親子法制の見直しを
第186回国会 2014年4月24日 参議院法務委員会(一般質問 35分)
4月24日、法務委員会の一般質問でDV問題や親子法制について政府を追及しました。①DV防止対策の強化②面会交流と養育費について③家族の多様化と親子法制④東日本入国管理センターで先月起きた2件の入所者の死亡について、取り上げました。
最高裁が昨年12月、性別変更後の男性を戸籍上の父と認める初の決定を行ったことに言及し、「性別変更後の法律婚を認めておきながら、生殖補助技術やDNA鑑定などの医療技術の進歩を想定していない時代にできた嫡出推定規定を見直すことなく、形式的審査を理由に、一方に甘くまた他方に厳格にする法務省の対応が厳しく指摘されたのだと思う」と、父子推定ではなく嫡出を推定する規定の見直しに消極的な法務省を批判しました。
糸数慶子君
無所属の糸数慶子です。よろしくお願いいたします。
四月十日の法務委員会で、国連人権条約の個人通報制度について谷垣大臣にお伺いをいたしました。
二〇一一年に子どもの権利条約の第三議定書の共同提案国となったのは民主党政権だったことは承知しております。しかし、女性差別撤廃条約の選択議定書について、自民党の女性に関する特別委員会で選択議定書批准の提言がまとめられたのは、谷垣大臣は野党時代というふうに答弁されましたが、これ実は谷垣大臣、与党時代のことでありまして、しかも大臣が懸念されていた司法権の独立についても、当時、懸念は払拭されております。谷垣大臣は、国内の確定判決と異なる内容の見解が出てきたとか、あるいは裁判係属中の事件については、今裁判をやっているのにこういうふうにせよというのが出てきたりというようなことでは、これはなかなか日本の制度と合わせていくのは難しいと答弁されましたが、これ事実誤認ではないかと思います。
つまり、個人通報制度は、条約違反の有無の判断を求めて委員会に通報することのできる制度で、裁判所、司法機関に対する訴えではありません。通報先の委員会は、これは条約機関であって裁判所ではありません。その判断は見解と呼ばれ、裁判所の判決と違い法的拘束力はなく、司法の独立を侵す懸念はございません。実際に、四月二十一日現在で百四か国が加盟しておりまして、それらの国々は司法権が独立しております。また、裁判係属中の事件については通報できません。通報できるのは利用可能な救済手続を尽くした後で、つまり、日本の場合は最高裁の判決が確定した後ということになります。その上、委員会は基準を厳格に適用するために実際に使おうとするとハードルは高く、議定書が採択されて十年間で僅か十数例だったというふうに伺っております。選択議定書は、実際に使うメリットより、加盟しないことで差別撤廃に対して後ろ向きな姿勢を示してしまうというそのデメリットが大きいわけであります。
ですから、自民党の特別委員会の提言において、我が国は、人権、民主化、法の支配、平和構築の分野で更なる国際貢献を行うことが期待され、選択議定書批准は、我が国の国際人権保障、男女平等への積極的な取組の姿勢を国際社会に示すものと述べているものだというふうに思います。
OECD加盟国、三十四か国ありますが、女子差別撤廃条約の選択議定書に批准していないのは、他の国からの干渉を嫌い条約そのものに加盟していないアメリカはまず別として、チリ、エストニア、イスラエルと日本だけであります。当然、加盟国は司法権が独立しておりますので、日本の主張が国際社会に通用するものではないということをまず冒頭に申し上げて、質問に入りたいと思います。
具体的な質問ですが、DVについてお伺いをしたいと思います。
DV防止対策についてでありますが、警察庁が三月二十日に公表いたしました二〇一三年度中のストーカー事案及び配偶者からの暴力事案の対応状況によりますと、配偶者からの暴力事案も四万九千五百三十三件で、これ前年より一二・七%増加しています。DV法が施行されて最多を記録したことが分かりました。保護命令違反検挙ですが、これ百十件で、昨年より九・一%減少したということですが、この数値を見ますと、逆にDV防止の対策が十分に行われていないのではないかのその数値の表れだと思いますが、DV防止対策の強化をどのように行っていくのか、特に加害に対する施策について具体的にお伺いいたします。
政府参考人(佐村知子君・内閣府男女共同参画局長)
配偶者からの暴力につきましては、被害者の多くが女性でありまして、女性の人権を著しく阻害するもので、私ども、男女共同参画社会を形成していく上で克服すべき重要な課題であると認識しております。また、件数についても先生の御指摘のとおりでございます。
私ども内閣府といたしましては、昨年改正されました配偶者暴力防止法に沿って、若年層への啓発用のパンフレットを活用しての啓発の実施ですとか相談員などに対する研修などを実施しております。また、加害者に対する取組についてでございますが、この三月末に開催されました女性に対する暴力に関する専門調査会におきまして御議論をいただき、再発防止の観点からは加害者更生の取組が重要であることなど御指摘をいただいております。
こういった御指摘を踏まえ、今後とも、私ども、暴力の防止に関する施策、また被害者の保護のための施策などに関係省庁と連携をしてしっかり取り組んでまいりたいと思っております。
糸数慶子君
ありがとうございます。具体的にはこれからというふうに思いますので、しっかり取り組んでいただきたいと思います。
佐村局長は退席して結構でございます。
委員長(荒木清寛君)
では、佐村局長、退席してください。
糸数慶子君
次に、面会交流と養育費についてお尋ねをいたします。
二〇一一年に行われた民法の一部改正で、民法上、離婚後の親子の面会交流、あるいは監護費用の部分の分担の明示がなされ、これは施行された二〇一二年四月から離婚届出用紙に取決め状況のチェック欄が設けられました。
法務省はチェック状況の集計をされておりますが、施行後一年間でかなり効果があったことが分かりましたが、直近の集計状況はどういうふうになっているのか、政府参考人にお伺いいたします。
政府参考人(深山卓也君・法務省民事局長)
今御指摘があったとおり、平成二十三年度の民法等の一部改正法律を受けて、その趣旨を周知する方法として、離婚届書の様式改正を行いまして、届書にチェック欄を設けております。
このチェック欄を設けた届書の運用は平成二十四年四月から使用を開始しておりますけれども、平成二十四年の四月から平成二十五年十二月までのデータが集計できております。
まず、面会交流についてですけれども、この間、未成年の子がいる夫婦の離婚届出件数全体は二十二万五千百二十三件ございました。取決めをしているという欄にチェックがされているものが十二万九千五百二十九件、比率にして約五八%でございます。また、養育費の分担につきましては、同じくこの間の二十二万五千百二十三件の中で、取決めをしているという欄にチェックがされているものが十二万九千三百三十二件、比率にして約五七%でございます。
糸数慶子君
チェック状況、それから取決め状況共に増加しており、やはり離婚届出用紙のその様式変更が、面会交流やそれから養育費の取決めの改善につながっていることだと思います。
実際の面会交流や養育費の支払状況は、法務省として把握されているでしょうか。
政府参考人(深山卓也君)
実際に養育費の支払や面会交流の実施の件数のデータについては、法務省としては把握はしておりません。
糸数慶子君
厚生労働省は、これ全国母子世帯等調査で把握しているというふうに思いますが、件数が少ないために実数の把握はされておらず、直近の二〇一一年の調査は改正民法が実施されていないために直接比較することは難しいと思いますが、厚労省は面会交流と養育費の取決め実施状況を把握されているでしょうか、お伺いいたします。
政府参考人(鈴木俊彦君・厚生労働大臣官房審議官)
ただいま御指摘ございましたように、母子世帯におきます養育費、それから面会交流の実施状況でございますけれども、直近、平成二十三年度の全国母子世帯等調査によりますと、養育費の取決めをしております母子世帯は全体の三七・七%、養育費を受けている母子世帯は全体の一九・七%となっております。また、面会交流の取決めをしております母子世帯は全体の二三・四%、面会交流を行っております母子世帯は全体の二七・七%となっている状況でございます。
糸数慶子君
今数字を伺いますと、やはり養育費の支払などに関しましてはかなり低い数字でございます。あるいはまた、面会交流のその状況も、是非先ほどの数字に乗じて、また再度細かく調査をして、是非支払が行くような状況を展開をしていただきたいというふうに思います。
次に、家裁の事件でも面会交流の問題が含まれている事件が多いと伺っておりますが、今年四月に正式加盟いたしましたハーグ条約でもこの面会交流の実現が求められています。その反面、DVなどがある場合、逆に面会交流に不安を持っている母親も多いと思うわけですが、安全、そして安心して面会交流に応じられる環境づくりが重要になると思います。
面会交流センターの設置、これは今ある施設の転用でも可能だと思うわけですが、面会交流の支援組織、例えばFPICなどに対する援助や人材養成といったこと、あるいは面会交流実施の基盤整備も必要と思いますが、どのように取り組んでいかれるのか、具体的にお伺いしたいと思います。
政府参考人(鈴木俊彦君)
離婚後も親子の面会交流が適切に実施される、これは誠に望ましいことだと思っておりまして、子供の利益という観点から、面会交流は父母が自発的に合意をした上で父母双方の協力の下に実施されるべきだと、こういうふうに考えてございます。
厚生労働省といたしましては、こうした観点から、養育費相談支援センターを設置いたしまして、この中で、養育費の相談に加えまして面会交流の相談にも応じているところでございます。それからまた、都道府県などに設置をされております母子家庭等就業・自立支援センターございますけれども、ここに専門の相談員を配置いたしまして養育費あるいは面会交流の相談に応じてございます。こういったものの必要な研修それからサポートの業務を、公益社団法人の家庭問題情報センター、今先生から御指摘ございましたFPICに委託をして実施しているところでございます。
さらに、平成二十四年度からは、父母の間に面会交流の取決めがありまして、かつ支援を受けるということに合意があるような場合、こういった場合に、地方自治体が面会交流の相談や日程の調整、それから付添いなどの支援、こういった事業を行ってございますけれども、これに対しても補助を実施しているところでございます。
いずれにいたしましても、面会交流は、子供の健やかな成長にとって好ましいものであるということ、それから養育費を支払っていただく意欲につながるということもございます。こういった観点を踏まえまして、法務省を始め関係省庁と十分連携を図りながら進めてまいりたいと思っております。
糸数慶子君
ありがとうございました。
ただ、この面会交流に関しても悲惨な事件なども起こっておりますので、やはり円滑な面会交流のための基盤整備も必要だと思いますので、今後とも頑張っていただくことをお願いしたいと思います。
次に、家族の多様化と親子法制についてお伺いをいたします。
家族のありようや価値観が多様化し、結婚や離婚、親子、相続、戸籍など家族に関する法制度は少しずつ見直されています。しかし、家族の形や意識の変化のスピードに法改正が追い付いていません。
例えば、民法七百七十二条の嫡出推定規定については、早くから見直しが指摘されていたにもかかわらず法整備が進んできませんでした。立法当時は子供の福祉を考えてつくられた制度であっても、制定時には想定もしなかった問題に直面することが少なくありません。法務省も法改正の必要性を認識されているようですが、法改正には具体的には至っておりません。
二〇一二年の衆議院法務委員会で、非配偶者間人工授精、AIDによる出生子が一万人以上誕生している一方で、生殖補助医療の行為規制や親子関係の法整備が行われていない問題が取り上げられました。これに関して、厚生労働省は、代理懐胎などとは違い、規制の必要はないというふうに答弁され、法務省は、法律上の親子関係は行為規制の問題と切り離して検討することが困難であると答弁されました。
問題解決は先送りされましたが、また一方で、昨年十二月十日、最高裁は、性別変更後の男性を戸籍上の父と認める初の決定を行いました。性別変更後の法律婚を認めておきながら、生殖補助技術やDNA鑑定などの医療技術の進歩を想定していない時代にできた嫡出推定規定を見直すことなく、形式的審査を理由に、一方に甘く、また他方に厳格にする法務省の対応が厳しく指摘されたのだというふうに思います。最高裁決定を受け、法務省は、今年一月二十七日、性同一性障害で男性に性別変更後、法律婚をした夫とその妻がもうけた子について、嫡出子として戸籍に記載するように全国の法務局に通達をしています。
そこで、政府参考人に伺いますが、親子法制の見直しの検討は現在どのような状況なのか、お伺いいたします。
政府参考人(深山卓也君)
ただいまの委員から御指摘があったとおり、生殖補助医療技術によって生まれた子供の法律上の親子関係というのは、民法が制定された当時には想定されていなかった問題が生じているものと思っております。
もっとも、この点もお触れになりましたけれども、生殖補助医療によって生まれた子の法律上の親子関係の規律をどうするかというのは、生殖補助医療自体が医療行為としてどういう規制に服するのかという、その在り方についての法整備の内容を踏まえた検討が必要になると考えておりまして、例えば代理出産を認めるか否かというような点なども含めて、こういった点の医療行為としての法整備がされていない現状では、民法上の親子関係のみを先行して見直すということは相当でないというふうに考えております。
この点に関する現状ですけれども、現在、生殖補助医療に関する議員立法に向けた検討が進められているものと承知しておりまして、その議論の状況を注視しているところでございます。
糸数慶子君
そこで、谷垣大臣にお伺いいたしますが、この日本の医療技術は世界最先端を行くのに親子法制は最後尾だとやゆする声もございます。嫡出を推定する国は日本くらいで、父子関係を推定する制度に改めるべきだというふうに思いますが、この親子法制の在り方について大臣のお考えをお伺いしたいと思います。
国務大臣(谷垣禎一君)
まず、母子関係ですけれども、これは、明文の規定はないんですが、分娩の事実によって当然に母と子という関係が生ずるというふうに理解されておりまして、分娩者が母になると、こういうことですね。それで、これは母と子の関係を分娩という外形的な事実に係らせるということで、客観的な基準は明確になると。私は、これは合理的な根拠があると思うんですね。
今度、じゃ、父と子、父子関係についてはどうかというと、さっき御指摘されましたように、妻が婚姻中に懐胎した子は嫡出子としてその夫の子であるという推定が働くようになっております。それで、この制度、今、糸数先生は批判的な見解を持っておられるように承りましたが、子の福祉のために親子関係、父と子の関係を早く確定すると、そうして家庭の平和を尊重するという考え方自体は、今日においても全く合理性を失ってしまったというわけじゃないと思います。私は一定の合理性があると思うんです。
そこで、根幹はやっぱりそういうことなのかなと思うんですが、糸数委員が指摘されましたように、生殖補助医療、大変技術も進んできた。それで子供が出生するといった、その生殖補助医療によって出生するといった民法制定時には想定していなかったことがいろいろ起きてきている。こういったことにどう的確に対応していくかという意味で、親子法制を検討することは今非常に大事なことになってきていると思います。
そこで、政府の中にもいろいろな見解があるんですが、民事局長が先ほど答弁しましたように、生殖補助医療によって生まれた子の親子関係の規律を検討するについては、私は、やはり医療規制についての法整備の在り方、これを踏まえた検討が必要であって、それを全然抜きにしてはなかなか整理ができないんじゃないかと思います。
それで、現在、生殖補助医療に関する議員立法に向けた検討が進められていると承知しておりますが、その議論の状況を注目したいと実は思っているところでございます。