毎日新聞くらしナビ・ライフスタイル:「子ども代理人」活用徐々に

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くらしナビ・ライフスタイル:「子ども代理人」活用徐々に

毎日新聞 2014年02月28日 東京朝刊
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 親の離婚、離れて住む親との交流など、子どもに影響を及ぼす家事調停や審判に、その子ども本人が弁護士とともに参加できる「子ども手続代理人制度」が昨年1月、始まった。まだ少数だが、全国各地で徐々に活用され始めている。制度の意義や課題を探った。

 ●調停や審判に参加

 親が離婚したら、今通っている学校には行けるのか。片方の親と住んだら、もう片方の親と会えないのか。親同士は裁判所で離婚後のことを決めているようだけど、どんなふうに進んでいるのか分からない−−。

 子ども代理人は、このように家族間の紛争の中で「かやの外」に置かれてきた子どもたちの意見を拾い上げようと生まれた制度だ。国連・子どもの権利条約にも定められる「子どもの意見表明権」を保障するため、昨年施行された家事事件手続法に盛り込まれた。同様の仕組みは欧米では既に一般的だ。

 手続法は、本来は調停や審判の手続きに参加できない未成年が、親権者の変更や面会交流など自分が直接影響を受ける事件について、手続きに参加できるようにした。さらに、手続きに参加した子どもを専門的にサポートする「代理人」を、弁護士から選任できるようにした。

 ●意見表明を支援

 子ども代理人がつくまでの大まかな流れをイラストに示した。

 子どもが調停や審判に参加するには、裁判所が「相当と認める時」に強制的に参加させるか、子ども本人が申し立てて裁判所の許可を得る。紛争の当事者である親が、子どもを参加させるよう裁判所に意見を言うこともできる。参加が決まった後、裁判所か子どもが代理人を選任する。

 子ども代理人は、調停や審判の進行状況や今後の見通しを子どもに説明し、子どもが今後どうしたいのか真意を聞き出したり、一緒に考えたりして、裁判所や両親に伝えるのが主な役割だ。

 ●弁護士と信頼築き

 制度はどのような効果があるのか。

 日本の家裁には心理などの専門家である調査官がおり、制度導入前は「役割が重なるのでは」との声もあった。だが、日本弁護士連合会(日弁連)が2月初めに東京都内で開いた市民集会では、実際の活用例から、子どもの立場で自由に行動できる子ども代理人の利点が報告された。

 これまで活用されたのは、小学校中学年から高校卒業後間もない子で、親権変更の審判など全国で約10件。代理人は、子どもの意思の聞き取りのほか▽一方の親からもう一方の親の家へ移動した子どもが学校に行けるよう、学用品の受け渡しを仲介する▽どちらの親と住むのが良いかを子どもが考えるため、双方の親に判断材料を提示してもらう−−など、こまやかな活動をしていた。

 代理人の弁護士は、子どもとの接し方や意思のくみ取り方などの研修を重ねる。信頼関係を築くため、6回以上も子どもと面接を重ねた例も。中立性が求められ、活動時間に制約のある調査官との違いが際立った。

 子どもの参加で、両親間の争いにも変化が起きた。制度に詳しい安保(あぼ)千秋弁護士(京都弁護士会)は「双方が子どもの方を向くことで争いが収束し、和解に至るケースが少なくなかった。離婚時の感情で対立していた親も、『子どものために必要』と代理人が説明すると納得しやすい」と話す。

 子ども代理人の活動について、親が離婚した子どもを支援するNPO法人「Wink」理事長の新川明日菜さん(26)も「実際に意見が反映されるかどうかは別としても、子どもにとって、話を聞いてくれる人がいることが何よりも支えになる」と期待する。

 ●待たれる公費負担

 課題は費用負担。制度上は子どもが負担するのが原則だが、現実的ではない。裁判所が親に負担させる手続きもあるが、弁護士からは「子どもの権利保障の制度なのだから、国費を充てるべきだ」との声が根強い。

 海外でも公費負担の仕組みがある国が目立つ。額は裁判所が決定するが、これまでの事例では、両親が分担の合意をして計20万円前後を負担した。

 日弁連「子どもの代理人制度に関する検討チーム」座長の影山秀人弁護士(横浜弁護士会)は「費用がネックとなり活用を断念した事例も聞いている。早急に公費負担の仕組みに変更すべきだ」と訴えている。【反橋希美】

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