選択できるようになれば(1)扶養義務の履行確保(2)面会交流の促進(3)同居親による虐待防止につながる-と主張する。まず、こうした主張が、法制度を正しく踏まえたものかを検討しよう。
まず、(1)扶養義務について。そもそも、親権がなくなっても、扶養義務は継続する。親権がないと別居親が扶養義務を果たさないという議論もあるが、扶養義務の履行確保は、別居親に権利を与えることではなく、養育費不払いへの罰則や、国が養育費を立て替え払いし、別居親への取り立てを行う制度の導入で実現すべきだ。
次に、(2)面会交流について。親権は、別居親や子に対する面会交流強制権ではない。現行法は、離婚・別居後も、「子の利益」のために、親権を持たない親との面会交流の取り決めを行うべきとしており(民法766条1項、771条)、家庭裁判所が面会のための処分を出すこともできる(同3項、771条)。同居親が子との面会を不当に拒む場合には、別居親が家裁に「自分との面会が子の最善の利益になること」を説明し、処分を求めればよい。
こうした説明に対して、現状の家裁は、適切な処分を出してくれないと主張する人もいる。しかし、仮にそうだとしても、共同親権は面会強制権ではないので、共同親権を導入しても状況は変わらない。家裁の機能不全は、家裁の人員拡充、家裁利用コストの軽減、安全な面会交流施設の増加などにより解決すべき問題だ。
また、別居親が、主観的に「自分との交流は子の利益になる」と思っていても、DV・虐待・ハラスメントなどの要因で客観的にはそう認定できないことがある。そうした場合には、面会交流は避けるべきだし、ましてや親権を与えるべきではない。面会交流の不全は、裁判所か、別居親の問題であり、親権制度とは関係がない。
最後に、(3)共同親権は同居親による虐待の発見に有効とする意見について。そもそも、親権に基づく転居や進学への同意権などが虐待防止になる理由は判然としない。もちろん、別居親と子が頻繁に面会交流すれば、虐待防止になることもあろうが、それは親権の機能ではなく、面会交流の充実の結果である。また、虐待があるなら親権を移動させるべきであり、共同親権を認めれば、虐待親にも親権が残ってしまう。
そうすると、推進派の主張は、いずれも親権の概念を正しく理解したものとは言い難く、共同親権を導入する理由としては不適切だ。
(首都大学東京教授、憲法学者)