男性のDV被害者が加害者にされるおそろしい実態(後編)

子どもを親から引き離す親に親権を与える

しかし、裁判所に行けばさすがに母親側の暴力が認められ、親権者としては不適格なので、木下さんのもとに子どもが返ってくると思うかもしれない。

実際には昨年末、木下さんは、妻の弁護士から受任通知が届いて離婚調停を申し立てられている。木下さんも弁護士を見つけて子の親権・監護権を争っている。ところが家庭裁判所に行くと、裁判官は木下さんの訴えを取りあげようとする気すらなく、仕方なく木下さんは検察に告訴したのだ。妻の不法性を認定させなければ、家庭裁判所では子どもの親権どころか、会うことすら適わないと思い知ったからだ。

どうしてそうなるのだろうか。

実は家庭裁判所では親権の帰属の判断は、子どもを確保しているほうに圧倒的に有利だ。法律家たちは「監護の継続性の原則」と口当たりのいい言葉を選びたがるが、実際のところ領土問題と同じ「実効支配」が原則である。むしろ、子どもを引き離したほうにご褒美に親権を与える、「断絶性の原則」と呼んだほうが実態に近い。

したがって、弁護士や女性支援の団体がホームページに、「親権がほしければ子どもを連れて家を出ろ」と堂々と誘拐を指南することになる。余談だが、私が所属する別居親の団体では、この点について具体的に弁護士事務所名を挙げて日弁連に問いただしたことが、まともに取りあわれなかった。

本当のところ、DVの被害を受けているのなら、身一つで逃げて子どもと一時的に離れても、再び子どもと暮らせるようになるべきである。暴力の被害者に子どもの保護の役割まで負わせるのはいかがなものだろうか。それもこれも「実効支配」が原則でなされているが故に生じる事態と考えると納得がいく。

単独親権しか選択肢がない

さらに、日本の離婚後の子の養育形態は、共同親権が適用される欧米各国や韓国などと違い、どちらかに親権者を指定しなければならない単独親権制度を取っている。親権指定と言えば聞こえはいいが、両方の親が子どもの養育の継続を望む場合は、一方の親の親権をはく奪して養育の機会を奪ってしまう。

裁判所や行政機関では「親権がない」ことを理由に、親としての法的な権利を軽視する傾向があるため、子と引き離される恐怖から子の奪い合いが熾烈化してしまうのだ。そして、先のDV法の運用のデタラメさと相まって、DVのでっち上げがその過程で乱発されることになる。木下さんも妻からは身に覚えのないDVを言い立てられていたが、どちらにせよ実効支配しか裁判所は念頭にないので、事実関係を問いただすことすらしなかったという。

それでも4月になり、家庭裁判所で木下さんは5カ月ぶりに子どもと30分間だけ会うことが可能になっている。ところが、着ているものも汚れ、オムツはびしょびしょで表情を失った息子さんを見て、木下さんは愕然とした。

子どもから親を奪う制度の残酷さ

実は、木下さんの妻が子どもの面倒を見ている間に、息子は顎に切り傷を生じさせていたことがあり、木下さんは妻の息子さんへの暴力を疑っている。木下さんによれば、昨年11月の事件も、木下さんが息子さんの怪我について、妻に対して「DVしてたんだよね」と問いただしたことをきっかけにして起きている。問いただされた妻は様子が変わり、木下さんは息子さんの身を案じて抱えて逃げたことで、妻が激高した末に木下さんは刺されている。腕が刺されたのは、息子の足を刺されないように右手でかばったからだ。木下さんだけでなく、息子さんも頭を2回拳で殴られている。現場の子の奪い合いが暴力を引き起こしたとも言えるが、介入する手段は妻を被害者として逃がして親権者とし、よくて月に一度木下さんに子どもを会わせるというものしか用意されていなかったのだ。

妻に追いかけられている間に、木下さんは以前から相談している人に助けを求め、その方が窓の外から、木下さんが刺された瞬間を目撃している。あまりの恐怖に見たことを一人で抱え込み、2週間後に勇を鼓して警察に事情を話したものの、やはり取りあわれなかった。警察としては、木下さんや目撃者の言を入れて事件にすれば、妻を被害者として逃がした自分たちの対応が間違っていたことになる。とはいっても、警察がDV案件としての一般的なマニュアルを踏み外していたかと言えば、そうとも言えない。

もちろん木下さんの息子さんも、ウソによって、守ってくれるべき父親と引き離され、母親と一対一の生活を送らざるをえなくなり、自分は被害者だとは感じないままに成長していくかもしれない。

しかしながら、木下さんの息子さんのような子どもは、残念ながら世の中にはたくさんいる。(宗像 充)

7年前