離婚後に「親権」を奪い合うのは日本だけ

■”日本の親権”は大人に優しく子供に厳しい

泥沼化しやすい離婚裁判。争いのもとの1つが、親権だ。

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未成年の子がいる夫婦が結婚しているあいだ、子の親権は原則として父母が共同で持つ。しかし、離婚後は単独親権になり(民法819条)、父母どちらか1人が親権者になる。

親権の内容は多岐にわたる。子の財産を管理したり、子の代わりに契約をするのは親権者。また、子の住む場所や、子が就職するときに許可するかどうかも親権者に委ねられている。親権者が遠方に引っ越しても、親権がないもう片方の親は文句をいえない。離婚後に親が子と会うことを面会交流というが、親権の有無は面会交流にも強く影響する。ゆえに離婚時、父母どちらも親権を譲らずにモメるのだ。

海外の先進国では事情が異なる。たとえばアメリカでは離婚後、親権を共同にするか単独にするかを選べる州が多い。アメリカでも父母のどちらかが自分の単独親権を主張すれば争いになりやすいが、最初から単独親権のオール・オア・ナッシングで争わざるをえない日本と比べれば、はるかに妥協点を見出しやすい。

離婚する夫婦はそもそも仲が悪いから離婚に至るわけだが、単独親権だと離婚時や離婚後、輪をかけて関係が悪化しやすい。父母が必要以上に憎み合う状況は、子の福祉を考えても望ましくない。日本も海外並みに離婚後の共同親権を認め、子を奪い合わなくてもいい環境を整えるべきだ。

■単独親権は親のエゴのため

「単独親権は憲法違反」と主張する法曹家もいる。婚姻に関連した有名訴訟を手がけてきた作花知志弁護士だ。

「現行民法で離婚後の単独親権が規定されているのは、共同親権にすると、離婚後も夫婦で縁が切れずにトラブルが継続してしまうから。一方、子にとっては、両親と交流しながら成長することなど、共同親権のほうが利益は大きい。つまり単独親権は、子の利益より親の不都合を優先した制度といえます」

なぜ親の都合を優先することが憲法違反なのか。ヒントになるのは、女性の再婚禁止期間訴訟だ。従来、女性の離婚後の再婚禁止期間は6カ月。しかし、平成27年12月16日、最高裁は大法廷で100日を超える部分について違憲とする判決を下した。

「従来、女性に再婚禁止期間を設ける目的は、(1)父子関係の重複を防ぐ、(2)父子関係をめぐる紛争を防ぐという2つでした。(1)だけなら期間100日で十分ですが、(2)の親の不都合を避けるため、多めの6カ月にしていたわけです。しかし、最高裁は(2)の目的で期間を長くすることは許されないと判断。翌年には民法が改正されました」

作花弁護士は、親権についても同じロジックが適用できるという。

「親子法は子の福祉や保護のためにあるもので、親の迷惑防止のための制度ではない。単独親権は親の迷惑防止の制度なので、訴訟になれば違憲と判断されるのでは」

ジャーナリスト 村上 敬 答えていただいた人=弁護士・弁理士・税理士 作花知志 図版作成=大橋昭一

6年前