河北新報社説:児童虐待最悪/家族全員ケアする態勢を

http://www.kahoku.co.jp/editorial/20140813_01.html

児童虐待最悪/家族全員ケアする態勢を

 社会全体で、あらためて危機感を共有しなければならない。
 児童虐待についてである。2013年度に全国の児童相談所で対応した件数が、初めて7万件を突破した。前年度より10%以上も増え、集計開始以来、23年連続の増加という。
 親や家族によって、子どもたちが体にも心にも癒やし難い「傷」を負わされ、死に至る陰惨な事案も後を絶たない。
 事態が深刻化する前に、子どもたちを守らねばならない。早期の発見、対応が肝要だ。
 疑わしい事案を含めて認知しやすい学校や医療機関、警察と、通告を受ける児童相談所や市町村、福祉関係者らの連携強化は不可欠だ。子どもの安否・状況を速やかに確認し、適切に対処する必要がある。
 だが、肝心の児童相談所はどこも人員不足に悩んでいるという。児童福祉司の数は全国で10年前に比べ1.6倍に増えたものの、この間、虐待件数は2.8倍にもなっている。
 厚生労働省は通告から48時間以内に子どもの安全を確認すべきだと通知している。だが、これでは初動はむろん、その後の対応にも十分に手が回らない。
 一方で最近、増加が著しいのが心理的虐待だ。父が母に暴力を振るう場面を目の当たりにしたり、「産まなければ良かった」などと暴言を浴びせられたりして、心に深い傷を負う。
 そうした虐待の態様変化に的確に対応するためにも、国と自治体はマンパワーを中心に児童相談所の体制充実を図ることが急務だ。
 東北では宮城を除く5県は前年度に比べ減るか微増にとどまった。だが宮城は仙台市が500件、同市以外が752件で、それぞれ13%、16%も増えた。
 震災被害がとりわけ大きかっただけに、被災による親たちの精神的疲弊やストレス、経済的困窮が影を落としていないか、心配になる。
 虐待増加の背景には、地域とのつながりの希薄化による家庭の孤立化・密室化、離婚に伴う母子世帯や非正規就労による貧困の増加といった、重なり合う複雑な要因があるとされる。
 加えて、虐待している親は、子ども時代に虐待を受けていた人が多い、と専門家は指摘する。親自身が深刻な「後遺症」を抱えているという。
 親を責めるだけで問題は解決しない。そうした家族全員の「傷」について、医療を含めケアしていく態勢を地域で構築していくことが必要ではないか。
 育児の孤立化を防ぐ訪問・相談事業をはじめ、生活保護を含む福祉サービスや、安定収入が得られる就労につなげられるよう、関係機関による総合的な支援態勢を充実させなければなるまい。そのことが虐待の予防や事態の改善に結び付こう。
 われわれ一人一人にも、虐待を通告する義務があることを再確認しておきたい。疑わしきを含め虐待を見過ごさず行動することは、子どもを守る第一歩だ。そのことは同時に苦しむ親に手を差し伸べることにもなる。

10年前