静岡新聞:<私しかいない>ひとり親家庭の今(1) 元夫との交渉、援護なく

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<私しかいない>ひとり親家庭の今(1) 元夫との交渉、援護なく
@S[アットエス] by 静岡新聞 2014年12月30日(火)11時19分配信

 離婚などでひとり親になった家庭は増加の一途をたどり、静岡県内で3万7900世帯になった。悩みながらも子育てに向き合う当事者や、親子を取り巻く支援の輪を取材し、ひとり親家庭の「今」を追った。

<私しかいない>ひとり親家庭の今(1) 元夫との交渉、援護なく
風香さんは離婚前、苦しいことがあると手帳に思いを吐きだしていた。手帳を買うことも許されず、夫に与えられた物を使っていた
 風香さん=仮名、30代=は、2人の息子と真冬の玄関前で凍えながら両親の到着を待っていた。家には夫がいた。

 夫が買ってきてくれた靴を「私には似合わないな」と思った。表情に出てしまったのか、夫は怒ってガスコンロで靴を燃やそうとした。自分より先に3歳だった長男が「やめて!」と叫んだ。「じーじとばーばを呼んでくる」と長男は家を飛び出した。追い掛ける風香さんに夫は「周りに迷惑だろ。騒ぐな」とすごんだ。

 日頃から怒りにまかせて物を壊したり、小突いたりして精神的な圧力を掛けてくる夫にもう限界だった。友人に「DVでは?」と言われたが、「直接殴られたりするわけじゃない」と反論した。今振り返ると、DVを認めたくなかったのだと思う。迎えに来た両親と実家に戻り、そのまま離婚を決意した。

 申し立てた家裁の調停で、夫は離婚に合意しなかった。調停員から「あなたが我慢してやり直せないの」と言われ続け、ストレスで突発性難聴になった。夫は「離婚するなら、子どもと2カ月に1度以上の面会を」と求めた。納得いかなかったが、早く調停を終えたくて条件をのみ、離婚した。

 元夫は、頻繁に子どもたちに会いに来た。面会初日には、単身用のアパートへの引っ越し代を要求された。元夫は大手企業に勤め、自分は職に就いたばかり。収入の差は歴然なのに。この嫌がらせに応じれば、次もある―そう思うと、気が重かった。わらにもすがる気持ちで相談窓口に行くと「少額だし、払えば?」と言われた。「額の問題じゃない」。自分の思いが置き去りにされたことにいらだった。

 民法改正で、新たに「面会交流」が明記された。最高裁は昨年3月、離別した父親に子との面会交流を認める判決を出した。面会交流は今、子どもへのDVや薬物依存といった特段の事情がない限り「子の利益」として重んじられる機運が高まっている。

 しかし、当の風香さんには戸惑うことも多い。ある面会で、元夫は長男だけにプレゼントを渡し、次男が大泣きした。親として信じられない。いつも子どもたちに「平等に」と言い聞かせてきた努力が踏みにじられたような気がした。「面会交流を減らしたい」「でも、養育費が受けられなくなるかもしれない」。法的な関連はないが、風香さんには「面会と引き替えに養育費を受ける」ような仕組みにも感じられる。

 離婚から数年がたち、子どもたちも成長した。子どもにいつ離婚の話をしようか、ずっと迷っている。夫婦間の事実は伏せてきた。子どもは状況こそ理解していないが、友達の家庭との違いに気付いているようだ。先日、長男が突然「ママ、離婚しないで」と言ったことがあった。「離婚」という言葉を、なぜ知っているのだろう。切実な表情だった。

 「せめて、受け止めるべきことだけでも整理しよう」。風香さんは行政の相談窓口を頼り、弁護士を紹介された。早速電話すると、その弁護士は数年前に死去していたことを告げられた。専門機関が数年間も死去を把握していないことがショックだった。「選択肢も分からないまま、何もかも、一人で決めなければならない」。離婚から今までの状況を、風香さんは「出口が見えないトンネルの中」と表現する。

静岡新聞社

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