2008年9月3日読売新聞 子の「連れ去り」帰国問題に~

2008年9月3日読売新聞
「国際結婚の離婚後トラブル 子の「連れ去り」帰国問題に」

国際結婚した夫婦が離婚した際、夫婦の一方が子どもを連れて自国に帰り、
もう一方が子どもと引き離されて会えなくなる事態が、各国で問題になっている。
こうした問題に対処するための国際条約「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」に
日本が加入していないことから、日本人の親が子どもを日本に連れ帰ってトラブルになる場合もある。

日本ではあまり知られていない問題だが、
日本に帰ったまま何年も連絡の取れない息子と娘を心配するカナダ人の父親がニュースで紹介されるなど、
欧米では国境をまたいだ子どもの「連れ去り」に対して関心が高い。
カナダから日本に連れて行かれた未解決ケースは30件あり、国別にみると最多だという。

また、米国大使館によると、
米国から日本に子どもが連れて行かれたままの未解決ケースが47件(2008年5月現在)。
国別ではメキシコ、インドに次いで多い。

日本は同条約に加入していないため、海外にいる親は、
日本政府から子どもの居場所を探すなどの協力を得られない。

逆に、日本から海外に子どもが連れ去られた場合にも、
日本の親は日本政府を通じて子どもの返還や面会請求をすることができない。

カナダ外務省領事・緊急事態管理担当次官補のビル・クロスビーさんは、

「この条約によって、子どもは両親どちらにも会う権利を維持できる。
日本人の国際結婚は増えており、日本人にとっても条約は有用だ」

と指摘する。

民間団体の動きも活発になってきた。

「親子の面会交流を実現する全国ネットワーク」(東京)は、
今年7月に東京都内でデモ行進を行い、条約の加入などを訴えた。

「チルドレンズ ライツ カウンシル オブ ジャパン」は、
インターネット(http://crcjapan.com/)などを通じて、
日本政府に「子どもの連れ去り」問題への対処を求める署名活動を行っている。

日本はこれまで、「必要性がない」「準備が整っていない」ことなどを理由に条約に加入していなかったが、
外務省と法務省は現在、加入や国内対応について検討を進めている。

この問題に詳しい弁護士の大谷美紀子さんは、
「海外で暮らす夫婦が離婚する場合、子どもを日本に帰国させるべきではないと主張されることもあり、
条約に加入していないことが子どもたちにとっても不利な状況を生んでいる。
子どもの権利を守るという点からもこの条約に関心を持ってほしい」と話している。

「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」

1980年に採択され、83年に発効。締約国は欧米を中心に約80か国。
子どもがもといた国も、連れて行かれた先も締約国であれば、
自国政府を通じて相手国政府に子の返還や面会請求ができる。

先進7か国の中で、未加入は日本だけ。

(2008年9月2日  読売新聞)

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