毎日新聞:論点 離婚後の親子面会交流

https://mainichi.jp/articles/20170407/ddm/004/070/019000c

論点 離婚後の親子面会交流

毎日新聞2017年4月7日 東京朝刊

 婚姻件数と離婚件数の比較から3組に1組が離婚するとも言われる時代、離婚した親と子どもとの面会交流のあり方が論議を呼ぶ。離婚後の別居親と子の面会交流を促す「親子断絶防止法案」が国会で議論されようとしている。「親子の交流は重要」と主張する推進派に対し、児童虐待やDV被害者への配慮が足りないと法制化を懸念する声は根強い。その議論は「家族とはなにか」を問うている。

父母対立激しい時 子に有害 小川富之・福岡大法科大学院教授

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 親が離婚しても、両親と継続的に交流することが子の利益になる。だから親はその責任を果たすべきだ--。親子断絶防止法案のこうした理念は一般的に好ましく聞こえるが、法制化には賛成できない。父母が合意して面会交流できている親子には必要がないうえ、父母間の対立が激しく、家族関係に問題を抱える親子の場合には子の心身に深刻な影響を与える。

 法案は、夫婦が離婚後も子を共同で監護し、子と緊密に交流しているとされる欧米の取り組みや研究を参考に作られた。だが今、その弊害が注目されている。

 オーストラリアでは2006年、離婚後も両親が均等に子の養育にかかわることが望ましいとの理念を基に家族法が改正されたが、別居親が権利を主張しやすくなったために父母間の対立が激化し、深刻な問題が起きた。元配偶者の暴力や児童虐待を理由に面会を制限したくても、証明できなければ「相手方に協力的ではない」とされ、最悪の場合は子を育てられなくなる。そのため暴力の主張を控える親が続出した。父親が面会中の子を殺害する事件も起き、11年には父母に暴力に関する告知義務を課すなど子の安全を重視する方向で再改正された。また米国の研究では、父母間の対立が激しい場合、裁判で決められた厳密なルールによる交流がかえって子に有害であることが報告されている。

 日本では既に13年ごろから家庭裁判所の実務で、別居親と子の面会交流を原則として認める考え方が主流になってきた。昨年の千葉家裁松戸支部判決のように相手方と子の交流に協力的かどうかを親権者を決める要因として考慮したり、面会に応じない同居親に高額な制裁金の支払いを命じたりする判断も出ている。

 家裁が関与する離婚ではDVや虐待が主張されるケースは多いが、立証は必ずしも容易ではない。日本は欧米と比べ、DV被害者の保護施策が乏しく、離婚前後の家族への相談支援体制も不十分だ。今年1月には長崎市で、長男の面会交流のために元夫宅に行った女性が殺害される事件も起きた。こうした中で法案が成立し、面会を促進する流れがさらに強まれば、子の安全が脅かされる。法案はDVや虐待への配慮規定を置くが、「継続的な交流が子の最善の利益になる」との基本理念を明記する限り、不安はぬぐえない。

 また法案は、離婚前に相手方に無断で子連れ別居をさせないよう努める責任を国に課す。だが、話し合いもできないほど激しい夫婦間の紛争から家を出る必要があり、子を置いていけば養育環境が不安定になるなど、やむを得ない場合はある。別居が認められるかは、子の利益の観点からケース・バイ・ケースで判断されるべきだ。ハーグ条約は、子がそれまで住んでいた国の裁判所で事件を扱うためのルールで、国内の子連れ別居とは別問題だ。

 ただ離婚時の面会交流の取り決め率が約6割という現状は改善すべきだ。行政による啓発や必要とされる面会交流支援、相談体制の充実は急務で、それらを実現するための法案こそが求められている。【聞き手・反橋希美】
子どもが決められるように 光本歩・NPO法人ウィーズ副理事長

 離婚した両親との関わり方は、子ども自身が決められるようにすべきだ。私も中学生のころに両親が離婚し、父子家庭で育ったが、父に対しては母との関係をコントロールされたくないという思いが強かった。どんな親であっても、子が親の実像を自分の目で見ることが、離婚や自らの状況を理解して人生を歩んでいくために必要なステップになる。

 議論されている親子断絶防止法案は、離婚に際して親が子に果たすべき責任を社会に示す意義はある。修正案で「子どもの意見表明機会の確保」などが盛り込まれた点も評価する。ただ、本当に子の利益になる面会交流を実現していくための課題は山積している。

 両親の関係が険悪であるほど、面会交流の円滑な実施には、第三者の介入が欠かせない。不信感や敵意を抱き合う父母の間を行き交うことは子の大きな負担になる。味方になる存在が必要だ。NPOで面会交流を支援する活動に取り組んでいるが、会話ができる3歳以上の子どもの支援では、まずスタッフが一対一で面談し、信頼関係を築くことを重視する。別居親や交流への思い、面会を重ねる中で子どもにどんな変化があるかを注意深く見ていく必要がある。

 支援で重要性を痛感させられるのが、親の合意形成だ。交流がうまくいった事例を紹介したい。

 両親は40代で子は3歳。両親は離婚裁判の中で、双方の弁護士の支援を受けて長期的できめ細かな面会計画を作った。「第三者が付き添う交流を3回行って問題がなければ、付き添いはなくし、第三者は連絡調整や子どもの受け渡しを担当する」との内容だ。別居親は充実した面会に努力するし、同居親も先を見据えて心の準備ができる。両親が子に無理をかけないで段階的に交流を進めていく重要性を認識していたことも大きい。

 支援が難航するケースは合意形成が不十分で「月1回、2時間」などと面会の取り決めが大ざっぱなことも多い。家庭裁判所や弁護士会には、児童心理に配慮したきめ細かな合意形成の支援と、そのための人材育成をお願いしたい。

 面会交流のあり方は一様ではない。別居親が子と心中を図ったケース(未遂)では、裁判で直接の面会は危険だと判断され、手紙のやり取りにとどめる間接面会が決まった。NPOが間に立ち、手紙の内容の点検や受け渡しを担ったが、子どもの手紙からも親とつながっている安心感が読み取れた。子が自分の意思で親とどう関係するかを判断できる段階になるまで、親子を仲介する存在が必要だ。

 現状は、面会交流が当事者に任されているケースが大多数で、トラブルや面会不調につながっている。支援団体は少なく面会交流の考え方や支援方法もさまざまだ。行政が事業委託して無料で支援を受けられる自治体もあるが、団体への補助金はなく、交流支援だけでは財政的に運営が成り立たない。面会交流はどうあるべきか、どんな政策や公的援助が望ましいかといった点で社会的なコンセンサスが必要だ。法案がきっかけになり、離婚後の子の養育について議論がより深まることを期待したい。【聞き手・中川聡子】
立法化で国に施策促す 馳浩・衆院議員、親子断絶防止議員連盟事務局長

 厚生労働省の調査では、2015年の離婚件数22万6215件のうち、未成年の子どもがいるのは13万2166件。毎年20万人以上の子どもが親の離婚を経験し、そのうちの多くが別居親との関係を絶たれている。離婚の9割を占める協議離婚では、面会交流について取り決めを交わすことは求められていない。だが子どもの権利条約にある「子どもの最善の利益」を考慮した場合、このままでいいのだろうか。子どもの立場に立てば、双方の親と面会交流して愛情を受け続けることが必要だ。離婚後もきちんと子どものことを考えることは親の責任でもある。そうした問題意識をもとに当事者の声を聞き、昨年12月に親子断絶防止法案の修正案を議員連盟でまとめた。

 離婚後に親が子どもに対して持つ責任は二つある。まずは養育費の支払いだ。経済的な不安や負担を解消する責任がある。次に面会交流だ。子どもに関心を持ち続けることは親の責任であり、「学校での様子を先生に聞きたい」などの望みを持つ親も多い。養育費の支払いや回収については「母子及び父子並びに寡婦福祉法」で規定されているが、面会交流にはルールがなかった。当事者間の話し合いが難しいなら第三者や専門家が関与できるよう土俵づくりを進める一環として今回の法案がある。

 法案は面会交流について「書面による取り決めを行うよう努めるものとする」との文面にして、あくまで努力目標にとどめた。この点について、賛否双方の立場から「実効性がないのでは」との批判をいただいている。だが、離婚の事情は100人いれば100通りあり、義務化は難しい。一方で、片方の親が一方的に「DVがあった」と言って無断で子どもを連れ去り、もう一方の親と関係が途絶える事態が起きている中で、何もルールがなくていいのか。私はそうは思わない。当事者に任せれば議論は平行線をたどるだけだ。

 14年には国境を越えた子の連れ去り防止を定めた「ハーグ条約」に加盟したが、国内での体制が整備されていなかった。やはり第三者が早期に介入する必要がある。法案は罰則を持たない理念法だが、理念を掲げることで国、地方自治体に相談体制や人材育成などの施策を促す効果は大きい。

 法案に対しては「別居親たちの考えしか聞いていない」という批判もあるが、間違っている。私は10年以上前から児童虐待やDVの問題に関わり、離婚後の面会交流に対する支援が不十分だと実感してきた。原案を作った上で、懸念を表明する方々にも十分に話を聞き、文面に多くの修正を加えた。例えば「本当にDVに遭っている被害者はどうするのか」という指摘があるが、そうした声を反映し、一方的な子連れ別居について国に求められる啓発活動の目標を「早期解消」から「早期解消もしくは改善」と改めた。DV被害者の緊急避難は否定していない。

 法案は各党が意見を出す回答を待って最終案をまとめたい。会期中である以上は今国会への提出を目指すが、合意形成が大事だ。決して今国会での「成立ありき」で考えているわけではない。【聞き手・伊藤直孝】
親子断絶防止法案

 「父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する法律案」。超党派の親子断絶防止議員連盟(会長・保岡興治元法相)が昨年5月に原案をまとめ、当事者団体などのヒアリングを経て12月に修正案を公表した。離婚時に面会交流や養育費負担について取り決めることを努力目標とする。親子の継続的な関係を維持するための施策を国や自治体の責務とし、相談対応や情報提供などの援助策を講じるように求める。

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 ■人物略歴
おがわ・とみゆき

 1956年生まれ。広島大卒。専門は家族法の比較法研究。アジア太平洋法律協会(LAWASIA)家族法部会長、国際家庭裁判所・調停裁判所協会(AFCC)執行理事などを歴任。

 ■人物略歴
みつもと・あゆみ

 1988年生まれ。2009年よりひとり親家庭の子どもの学習支援を始め、現在はNPO法人「ウィーズ」で離婚家庭の面会交流支援にも当たる。第3次静岡県ひとり親家庭自立促進計画検討委員も務めた。

 ■人物略歴
はせ・ひろし

 1961年生まれ。自民党衆院議員。専修大卒業後、国語教諭を務めながらレスリングでロス五輪に出場。85年にプロレス転向。95年に参院選初当選。2000年から衆院に転じ、15、16年に文部科学相。

5か月前