面会交流によって、アメリカでは年間何十人もの子どもが殺されている

https://news.yahoo.co.jp/byline/sendayuki/20170228-00068182/

面会交流によって、アメリカでは年間何十人もの子どもが殺されている
千田有紀 | 武蔵大学社会学部教授(社会学)
2/28(火) 6:38

父親に殺害され放火された5歳のクィンちゃん。フェイスブックからの転載を転載

長崎で今年の1月、元夫によるとみられる「面会交流殺人」事件が起った。元妻は警察に、離婚後すぐに始まったストーカー行為と脅迫を相談し、面会交流の取り決めについても告げていたが、子どもを会わせるために連れて行った際に殺害された。元夫は、子どもと同じ家屋で自殺している(長崎のストーカーの元夫による「面会交流」殺人事件、警察は何ができたのか)*。

この事件は、たまたまの偶然に起こった悲劇なのだろうかーーその疑問が頭から離れず、外国について調べてみることにした。有益なデータベースがあった。dastardlydads。2009年の6月から、2016年の7月までに、アメリカで新聞報道された父親と子どもの虐待に関する事件は、10500件ほどにもおよぶ。報道されたもののうち、8~9割はアメリカを舞台にしたものだ。そして、家庭裁判所や、ソーシャルサービス、各種専門機関によって引き起こされた事件が、何百件もある。
アメリカで報道される父親の子殺し

アメリカに限って、法廷命令による監護や面会交流によって父親に妻や子どもが殺された事件を数えてみよう。2009年には、76件、2010年には99件、11年には52件、12年に55件、13年は43件、15年は36件、2016年には52件。平均して、年に68件ほどの殺人事件が起っている。あまりに多くて数え間違いがあるかもしれないので、関心のある方は、ぜひ数えなおしてみて欲しい。

ざっと眺めて気がつくことは、暴力事件や虐待の前科があったとしても、父親が面会交流権、監護権を得ていることだ(アメリカは、DV(家庭内暴力)専門の裁判所があると同時に、DVがあっても、監視をつけることで面会交流を命じている)。そした残念ながら、監視つきの面会交流の最中にも、子どもの命が失われているという事実がある。

2013年8月、ニューハンプシャー州で。殺すと脅迫していたにもかかわらず、父親が監視つきの面会交流権を獲得。父親はYMCA面会交流センターで、9歳の子どもを撃ち殺し、無理心中。

2011年9月。ニューヨーク州で。父親は、以前に児童虐待をしていたため、10歳の姉に対しては、監視つきの面会交流に制限されていた。定期的な面会のあいだに、子どもたちを拉致し、ロチェスターのレイクジョージキャンプ場で娘たちを撃ち殺し、無理心中。ロチェスター警察は、(単なる)監護権がらみの事件だと考えて、誘拐事件が起きたという警報を鳴らすことを拒否した。父親は、3歳の妹に関しては、共同監護権と週末の面会交流権を得ていた。2012年9月、母親のひとりはロチェスター警察に対して訴訟を起こした(おそらく姉妹の母親は、それぞれ違うのだろう)。

長崎の事件のように子どもの送迎の際に、母親を殺す事件も、たくさんある。そして多くの事件は、それほど多くを語られず、ひっそりと処理されて行くようだ。それほどまでに、数が多い。
復讐から子どもを殺す父親、メンタルを病んで殺す母親

「子どもを殺す親ーなぜ信じられないことをするひとがいるのか?」というCBCニュースのサイトは、2016年4月、カナダでの共同監護中の父親が5歳の娘(クィンちゃん)を殺害し、放火した事件を取りあげている。父親は一命をとりとめそうであるが、クィンちゃんは死亡した。父親は離婚し、共同監護権の取り決めは、緊張に満ちていたと関係者は語っている。また父親は、母親に3度の暴行罪で起訴されていたにも関わらず、それは重視されなかったという。

父親のほうが母親よりも、子どもを殺害する。オンタリオのウエスタン大学のペーター・ジャフィー教育学部教授によれば、その割合は6割である。「調査によれば、父親は一般的にパートナーが去っていったあとに、復讐から子どもを殺害する。そしてたいていDV歴があります。関係から去っていった母親へ最大の復讐は、一番大事に思っているひとを殺すこと、つまりは子ども、子どもたち殺害することです」。母親が子どもを殺害する場合は、たいていは乳幼児であり、心を病んで、産後鬱などで乳幼児を殺すことが多い。それに対して、父親が殺害する場合は、もう少し年のいった子どもが多いというのだ。もちろん、父親も母親も追い詰められているのだろう。しかしそれにしても、巻き込まれて殺害される子どもの立場に立てば、痛ましいとしかいいようがない。
オーストラリアのダーシーちゃん殺害事件

オーストラリアのいわば親子断絶防止法を改正させた、4歳のダーシー・フリーマン殺害事件も、動機は母親への復讐だった(オーストラリアの親子断絶防止法は失敗した―小川富之教授(福岡大法科大学院)に聞く)。2人の弟の前で、父親がダーシーちゃんを橋から川に投げ入れたのである。

『ドメスティックバイオレンス、虐待、子どもの監護』(Domestic Violence, Abuse and Child Custody)では、オーストラリア、カナダ、アメリカを中心に、父親による子どもの殺害、とくに離婚後の親権および面会交流に関する事例を200件以上集め、報道の分析が行われている本である。そのなかのジャン・クルースによる「あの男があの子を殺した理由がわからない」では、ダーシーちゃん事件についても、詳しく述べられている。興味深いのは注で家族関係(調整)センターの職員との会話である。「殺人が起きる前に、母親もその両親も暴力が心配であると繰り返し伝えてきたのに、組織の人々は誰も気に留めてくれなかったと訴えている」と伝えた人に対して、「ほぼ全ての母親が暴力や虐待について訴えるけれど、私たちは信じないのが普通。この事件も同じことよ」とセンター職員は答えている。

クルースは、「虐待についての母親の心配は、当局から無視されたり矮小化される傾向があり、証拠があったとしても、そのような母親はヒステリーだとか、大げさだなどのレッテルを貼られたり、疑われて孤立したりする」と述べている。「子どもの安全を純粋に心配する気持ちから子どもたちを守ろうとした」としても、「親権をめぐって争っていた」と解釈されてしまうのだ。

面会交流を積極的に取り決めている国では、面会交流を進めるための気が遠くなるほどの強力な司法の介入とサポートがある。しかしそれでも、悲劇は起こってしまう。私たちは、どう対応すればいいのだろうか。

*この記事を書いたあとに、元妻は警察に面会交流の件を告げていたことが発覚している。