夫と姑に息子を連れ去られ…。離婚で親と引き離される子どもたち
「3組に1組が離婚する時代」とも言われ、ひとり親家庭は100万世帯を超えています。ところが、子どもが離れて暮らす親(別居親)と会えるように面会交流(※)を行っているのは、そのうち3分の1ほど。
親が離婚した場合、多くの子どもが一緒に暮らす親(同居親)ではない親と会えなくなっています。
※面会交流:離婚後や別居中に子どもを養育・監護していない方の親が子どもとの面会等を行うこと。会うだけでなく、写真やプレゼントなどのやりとりを行う間接交流もあります。
母親なのに我が子と会えないなんて…
「片方の親(夫)に我が子を連れ去られても取り返すことができないなんて、考えたこともありませんでした。母親なのに、虐待したわけでもないのに、子どもに会えなくなるなんて、信じられますか?」
そう語るのは2013年春、夫と姑に一人息子の孝司くん(当時10歳・仮名)と引き離された母親の山田有紀さん(47歳・仮名)。「夫婦として出直したい」と言う夫の言葉を信じ、新築一戸建に越した翌月の出来事でした。
夫はなんでも姑優先のマザコンで、姑も「私と息子(夫)は二人で一人」と言うほどのべったりぶり。姑の意に沿うことだけを求められることが虚しかったと言います。夫婦仲は冷え切ったものになり、疲れ切った有紀さんは鬱病の診断を受け、とうとう休職するはめに…。
そうして自宅療養をしていたある日、姑から夫に電話がかかってきました。電話を切るなり夫は強い口調で「おまえのせいでお袋(姑)が参っている。近くにいられたら困る。しばらく離れてくれ」と、実家に戻れと迫りました。
「息子のためにこれ以上、夫婦関係をこじらせたくありませんでした。息子のことが心配でしたが、学校があるので置いて行くしかなかった。何度も夫に『家に帰りたい』と言いましたが『お袋が死ぬ!』と脅され、帰るに帰れなくなってしまったのです」(有紀さん)
「帰る」と泣いて自傷行為を始めた息子
実は有紀さんが家を出た直後から、夫は孝司くんを連れて姑のいる自分の実家で生活をはじめていました。
有紀さんが家に帰れないまま2週間が過ぎた頃、夫に連れられて有紀さんの実家に来た孝司くんは、有紀さんの顔を見るなり「帰る、帰る」と泣き出して自分の頭や腹を叩くなどの自傷行為を始めたのです。夫が帰ると「いろいろ(父親に)叩き込まれてもう嫌だ!」と叫びました。
そして「(有紀さんの実家では)貧乏生活になるから嫌」と言い、夫がいなくなると「パパに電話する」と電話を繰り返しました。
「でも夜中12時を回った頃から『ママ』『ママ』と甘えるいつもの息子に戻っていき、翌朝は、夫が迎えに来てもなかなか帰ろうとしませんでした。それを見た夫は『母親と長時間接触させるとせっかく吹き込んだことも水の泡になる』と思ったのでしょう。私と息子が会うのを妨害するようになりました」(有紀さん)
子どもの「片親引き離し症候群」
孝司くんの不安定な様子が気になった有紀さんは自治体の子育て相談や法律相談などを訪ね歩きました。ところが弁護士など専門家の反応は信じられないもので、「無理に会おうとすると子どもがよけい混乱する」「下手に動くとあなたがストーカー扱いされる」などと言われました。
「『公平な第三者や裁判所なら分かってもらえる』と思っていたのに『子どもを取り返すための法律がない。子どもが人質のようにあつかわれても、連れ去られてしまったら子どもを助けられない』と言うのです。絶望で目の前が真っ暗になりました」(有紀さん)
有紀さんは子どもとの面会交流を求める調停を、夫は離婚調停を申し立てましたが、どちらも不調に終わりました。次の離婚裁判では「母親との関係は友好だったのに父親が引き離した」と認められたものの、会えない間に片親引き離し症候群(注1)になってしまった孝司くんは、母親との面会を拒むようになってしまいました。
その後、子どもを人質に取られている有紀さんが、夫の言い分を飲むかたちでとりあえず和解が成立しましたが、今も孝司くんと会えていません。
注1)片親疎外とも呼ばれる。子どもと同居している親が、子どもと別居している親への否定的な感情を子どもに伝えたり、悪口などマイナスイメージを吹き込むことで、子どもが正当な理由もなく別居親を嫌悪し、会うことを拒否する状況。アメリカでは児童虐待に位置づけられている。
<TEXT/木附千晶>
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【木附千晶プロフィール】
臨床心理士。IFF CIAP相談室セラピスト。子どもの権利のための国連NGO・DCI日本『子どもの権利モニター』編集長。共著書に『子どもの権利条約絵辞典』、著書『迷子のミーちゃん 地域猫と商店街再生のものがたり』