子どもは一方のものじゃない――離婚親の「共同親権」への期待

4年間も片親疎外促進のために無駄な立法活動をしていた共同養育支援法。共同親権の足を引っ張るだけなので、一日も早く消えてなくなってほしいです。

https://news.yahoo.co.jp/feature/1049

8/13(月) 7:43 配信

 

会いたいのに会えない──。離婚後、子どもと暮らしていない親の多くが口にする言葉だ。日本では結婚時は「共同親権」だが、離婚後は「単独親権」となる。親権を持てなかった親は自由に子どもに面会できず、苦しむ。苦悩する離婚後の当事者と親権の問題を追った。(ライター・すずきまゆみ/Yahoo!ニュース 特集編集部)

思うように長女と会えない

「結婚した時は、いまのような苦しみは想像もしていませんでした」

東京郊外に暮らす高地侑子さん(仮名・50)は涙ながらに振り返る。2000年、32歳でアメリカ人男性と結婚。2人の間にできた長女は、いま彼女の元にはいない。

高地さんの夫は3年前、当時10歳の長女を連れて強引に別居。今年3月、長女の親権を夫(父親)とする離婚訴訟の判決が下された。判決に納得できない高地さんは、現在控訴中である。

(撮影:茂木良子)

2005年、37歳で長女を出産。2011年に東日本大震災が起きた頃から、次第に夫婦関係が悪化する。放射能の影響を恐れての避難をめぐる考え方の違いや、震災の被害を目のあたりにした高地さんがキリスト教に傾倒したことなどがきっかけとなり、価値観の違いが浮き彫りとなったためだ。高地さんが以前からの夢を叶えるために、夫の反対を押し切って大学の夜学に通ったことも夫婦の溝を深くしたという。

高地さんに離婚の意思はなかったため、カウンセリングに通うなど夫婦関係修復の道を探っていた。しかし、夫は協力的ではなかった。

「夫婦でもめていた当時、相談していた弁護士さんには『このままお嬢さんを連れて逃げてください』と言われたんです。でも、私は娘と夫の仲を裂くようなこと、したくなかった。そうしたら2015年6月、私からしてみたら突然、彼が娘を連れて出ていってしまったのです。親権をめぐる司法の判断は『現状維持』を重んじる傾向があるため、連れ去った者勝ちだとよく言われますが、本当にそうだと思いました」

(撮影:茂木良子)

別居以降、娘との面会交流は月1回程度、許された。しかし、面会の日程や時間、場所などはすべて夫の意向に沿わなければ実現できなかった。「本当はもっとたくさん、もっと長い時間、一緒に過ごしたかった」。

そして今年6月、夫は長女を連れてハワイへと転居。面会の機会は遠のいた。結局、この3年間、高地さんは長女と思うように会えていない。

半数以上の別居親が子どもと日常的に交流できず

親権をめぐる離婚後の親たちの苦悩は深い。親権とは、未成年の子どもを育てるために認められた親の権利と義務である。日本においては、結婚時は共同親権、離婚後は単独親権となることが民法で定められている。

厚生労働省の調査によると、2016年の離婚件数21万6798組のうち、親権の対象となる未成年の子がいるのは約58%。そのうちの約84%が子どもの親権を母親がもつ。

一方で、子どもの親権や面会交流など、子どもをめぐる家事事件は増加している。最近は、父親側が子の親権・監護権(監督し保護する権利・義務)や面会交流を強く求めるケースが増えた。男性の子育てへの参加意識が高まってきたことによる流れだ。

(図版:ラチカ)

しかし、現実には、子どもと離れて暮らす別居親が離婚後も面会交流を行っているのは、母子家庭で29.8%、父子家庭で45.5%にすぎない(2016年)。男女どちらにしても、半数以上の別居親が子どもとの日常的な交流ができていない現状がある。

子どもにとっては何が最善か

「離婚するほどの仲なのだから、面会交流がうまく実施できないのは当然です」

そう話すのは、千葉県の寺院の僧で、離婚後の親子の面会交流支援を行う一般社団法人びじっと代表・古市理奈さん(46)だ。

「たとえ面会交流について取り決めをしていても、両親の感情的な理由から反故にされることも多い。でも面会交流は、親ではなく子どもの権利。少しでも子どもが親に会いやすくするためには、第三者の介入が必要です」

(撮影:茂木良子)

びじっとは「子ども優先」をモットーに、親子の面会の「連絡調整」「受け渡し」「付き添い」などの支援を行っている。子どもが幼い場合、面会交流を行うには当然、親同士の協力が必要だが、「互いに顔を見たくもない相手との歩み寄りは無理」だと考え、面会支援団体を立ち上げた。親同士の感情のもつれによって面会がかなわず、交流のもてない親子を1組でも救いたいという思いからだ。

離婚後も、別居親が子どもに定期的にかかわることで、同居親の子育ての負担が軽減され、親子の孤立を防ぐ効果も期待できる。

「離婚して子どもの親権をもつ同居親は、別居親に会わせることによって『子どもが別居親のほうが好きだと言ったらどうしよう』などと考えて面会を躊躇しがちです。でも、子どもは親の所有物ではありません。子どもにとって何が最善か、ぜひ考えてほしい」

(撮影:茂木良子)

できれば定期的に会ってやってほしい

裁判離婚でない場合、細かい取り決めがなく面会交流が実現しないことが多い。親権を持つ親が、持たない親に面会交流を働きかけても、実現しないケースもある。

埼玉県草加市在住の安藤一浩さん(44)は、4歳11カ月の長女を育てるシングルファーザーだ。長女の母親である元妻は、当時生後2カ月の長女の親権を安藤さんに渡して家を出ていった。

「精神的に不安定だったのかもしれません。僕自身は父親になれたことが嬉しかったので、子育てを担うことに躊躇はありませんでした」

(撮影:茂木良子)

乳飲み子を託された安藤さんは、子育てがしやすいように、当時住んでいた静岡県から埼玉県の実家に引っ越した。同時に、勤めていた会社は退職し、定時に帰れる職に就いた。粉ミルクで育て、抱っこひもで連れ歩いた長女は2020年に小学生になる。

「元妻には毎年母の日に、娘の名前でメッセージを送っています。返事はあったり、なかったり……。面会交流が子にとって必要だと考え、離婚したときから面会交流を相手に勧めましたが、今のところ元妻が応じたことはありません」

一時期は元妻を憎む気持ちもあったが、この5年間でそうした気持ちは減ったという。

「子どもには父親、母親両方の存在が必要と思っているので、元妻が応じてくれたら子どもにとっていいのに、と思うことはあります。でも、相手を憎む気持ちはもうありません。子どもが幸せに育つことを優先に考えています」

(撮影:茂木良子)

日本だけが単独親権

子どもにとって、離婚した親との幸せな関係はどこにあるのか。

「離婚した父母両方が親としての責任を継続する『共同親権(共同監護)』が世界の潮流となっています。欧米はもちろん、アジアでもその選択が広がっています。しかし、日本の制度は、今でも『単独親権』以外の選択肢がない。その点でガラパゴス化しているとも言えそうです」

そう指摘するのは、家族社会学を専門とする明治学院大学社会学部の野沢慎司教授だ。

明治期に制定された旧民法下では、結婚している夫婦の場合でも子どもは父親の家に属していた(単独親権制)。それが、戦後、男女平等をうたう新憲法下となって、婚姻中の父母が共同で子どもの親権を行使できるようになった。ただし、離婚した場合には、父母のどちらかが親権を失う単独親権制が採用された。

この単独親権という制度が残されたことが、親側のさまざまな問題につながっているという見方もある。

(撮影:茂木良子)

「親権をめぐる苦悩や葛藤、養育費や面会交流をめぐる諍い。あるいは、親権をもつ親がひとりで責任を抱え込んで起こす虐待……。こうした問題の背景には、『単独親権制』の前提にある『離婚したら子どもは一方の親だけのもの』とみなす考え方がある」

そこには、子ども側に立った視点が不足している。親が離婚しようと再婚しようと、子どもにとってはふたりとも親であることに変わりはないからだ。

「そう考えると、子どもが父母のどちらかから切り離されやすい『単独親権制』には、大きな欠陥があることに気づくはずです」

「共同親権」を待ち望む人々

2018年7月15日、読売新聞東京本社版朝刊の1面に「離婚後も『共同親権』検討」という大見出しが躍った。記事によれば、政府は親権制度を見直す民法改正について、2019年にも法制審議会に諮問する見通しだという。

(撮影:茂木良子)

親子の面会交流を実現する全国ネットワーク「親子ネット」の会員が参加するSNSグループは、共同親権を待ち望む親たちの喜びの声で沸き立った。

「早く実現するといい」

「離婚している場合も、申し立てれば共同親権にできるようにしてほしい」

会員の多くは、離婚によって子どもと別れた親たちだ。同会では、離婚した父母が協力して子育てができるようにする「共同養育支援法」の制定を目指して活動している。政府による「共同親権」の検討は、それを「大きく後押しする」と会員たちは期待している。

ただ、DVや虐待がある場合に安易に面会交流を認めると、被害が深刻化するという指摘もある。今後の法整備には慎重な議論が求められている。

(撮影:茂木良子)

子どもにとって最善の選択を

「共同親権」の実現を前に現時点で、親権にこだわらず、共同で子育てをしている「元夫婦」はいる。

広島県在住の石田まりさん(仮名・45)は親権をもたない母親だ。

石田さんが離婚したのは2015年。長女は当時7歳だった。長女はそのまま地元の小学校に通い続けたいと希望。本人の意思を尊重し、親権は元夫がもち、石田さんが家を出た。

しばらく一人暮らしをしていたが、2017年3月、石田さんは離婚した状態のまま元夫と長女が住む家に同居することにした。子どものためには父母のどちらの存在も必要と考え、元夫婦で話し合ったうえでの選択だ。家計は別々。食事は交代で子どもと食べる。3人での外出はする。夫婦の時間はもたない。

(撮影:茂木良子)

籍を抜いて他人になったことで遠慮が生まれ、けんかはなくなったと石田さんは言う。

「娘は離婚したことを理解しており、『お母さんとお父さん、仲良しじゃないよね』などと言いますが、さっぱりしたこの関係に大きなストレスはないようです。先のことは分かりませんが、父母として協力し合って暮らすこのやり方は、いまの私たちには合っていると思います」


すずきまゆみ
1966年、東京都生まれ。大学卒業後、会社員を経てライターとして活動。教育・保育・女性のライフスタイルなど、幅広いテーマでインタビューやルポを手がける。

[写真]撮影:茂木良子
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝
[図版]ラチカ

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