夫婦関係の悪化から、離婚後に子どもと会えない親の思いとは(写真はイメージです=PIXTA)
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「子ども連れ去られてしまったら…」自ら家を出た
関東在住、40代の会社員・武志さん(仮名)は数年前、ひとり、家を出ました。別居後に申し立てた調停中に面会して以来、小学生の娘とは1年半近く会えていません。
面会を求める調停中に会って以来、娘とは断絶されたままという(写真はイメージです=PIXTA)
「いろいろ手策は施してきたつもり」と武志さんは振り返ります。娘が生まれ、家を購入し、少しずつ紡いでいると思われた家族の形。しかし、それはいつの間にか武志さんの心をすり減らし、元妻にとっても満足し続けられるものではありませんでした。
家を出る直前の時期に撮っていたという動画には、「お前と離婚さえできれば」「子ども連れていなくなるわ」--大きな声で武志さんを罵倒し、壁を叩いたり、ものを投げたりする元妻の姿が映っていました。中から鍵をかけられ、家に入れてもらえなかったこともあったといいます。とても冷静な話し合いができる状態ではありませんでした。
元妻の言葉に武志さんが危惧していたのは、「突然の子連れ別居」です。家を出た妻子の所在がわからなくなり、それ以降子どもと断絶される事例があることを知っていました。
武志さんは「いつ出て行かれるか」という不安が消えなかったと話す(写真はイメージです=PIXTA)
「僕が子どもを連れて家を出て行くという選択もありました。ただ子どもには直接危害がなかったことと、転校などで環境を変えて負担をかけることはしたくありませんでした」
離婚は微減、でも増え続ける「会いたい親」
親権の要求はしたものの、「勝てないことはわかっていた」と話します。武志さんが離婚とともに話し合いたかったのは、子どもとの「面会交流」でした。
「面会交流」とは、別居や離婚で、子どもと離れて暮らす親が子どもと会うことです。
「例え一緒に暮らせなくても、養育に関わりたい。養育費を払うだけではなく、勉強を教えたり、将来のことを考えたり、娘を見守っていきたいんです」(武志さん)
離婚件数が微減している中で、面会交流を求める調停件数は年々増加しています。2016年度は約1万2千件で、10年間で2.3倍になりました。
これに対し、養育費の調停件数も増えていますが、10年間で1.3倍で、ここ数年はほぼ横ばいです。2016年度に終了した面会交流の審判と調停の件数で見ると、7割超が父親からの申し立てでした。
「子どもに会いたい父親」の背景には、何があるのでしょうか。
これまで性別役割分業の考え方で、父親は外でお金を稼ぐのが仕事とされていました。共働きの増加から、子どもが幼い頃から育児参加する父親が増え、父親の意識が家の中へ払われるようになってきました。
「少子化でひとりっ子を持つ核家族も増えており、父母ともに子どもひとりに対する執着度が強くなっている」と棚村教授は分析します。
早稲田大学の棚村教授
「夫婦の別れが、親子の別れになってしまうのです」(棚村教授)
面会交流を求めた武志さんですが、元妻は「子どもが会いたがっていない」と主張し、1度目の離婚調停は不調に。その後も面会交流を焦点に、調停は難航します。
「もうあの時間は取り戻せない」
面会交流の頻度は決めることができませんでしたが、段階を経て実施するよう合意。このとき、家を出て別居を始めてから3年が経とうとしていました。
「なんで早期解決できないんだろう、調停も1~2カ月に1回でしか行われなくて……。長期の裁判に巻き込まれた子どものダメージははかりしれないし、もう取り戻せない」
声を震わせて語る武志さんのスマートフォンの待ち受けには、「元妻にやっと送ってもらった」という娘の写真が設定されていました。別居当時は小食でやせ型なのが心配だったという娘の顔は、少しふっくらして、顔つきも大人に近付いていました。
「もしも会えるようになったら、ちゃんと謝りたい。家を出たことも『娘のせいじゃないよ』って伝えたい。いつかわかってもらえればいいなと思います」
「娘のせいじゃないよ、と伝えたい」と武志さんは話す(写真はイメージです=PIXTA)