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「プレ・シングルマザー」「アフター・シングルマザー」に何が必要なのか
みわよしこ | フリーランス・ライター
2015年3月12日 7時0分
ここ数年で注目を集めるようになった「子どもの貧困」の背後には、その子どもの親の貧困があります。
特に、シングルマザーの貧困は特に際立っています。
本記事では、「プレ・シングルマザー」「アフター・シングルマザー」状態に注目し、「シングルマザーとその子どもたち」の苦しさが生まれる背景について考えてみます。
若年出産でシングルマザーになるまで
近年、10代で出産した母親に関する研究が、少しずつ進められています。それらの研究から明らかになっているのは、
「若年出産が、母親から数多くの機会を奪う」
ということです。
日本では、高校在学中に妊娠・出産すると、高校在学を継続することはほとんど不可能になります。すると母親の最終学歴は「高校中退」となります。
「できちゃった婚」でも、夫とともに生活を営み、育児を続けることが可能な場合もあります。しかし、結婚生活が維持できるとは限りません。夫もまた若年で、就労状況も不安定であったり多様な問題を抱えていたりします。容易に離婚に至り、
「妊娠・出産が大きな理由となり、充分な教育を受けることができず、就労できても低賃金・不安定就労、しかも子どもがおり、子どもの父親から養育費を受け取ることも困難」
というシングルマザー、となります。
「子どもを育てながら教育を受け、キャリア構築もする」というルートは、若年出産の母親たちに対しては、ほぼ存在しません。
「低賃金・不安定就労+就学援助または生活保護」以外の選択肢のない状況から、この母親たちが脱却できないのは、必然といえば必然といえます。特に、複数の子どもがいる場合、生活保護基準以上の賃金を得られる就労がそもそも困難なため、「生活保護しかない」という状況になります。
このバリエーションとして、
「中学を卒業した後、進学も就職もできず、原家族にとどまることも困難という状況から、やむなく男性と同棲するも、妊娠したら男性に捨てられた(「できちゃった婚」をするも、結婚生活の維持を困難にする事情が本人以外のどこかにあった)」
もあります。
若年出産のシングルマザーに対しては、まず本人の「教育を受ける権利」を保障すること、そこから本人の希望や適性に沿ったキャリア構築の機会を提供すること、その間の生活を支援することの3つが必要です。
これらを包括的にカバーできる制度は、現在のところ、ほとんど生活保護だけです。
離別・死別してシングルマザーになるまで
「うちには離婚の可能性はない」と言い切れる夫妻は、非常に少ないのではないかと思います。離婚しなくても、夫が突然死する可能性はあります。
離別・死別によりシングルマザーになった母親とその子どもたちには、その直前は夫(子どもたちの父親)がいたわけです。離別の場合、離別以前にも、夫が「家庭を担う」「育児を担う」を充分に果たしていなかったという例が多く見られます。
離別の理由がどのようなものであれ、子どもたちの父親には父親としての責任があります。しかし養育費を受け取れている母親は、離別した母親の20%程度で、金額も充分ではありません。このことは、元夫である子どもたちの父親が、「父親の責任」を認識していなかった・果たしていなかったことと裏表でしょう。
離別の理由が「働かないヒモ体質の男性で、育児の戦力にもならない」であることも珍しくありません。
「今、目の前に子どもがいて、育成と教育を必要としている」
という場面で、母親に「なんでそんな男に引っかかったのか」と言っても意味はまったくありません。
夫から養育費を受け取れない、あるいは受け取れても不十分であるのならば、児童扶養手当・就学援助の充実、母親の就労を「子どもの養育に充分な収入が得られ、なおかつ、子どもの養育に必要な時間など、資金以外の資源の確保もできるか?」という視点から支援すること、もし母親が教育の不足によって不利な就労を余儀なくされているようであれば教育も支援することが必要です。
死別の場合も、状況はあまり変わりません。生命保険などの保険金・遺族年金を充分に受け取ることができるとすれば、夫が生前、比較的恵まれた就労をしていた家族であるということです。
父親としての責任を果たさない男性が少なからず存在するということに対し、責任を求め、そのような男性がなるべく生まれないように社会教育を含めた教育の充実が必要です。
また、父親としての責任を果たせない男性(極端ですが、死んでしまえば果たせません)も必ず存在するわけです。いずれにしても
「父親と母親が二人揃っていて子どもがおり、若干いろいろあっても、まあまあ健全なんじゃないかと思われる家族」
を前提とせずに「子どもを育てる」を考えなくては、子どもの貧困、特にシングルマザーとその子どもの貧困は解決しないと思われます。
シングルマザーでなくなった後
シングルマザーは、いつか「シングルマザー」ではなくなります。子どもが成人すれば、法的には「母子家庭」ではなくなり、母親は(再婚していない限り)単身女性となります。
長年にわたり、低賃金・不安定就労を続けてきた女性たちの多くは、子どもが成人しても同様の就労を続けることになります。老齢年金は、あっても老齢基礎年金のみであったりします。すると低年金高齢者となります。「健康で文化的な最低限度の生活」を送るためには、生活保護を利用するしかありません。
「充分な教育」「良い就労」の機会提供が必要
結局、子どもの貧困・その親の貧困を解消するためには、親に充分な教育と良い就労の機会を提供することが最良の方法、ということになります。
たとえば、
「16歳で出産して学歴が高校中退となった女性が、生活保護を受けながら子どもを養育しつつ高卒資格を取り、就労に必要なスキルに関する教育も受け、25歳でパートタイムながら事務職に就き、さらにキャリアアップして32歳で何らかの資格職に就き、その後は年金保険料を基礎年金・厚生年金とも支払い……」
というルートが「あたりまえ」になったら、シングルマザーとその子どもたちをめぐる状況は、どれほど明るくなるでしょうか?
もちろん、大変な思いをしているのはシングルマザーだけではありません。
たとえば、「働かない夫と毎日口論しながら子どもを育てている働く母親」という組み合わせでは、その「働かない夫」「働く母親」の両方が困難や不利な条件を背負っていることが少なくありません。その原因として考えられるものは、多くの場合、より若年の時に与えられているべきだった機会の損失です。困難を抱えたすべての人に、
「困難の元になっている欠落は、今からでも補えるんだから、補おうよ、応援するから」
と言える社会となることが必要なのではないでしょうか?
シングルマザーとその子どもたちは、私には、すべての「困難を抱えた人」の象徴に見えます。
補足・シングルファザーは? シングルマザーの元夫は?
実は、シングルファザーの場合も「男だから、そんなに不利な状況にはならないだろう」ということはありません。
男だから弱音を吐きにくく、助けを求めにくい文化的背景があります。
また、シングルマザーの元夫が全員、「慰謝料もロクに払わない」というわけではありません。
私の身近にも数名、離婚して「シングルマザーの元夫」となった男性がおりますが、慰謝料は充分以上に支払い、その他にも父親としての役割を十二分に果たしていたりします。
いつか、「シングルマザーの元夫たち」に、元夫であり、共に暮らせない父親としての思いについて尋ねてみたいと思っています。
そこに案外、シングルマザーの困難を解く鍵がありそうな気がするのです。
みわよしこ
フリーランス・ライター
1963年福岡市生まれ。大学院修士課程修了後、企業内研究者を経て、2000年よりフリーランスに。当初は科学・技術を中心に活動。2005年に運動障害が発生したことから、社会保障に関心を向けはじめた(2007年に障害者手帳取得)。著書は書籍「生活保護リアル」(日本評論社、2013年)など。2014年4月より立命館大学先端総合学術研究科一貫制博士課程に編入し、生活保護制度の研究を行う。なお現在も、仕事の40%程度は科学・技術関連。