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離婚訴訟で増えつつある「冤罪DV」 証拠なく認定されるケースも…
産経新聞 9月5日(土)15時0分配信
離婚訴訟で増えつつある「冤罪DV」 証拠なく認定されるケースも…
配偶者からの暴力事件などの認知件数の推移(写真:産経新聞)
「冤罪(えんざい)DV」という言葉がある。子供を連れて別居した妻が、離婚の理由として裁判で「夫からDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けた」と虚偽の主張をすることを指すが、最近の家事法廷でDVを認めないケースもみられる。“冤罪”を晴らした夫は「かつての痴漢冤罪と同じで、女性の言い分がそのまま認められがちだ」と指摘。専門家からは「裁判や行政手続きを有利に運ぶための虚偽の主張もある」と慎重な判断を求める声もあがっている。
■DVの証拠写真を捏造?
関東地方の40代男性は「暴力をふるわれた」として40代の妻から離婚や慰謝料などを請求されたが、家庭裁判所は平成23年10月、妻の訴えを棄却した。妻は男性が「夕食を準備した食卓をひっくり返した」「馬乗りになって髪の毛を引っ張った」「就寝中に起こし頭を殴った」と主張していたという。
男性は否認し、家裁も判決で「DVを裏付ける証拠はない」と判断。妻が提出したあざの写真について、妻が撮影日や撮影場所を後になって訂正したり、「(夫の)暴行によるものではない」とあいまいな発言をしたことなどを重視したとみられる。
■「ローリスク、ハイリターン」のDV主張
一方、妻と同居する長女の監護権をめぐる審判では、家裁は今年5月、妻が男性の暴言や暴力を恐れながら生活をしていると保健師に相談していた経緯を認めた上で、妻を長女の監護者として認めている。
男性は控訴し、「私はDVはしていない。妻はあざの写真を自宅で撮影したといっているが、背景が自宅ではない。女性が『DVにあっている』というと、行政は調査もせずに認めてしまいがち。緊急保護の必要性は分かるが、かつての痴漢冤罪のようだ」と話す。
「裁判で離婚するには理由が必要なので、DVを主張することがある。子供の親権や慰謝料の獲得にもつながる。特に、精神的なDVは主観的な部分もあり認められやすい。嘘がばれても罰せられることはほとんどなく、まさにローリスク、ハイリターンだ」と話すのは、離婚裁判で代理人を務めたことがある東京都内の弁護士。「中には夫に暴言を吐いたり暴力をふるったり挑発して夫の抵抗を誘発し、録音したり診断書を取る“計画的犯行”としか思えないケースもある」と内情を明かす。
■客観的な証拠なく認定
客観的な証拠がないにもかかわらず、夫による妻へのDVが認められた判決もある。関東地方の40代男性は40代の妻が当時2歳の娘を実家に連れ去ったとして、身柄の引渡しなどを求めて家裁に提訴したが、24年2月に男性の請求を退ける判決が下された。
判決では、妻が物証なしに主張した(1)男性が妻にはさみを突きつけた(2)妻に性行為を強要した(3)荷物をまとめて出て行けなどと怒鳴った-などを認定。逆に、男性が物証を示して主張した(1)妻が親しく付き合っていた男性の写真を部屋に置いて家出した(2)娘の利益を最大限尊重した養育計画を策定していた-などの事実認定をしなかったという。
DVは家庭という“密室”の中で行われるため証言に頼らざるを得ない部分もあるが、男性はこの判決をめぐり、「子供の利益を最優先する」と定める改正民法766条について「裁判官は立法者の意思を無視し、民法改正の趣旨を曲解して判決を下した」として名誉毀損(きそん)による国賠訴訟を起こしている。
■妻と娘へ「二重DV」の疑惑も
さらに、妻へのDVと娘へのDV(性的虐待)の“二重の疑惑”をかけられたケースもある。
東海地方の男性によると、妻が長女を連れて家出。男性が長女の引渡しなどを家裁に申し立てたところ、妻は当初、「突き飛ばされた」「足蹴りされ青あざができた」と男性による身体的DVを主張。しかし、主張を裏付ける証拠は一切提出されず家裁は身体的DVを認めなかった。妻は離婚裁判で「新婚旅行の場所を決めるときからすでに罵られていた」などと言って、「言葉による精神的なDV、モラルハラスメントを受けた」との主張もしている。
■「妻は計画的に怒らせようとしていたのでは…」
男性は「DVのときに通常求める慰謝料の請求もない。計画的にでっちあげたからだ」と指摘。また、「今にして思えば、妻は計画的に自分を怒らせようとしていたのではないか」と疑念を募らせる。
妻は家出の半年ほど前から、朝食は前日に炊いた米だけ出して二度寝するようになった。風呂から出ると、きれいなバスタオルがあるのにぼろ雑巾のようなタオルが出されていたことも…。自宅のパソコンで「今日は日曜日だけど、おっさん(男性のこと)は仕事だ。ざまあみろ」と書かれた妻のメールを見つけ、愕然としたという。
家裁は男性と長女の面会交流を認めたが、その直後、妻は「(妻への)DVを長女が目撃して恐怖を感じている」と医師に告げて長女を精神科に通院させ、「長女の通院・精神的不安定」を理由に面会をさせないようになった。さらに、「長女が性的虐待を受けた疑いがある」との通報があったとして、長女は児童相談所に一時保護された。しかし、児相は「性的虐待の有無は分からなかった」として長女を妻のもとに返還。その後、高裁では男性と長女の面会交流の必要性を認める決定が出されている。
■男性からの相談も増加中
問題を抱える夫婦をサポートするNPO法人「結婚生活カウンセリング協会」(横浜市)のコンサルタント、大塚ガクさんは「DVは男性がするものというイメージが強く、女性が離婚したいと思ったときに“でっちあげDV”を使いやすい状況にある。外傷が残らなくても首の筋を違えたとか、けんか以外でできたあざを撮影して『夫からやられた』といってみたり、裁判の証拠となる材料が集めやすい。訴えられた男性からの相談も増えている」と話す。
厚生労働省によると、昨年の離婚者数は約22万人。司法統計では昨年の妻側の離婚の理由として「精神的に虐待する」が3番目、「暴力を振るう」が4番目に多かった。警察庁によると、配偶者からのDVの認知件数は昨年中に5万9072件で、11年連続で増加した。DV被害は拡大しており、被害者の救済は急務だ。
早稲田大法学学術院の棚村政行教授(家族法)は「最近はDV被害を訴える女性の支援機関が積極的な保護を打ち出していることもあり、当事者同士での話し合いが難しく、他方で自らが『冤罪DV』の被害者だと訴える男性も少なくない。DVの被害や内容に応じた対応が大切ではないか」と話し、夫婦双方が安心して相談できる相談機関の設置を提案している。