信濃毎日:親権と面会 子どもを苦しめぬために

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親権と面会 子どもを苦しめぬために

 離婚後の親権をどんな基準で認めるか。子どもとの面会の機会をより多く提案した側が親権者としてふさわしいのか。判断が注目されていた裁判である。

 別居中の両親が親権を争った訴訟で、東京高裁が、子どもと同居する母親を親権者と認める判決を出した。離れて暮らす父親に親権を認めた一審判決を覆した。

 父親は、離婚後に自分が親権を得た場合、相手が子どもと年間100日、面会できるようにすると主張していた。母親が提案したのは月1回の面会だった。

 親権者を決める際、どちらが子どもとの交流を相手方に幅広く認めるかを基準とする考え方がある。「寛容性の原則」という。一審判決は、欧米流のこの原則を重視し、日本では異例とされた。

 一方、高裁は、同居する親を優先する「継続性の原則」に基づいて判断した。面会の日数が唯一の基準ではなく、他の事情より重要性が高いとは言えないとした。

 家族の問題はそれぞれに事情が異なる。一律の基準で父母のどちらが親権者としてふさわしいかを判断するのは難しい。

 大事なのは、どうすることが子どもの最善の利益にかなうかだ。個別の事情を丁寧にくみ取った判断が司法には求められる。

 子どもとの面会をめぐる争いは相次いでいる。離婚の増加に伴って調停の申し立ても増え、年間1万2千件余に上る。

 2012年施行の改正民法は、面会について離婚時に取り決めることを明記したが、義務ではない。合意する事例は6割ほどにとどまる。合意しても、その通りに実現しない場合も多い。

 両親が対立すれば、板挟みになって苦しむのは子どもである。司法の場に持ち込まれる前にどう解決を図るかを考える必要がある。自治体や公的機関、民間団体が連携して、身近で相談に応じる態勢や、話し合いを仲立ちする支援の拡充を図りたい。

 国会では、親権を失った親が子どもと面会を続けられるよう促す議員立法を目指す動きもある。ただ、暴力を振るっていたりして、関係を維持することが子どもの利益に資するとは言えない場合にどうするか。慎重な議論が要る。

 また、何よりも尊重されなければならないのは、子ども自身の意思だ。気持ちに寄り添える支援者の関与も重要になる。

 親の都合や争いに翻弄(ほんろう)されず、子どもが安心して育つ権利をどう守るか。社会がその責任をどうやって担うかが問われている。

(2月1日)

7年前