アルノー・ヴォレラン 2018年01月29日
http://www.liberation.fr/planete/2018/01/29/japon-enfants-confisques-parents-abandonnes_1626000
離婚の場合、大勢の親 — 特に西洋人が無力となる。多くの子どもが自分の父親または母親に「さわれてしまう」が、行政側は立ち入らない。支援団体らが警鐘を鳴らす。
文:アルノー・ヴォレラン
普段は犯罪、マフィアの陰謀、戦時などに使われる用語が、親権や往訪権を奪われ、我が子と引き離された親の口から最近よく聞かれるようになった。日本と諸外国の狭間で起きている苦痛や沈黙、不正について語る時、親たちは「人質」、「誘拐」、「侵害」、「さらう」という言葉を用いる。『日本の法律における官僚制度』による不履行の犠牲となっている子どもの数は、二重国籍だと数百人、日本国籍のみだと数万人にも及ぶ。NPO法人「絆」代表のジョン・ゴメスさんは、子どもがニ人の両親に会える権利を守るために闘っている。『日本における子どもの権利と幸福の無視』として、米国出身のゴメスさんは言葉を濁すことなく、置き去りになってしまった親の現状、その親たちの頼る伝手がないことに警鐘を鳴らす。
1月25日、上院議員リシャール・ユング氏は、日本在住のフランス人が親としての権利を行使できず、困難に立ち向かっている問題について、フランス政府に提議した。フランス欧州・外務大臣ジャン=イヴ・ル・ドリアン氏の注意を引くためのことの質疑だった。
「もう二度と会えない」
フランス人のエマニュエル・ドゥ・フォルナスさんも、その一人だ。2015年6月7日以来、2012年1月生まれの(当時三歳の)娘クレアに会っていない。オーガニック製品を取り扱う会社の元社長であるドゥ・フォルナスさんは、2011年に日本人女性と結婚した。数年間タイで一緒に暮らした後、2014年に離婚した。母親は娘のクレアを連れて日本に戻り、ドゥ・フォルナスさんは幼い娘と連絡が取り合えるよう、タイと日本の往来を繰り返した。しかし、健康面や家族間の緊張が高まる中、日仏両国の法廷、弁護士、警察なども巻き込んだ長い法手続にもつれ込んだ。
地獄への階段を下りるように、2015年5月ドゥ・フォルナスさんは日本で23日間拘留された。その間ドゥ・フォルナスさんは隔離監禁、DNA鑑定や肛門検査も被る。ハラスメント行為で告発され、娘の誘拐まで容疑された。現在南仏トゥールーズ市に住むドゥ・フォルナスさんは、「私は有罪とみなされ、基本的人権の空白に陥ったようでした。警察官から、『娘が誘拐された瞬間から、二度と娘には会えない。日本ではそういう仕組みになっているんだ』とまで言われました。」と語る。
匿名希望の日本外交官は、文化背景をこう説明する。「親と離れ離れにされてしまった子どもの問題が日本で認識されたのは、ごく最近のことです。民法では、原則的に共同親権は認められていません。一般的に家庭はニ人の親と子どもで構成されます。この構成が離婚により崩れると、子どもはどちらかの親の『所有』となります。もちろん双方がそれに同意することもあります。」が、実際はそんな簡単ではない。
一番多いのはアメリカ人、イギリス人、オーストラリア人、イタリア人を含むケースだ。フランスの司法省によると、「日仏間でハーグ条約が有効となった2014年4月1日時点より14件の事例」が正式に把握されている。
この論争がはじまってから30年の間に、3人の親が自殺まで追い込まれた。今年、日本では国境を超えた子どもの誘拐に関して記述されたハーグ条約が批准されることになった。この条約は「全ての締約国において、不法に連れ去られた、または留置された子どもを直ちに返還することを保証し、親権と往訪権を有効的に尊重すること」を目的としている。各署名国の責任については明白且つ明確に書かれているが、本紙が取材したフランス人、アメリカ人、イギリス人の親たちは「日本はハーグ条約を尊重していない」と言う。それだけではなく、「二重国籍の子ども達がおかれている悲劇的な状況を無視」し、「日本人親のためだけに利用している」と、自分たちの立場を弁護するフランス人親たちは言う。
「残念ながら、日本はハーグ条約に記述されている義務を果たしていないと認めざるを得ない。さらに往訪権の実践では、日本人親の善意に頼らざるを得ない事態が続いていることは、誠に遺憾である」と、ユング氏は先週の上院議会で指摘した。
訴訟手続きの闘い
12月末、フランス人による「我が子を救おう ー 日本」というグループが結成された。在外フランス人議会議員(犬塚エブリーヌ氏、ティエリー・コンシニ氏)や国会議員たちと面談し、グループの運動に関心を抱いてくれる領事館や大使館の門を叩いている。メンバーたちは、日本が条約を尊重していないことを訴え、二重国籍の子どもに対する他国からの返還命令を日本の当局が執行していないことを、証明するため活動している。しかし最悪なことに、12月21日、法廷で出された返還命令を最高裁判所が覆す事態が起きた。4人の子どもを元妻にさらわれたアメリカ人のジェームズ・クックさんは、それまでに勝ち取ってきた複数の返還命令を取り消されたのだ。この一連の出来事は、我が子を奪われた親にとって恐ろしい警鐘となった。
フランス人のアビガエル・モルレさんは同じ事態が自分にも起きることを危惧している。2007年と2009年、日本人夫との間に子どもが生まれたのだが、夫とは離婚することになった。その後、「異常なナルシスト」である夫との訴訟手続きにおける闘いが始まった。モルレさんは単独親権とフランスでの監護権を勝ち取ったが、訴訟手続き中、夫が往訪権と宿泊の権利の含まれた共同親権を獲得した。「子ども達が日本に行ったら、もう二度と会えません。子ども達の父親は、私の往訪権や宿泊の権利を尊重せず、フランスに返してくれないリスクが高いのです。返還義務があっても日本の警察は、頼りにはなりません。玄関のチャイムを鳴らして相手が拒否したら、何もしないで帰ってしまいます。私自身も日本に行けば逮捕され、23日間拘留されるでしょう」と、元教師のモルレさんは確信している。11月、12月にフランスに来て子ども達と会うよう元夫に提案したが、断られた。息子と娘を、父親に返還する命令が法廷でくだされるのではないかと怯えながら生きている。
日本の当局は消極的な姿勢を崩さない。外務省内に監視委員会を設けたが、前出の外交官はハーグ条約の問題をこう究明する。「私が理解する限りでは、条約が適用されていないことが問題なのではありません。むしろ履行するにあたり、その対応の遅さと締まりの無さが問題だと考えています。何よりも、法的逮捕[返還命令 — 編集後記]を担当する警察官は、このようなことに不慣れです。民事や家庭の複雑な問題に敏速且つ強制的に介入することに二の足を踏みます。」
しかし、何人かの親や専門家の意見から、「問題の根幹は法律にある」とNPO法人「絆」代表のゴメスさんは分析する。10年来、辛い事例と闘ってきたアメリカ人のゴメスさんは、「問題は『継続性の原則』の捉え方です。子どもはさらった親と一緒にいるべき、と裁判官は考えています。つまり、誘拐を認め、批准していることになります。」と説明する。文化的背景の解釈も、男女問わず外国人に対する差別の可能性も一蹴されてしまう。10年にわたり運動を続けてきた中、あらゆる種類の、あらゆるジャンルの、そしてあらゆる国籍の被害者と会い、「日本における正真正銘の人権侵害」という結論にたどり着いた。ゴメスさんによると、官庁統計が発表している離婚の数と出生率を見る限り、毎年最大15万人の子どもが両親の離婚後、どちらかの親と会えなくなっている。
声を届ける
東京の郊外に住むフランス人のステファン・ランベルさんも、同じ経験を持つ。日本人の妻と出会い、2012年に生まれた息子のナタンと三人で海外で生活していた。2013年2月に日本に戻ったが、2年半後に母親が子どもをさらった。ランベルさんは苦戦の結果、横浜裁判所から月に4時間の往訪権を得たが、母親は引っ越してしまい、ランベルさんは「発達障害」を被っていた息子の行方が分からなくなってしまった。警察に助けを求めたが、門前払いされてしまう。フランス領事館の門も叩いたが、「日本は主権国だ、何もできない」と言われた。途方に暮れ無一文となったランベルさんはフランス人親グループに加わった。
本記事で取り上げた親たちは、自分たちの声を届けるため、攻勢に出ようとしている。在外フランス人議会アジア太平洋地域代表のアンヌ・ジュヌテ氏と話し合い、「権利の有効的な履行」を求めたが、「日本の扉を閉じてしまうような攻撃的な交渉」は避けるよう、促された。上院議員ユング氏は外務省に対し、「日仏の夫婦間に生まれた子ども達の利権の尊重を案じて[中略]、他国との外交を持つフランスとしては、日本とは新しい取り組みを始めないよう」求めた。
この親たちは今、世間が聞いてくれるまで声を荒げる以外、選択肢が無い。それが我が子に会うために残された唯一の希望である。