【ニッポンの議論】「法的制度の構築不可欠」「導入には多くのリスク」…共同親権導入是か非か (1/4ページ)

小田切さんは、実子誘拐と実効支配が放置された中での「選択的」制度の導入の意味がわかってませんし、千田さんは、DVに関する制度上の手続きの不備の問題と、当事者の主観の問題がわかっていません(なので実態が不明と言って、手続き論から目をそらせようとします)。残念なことに、千田さんは男は加害者というバイアスから抜け出ることができずに、認識不足・調査不足を補えない、研究者としては残念な方です(よくいる普通の人です)。

https://www.sankeibiz.jp/econome/news/180701/ecc1807011313001-n1.htm

武蔵大学の千田有紀教授(左、桐山弘太撮影)と東京国際大学の小田切紀子教授(右、小野田雄一撮影)
武蔵大学の千田有紀教授(左、桐山弘太撮影)と東京国際大学の小田切紀子教授(右、小野田雄一撮影)【拡大】

 離婚する夫婦の増加とともに、子供の親権をめぐる配偶者間の紛争が増えている。親権争いで優位に立つため、子供の“連れ去り”や、家庭内暴力(DV)の捏造の横行なども指摘されている。こうした中、これらの問題を解消し、積極的な「面会交流」の実施などで親子の断絶を防ぐ方策として、日本にも共同親権を導入すべきだとの声が強まっている。共同親権導入は是か非か-。家族問題に詳しい東京国際大の小田切紀子教授と武蔵大の千田有紀教授に聞いた。(小野田雄一)

 東京国際大教授 小田切紀子氏

-なぜ日本は先進国で唯一、単独親権を採用しているのか

「日本的な家父長制の伝統を反映したものだ。第二次大戦前の家父長制では、子供は家、すなわち家長である父親に属すものであり、夫婦が離婚すれば妻は子供を置いて家を出るのが普通だった。先の大戦後、男女平等がうたわれ、さらに世界的な女性権利拡大運動の動きが高まった。その結果、離婚や別居後も父親と母親が子育てに関わるようになった。しかしそうした変化はあったものの、伝統も重視され、単独親権制度は改められてこなかった」

--近年、親権争いで優位に立つため、子供を相手親に黙って連れ去ったり、相手親による虚偽のDVを訴えたりする事例が社会問題化している

「親権争いが起きた際、裁判所は従来、子供は母親が育てる方が望ましいとする『母性優先の原則』や、現在の養育環境を変えるのは子供の利益に反するとする『継続性の原則』などを重視して判断してきた。しかしその結果、そうした判断基準を逆手に取り、親権を得るために“子供を連れ去り、その理由として相手親のDVをでっち上げる”という手法が横行するようになった。こうした事態は、本当にDVに悩む被害者の救済にも悪影響を及ぼす。社会的に問題が認識され始めたのは良いことだ」

--子供の連れ去りや配偶者間紛争の深刻化の防止、別居親と子供を定期的に会わせる面会交流の円滑な実施のためにも、日本は共同親権を導入すべきだという声がある。欧米での共同親権とはどのようなものか

 「子供は両親からの愛情を受ける方が心身ともに健康に育つという科学的知見に基づくものだ。ただし注意すべきは、欧米でも『選択的共同親権』だということだ。DVや深刻な薬物依存などの問題を抱えた親がいる場合は、単独親権が選択されたり、面会交流が制限されたりする。しかし日本では、親権とは『親の子供に対する権利』だと考えられがちだ。そのため配偶者間で親権の奪い合いが起きやすい。しかし欧米では、親権とは『子供を監護・教育する義務』とされる。だから両親が持つのは当然だと考えられている」

--日本も今後、共同親権の導入を検討すべきか

「親権をめぐる対立を防ぐためにも将来的には導入が望ましい。共同親権とは要するに、配偶者間の葛藤が強い場合でも、『子供に関しては、父親と母親が協力して育てましょう』という制度だ。ただし、導入の前提として、共同親権を支える法的制度の整備が不可欠だ。面会交流時に子供の安全を守るための公的機関の関与制度や、金銭トラブルを防ぐための国による養育費の立て替え制度など、整えるべき社会インフラは多い」

武蔵大教授 千田有紀氏

 --親権をめぐる配偶者間の争いは従来、母親側が有利とされてきた。しかし最近は父親側に有利な判例が出るなど、潮流が変化している

「母性優先の原則の消滅は国際的な潮流だ。以前は父親しか取れなかった親権が、先の大戦後、母親にも拡大された。諸外国ではその後、共働きモデルへの転換があり、父親の権利拡大運動が起きた。日本でもここ10年ほどで同様の転換があった。現在は親権者決定に際して養育環境など多くの要素が考慮されており、母親という性別に親権が与えられているわけではない」

--父親が「母親に子供を連れ去られた上にDVを捏造され、不当に親権を奪われた」と主張する事例が多い

「虚偽のDVや『親権を不当に奪われる』ケースがどれほどあるのかは不明なのが実情だ。DVの線引きは容易ではないという問題もある。加害者にDVをしている認識がない場合や、被害者がDVを受けていると認識しておらず、DVチェックリストなどを見て初めてDV被害に気付く場合もある」

--国内外から「誘拐である子供の連れ去りを日本は容認している」との批判も出ている

「ある意味で一面的な見方だ。欧米では、裁判所の命令などによりDV加害者を自宅から引き離す法律が制定されている。しかし日本ではDV被害者は自ら自宅から避難するしかない。その際、子供を置いていけばネグレクト(育児放棄)になってしまう」

--共同親権が導入された場合、別居親と子供の面会交流の原則的義務化が同居親に課される可能性がある

 「機械的な面会交流の実施は危惧する。暴力や虐待の問題が懸念されるためだ。さらに子供が別居親と会うことを嫌がっている中で裁判所が面会交流を命じると、将来的に関係が破綻しやすいという米国の調査もある。別居親が子供に会いたいと思うのは当然だが、一歩引くことが長期的には良い関係構築につながることもある」

--共同親権の導入については

「安易な導入には賛同できない。欧米とは異なり、離婚は避けるべきものと考える風潮が今も強い日本で離婚や別居に至るのは、配偶者仲が相当行き詰まり、強度の紛争状態に陥っている場合が多い。相手への未練や憎しみが募っている状態で『子供のためだけには協力しよう』と合意するのは難しい。面会時に配偶者や子供に危害が加えられる恐れがあり、実際に殺人事件も起きている。また、子供を監護していない別居親に法的な権利を与えることの是非の問題もある。離婚・別居後の子供との関係は個別ケースごとに考えるべきだ。個々の親の監護のあり方を第三者が監視・介入する制度がほぼ存在しない現状で、共同親権を法制度として導入するのはリスクが高い」

【プロフィール】

〈おだぎり・のりこ〉昭和36年、東京都出身。東京都立大(現首都大学東京)大学院人文科学研究科博士課程修了。児童相談所心理判定員などを経て、東京国際大人間社会学部教授。著書に「家族の心理」など。

〈せんだ・ゆき〉昭和43年、大阪府出身。東大大学院人文社会系研究科博士課程修了。東京外大准教授などを経て、武蔵大社会学部教授。専門は家族社会学。著書に「日本型近代家族」「女性学/男性学」など。

6年前