http://news.yahoo.co.jp/pickup/6209307
西日本新聞 7月29日(金)11時13分配信
養育費の受け取り、母子家庭の2割 不払いが見過ごされている背景
小川富之教授
小川富之・福大教授に聞く
ひとり親家庭の貧困率が54・6%(2012年)と深刻だ。背景には、その8割を占める母子家庭の就労環境の厳しさとともに、離別した親からの養育費が得られていないことがある。11年度全国母子世帯等調査によると、養育費を受け取っている母子家庭は20%、父子家庭は4%にすぎない。なぜこんな状況が見過ごされているのか。海外ではどうか。養育費をめぐる法制度に詳しい福岡大法科大学院の小川富之教授(家族法)に聞いた。
【養育費、各国の取り組みは?】米国では運転免許停止などの制裁も
米国では、養育費不払いは犯罪との位置づけ
日本以外の多くの先進国では、養育費の取り決めが離婚時の条件になっている。さらに任意の支払いが滞ったときのために、さまざまな履行確保制度がある=表。
例えば米国では、父親が養育費を支払わずに行方不明になった場合、「養育費強制プログラム」に沿って国や州政府が父親の捜索や支払い命令を行い、最終的に給与からの天引きや、失業給付の差し押さえなどをして徴収する。応じなければ、指名手配犯のように顔写真付きのポスターが街に張り出される。養育費不払いは犯罪との位置づけだ。
スウェーデンでは、国がひとり親世帯に養育費相当額を支払い、もう一方の親から回収する「立て替え払い制度」が確立されている。低収入で養育費の取り決め額が少ない場合は、子の生活保障の観点から国が養育費にプラスして支給する。
欧米諸国は全ての離婚の可否を裁判所が審査し、養育費もチェックしている。「(書類の提出のみで離婚できる)協議離婚が9割を占める日本で養育費を義務付けるのは無理だ」と言う人が一部にいる。だが日本と同様、協議離婚の多い韓国でも09年以降、離婚時に養育費の支払い方法を記した協議書を裁判所に提出するよう義務付けられた。
養育費不払い、20年前から指摘
日本では、12年度から離婚届に、養育費取り決めの有無についてチェック欄が設けられたが、強制ではないし、内容の確認もないため実効性に乏しい。不払い時の強制執行も、離婚時に2人で公証役場に行き、養育費に関する合意書を証書で残すなどした、ごく限られた人しかできない。
養育費不払いは約20年前から指摘されてきたのに進展がないのは、日本では選挙の争点にならず、政治課題に上らないからだ。今の政権は父、母、子という「伝統的家族」に重きを置いている。国民の間にも、戦前の「家」制度に基づいた家族観は根強く、離婚で他方の親が引き取った時点で「別の家の子」となり、「養育費はその家が何とかすべきだ」と考える人が少なくない。3組に1組が離婚する時代になってもなお離婚がタブー視され、「好きで離婚したんだから」と問題が放置され、その陰で子どもたちが泣いてきた。
欧米のように、給与天引きや立て替え払いを制度化するには時間がかかるが、環境が似通った韓国の取り組みは参考になる。養育費の取り決めを義務付け、公的機関のチェック態勢を整えることは、政府が本気になればできるはずだ。それをせずして子どもの貧困対策を行うのは、根本的な問題の解決にならない。
子どもにとっても、「お父さんとは別れたけど、毎月あなたのためにお金を送ってくれているよ」と母親から伝えられることが、どんなに力になるだろう。
西日本新聞社