「事実婚」で浮気の慰謝料を請求できる?“フツーの結婚”と違う点

 7月15日、ブロガーのはあちゅうさんとAV男優のしみけんさんが事実婚を発表しました。

二人が付き合っていたことに加え、「事実婚」という選択をしたことに驚いた方も多かったのではないでしょうか? さらに、発表しただけでなく、役所へ行って事実婚の届けを出したという徹底ぶりです。

一見馴染みのない「事実婚」ですが、いったいどのような制度なのでしょうか? メリットやデメリット、法的にどこまで適用されるのかなどを、グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に質問しました。

◆事実婚でできること

まず前提として、事実婚関係が認められるには、①婚姻意思があること②婚姻意思に基づいた共同生活があることが必要とされています。

その上で、役所に届け出たかどうかにかかわらず、事実婚関係と認められることで、法的にできるようになることがいくつかあります。

まずは、相手が不貞行為を働いた場合です。

「事実婚関係であっても、互いに貞操義務(夫婦が相互に負う婚外の第三者と性関係を持たない義務)を負います。なので、相手が不貞行為をした場合、慰謝料などの損害賠償請求ができます」(刈谷龍太弁護士。「」内は以下同)

また、過去の判例では、事実婚関係を解消する場合に財産分与を請求したり、どちらかが交通事故で無くなった場合、加害者へ損害賠償を請求できたこともあります。

さらに近年では、事実婚の妻以外に籍の入っている妻がいた場合でも、事実婚の妻に遺族年金を認めた判決もあります。法律上の籍よりも現在の実態を重視したケースですね。

ちなみに、はあちゅうさんが行った手続きは、住民票の同一世帯として届け出をして、続柄欄に「妻(未届)」と記載するものです。

この手続きを行うことで、社会保険(健康保険・厚生年金)に関しては、籍を入れる結婚と同様に要件(※)さえ満たせば、一方が他方の扶養に入ることができます(※一方が年収130万円未満など、管轄機関に手続きが必要)。

また、裁判になった際に、届け出をしていれば事実婚関係があった証拠として提示しやすいというメリットがあります。

◆事実婚ではできないこと

一方、事実婚では認められていないことは何でしょうか?

「氏の変更、子の嫡出推定、子の共同親権、配偶者相続権は認められません。苗字の変更や、子ども、相続に関することですね」

また、税関係でも認められないことが多いです。

「所得税における配偶者控除や、相続税における配偶者の税額軽減などは適用されません」

これは、日本の税制が徴税しやすいようにと法律婚(籍を入れる婚姻)主義を採用しているためです。

◆子どもができたらどうなるの?

事実婚で子どもが生まれた場合、戸籍や姓はどうなるのでしょうか? また、この場合の親権はどちらになるの?

「まず、事実婚関係で子どもが生まれた場合、非嫡出子(ひちゃくしゅつし=法律上の結婚をしていない男女の子ども)となります。

母親は出産を経験しているため、非嫡出子と親子関係が認められます。しかし父親の場合は親子関係が認められず、『認知』が必要となります。

認知とは法律上で親子関係を発生させることを意味し、認知することによって、子の戸籍の父欄に父親の名前が記載されます」

このように、生まれた直後には父親との親子関係が発生しません。なので、最初は母の氏を名乗り、母の戸籍に入り、母親の親権に服することが原則のようです。

もっとも、父親が認知をすれば子どもは父の氏を名乗ることができますし(裁判所の許可が必要)、父母の協議の上に父を親権者にすることもできます。

◆事実婚関係で浮気・不倫をされたら慰謝料を請求できる?

籍が入っていない事実婚で、浮気や不倫をされたら……。事実婚だとしても、慰謝料を請求できるのでしょうか?

「前述のとおり、事実婚関係であっても貞操義務は認められます。なので相手が不貞行為を行った場合、慰謝料などの損害賠償を請求できます」

さらに関係がこじれ、事実婚を解消する場合、財産分与を請求できるという判例が出たこともあるようです。

◆事実婚相手が亡くなったら…?

万が一、事実婚相手が亡くなったら……。相続やお墓関係はどうなるのでしょう?

「一方が死亡した場合、配偶者相続権は認められません。ですので、他方に財産を渡したい場合は、事前の対策として生前贈与をすることが考えられます。

また、遺言によって財産を遺すことも考えらえれます。ただ、遺贈の場合は、他の相続人から遺留分(相続人が最低限相続できる財産)を請求される可能性があります」

いくら遺言状を残していたとしても、他の相続人とトラブルになることが多そうですね。また、お墓などの財産はどうなるのでしょうか?

「お墓や仏壇など祭祀財産といわれるものについては、被相続人が指定した場合、その者が承継するとされています」

慣習に従って主宰すべき者が承継するのが原則とされていますが、絶対というわけではないようです。

はあちゅうさんの発表により、注目を浴びる“事実婚”という生き方。今回の出来事を機に、選択肢の一つとして考える人が増えるかもしれません。

【刈谷龍太(かりや りょうた)弁護士】

1983年千葉県生まれ。中央大学法科大学院 修了。2014年に新宿で弁護士法人グラディアトル法律事務所を創立。代表弁護士として日々の業務に勤しむほか、メディア出演やコラムの執筆などを行う。男女トラブル、労働事件、ネットトラブルなどの依頼のほか、企業法務においても顕著な活躍を残す。

<文/女子SPA!編集部>

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