http://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000843.html
ハーグ条約の概要と日本の各種法制度
平成26年6月2日
英語版 (English)
1.ハーグ条約の概要と手続の流れ
(1)概要
増加する国際結婚・離婚と「子の連れ去り」
1970年には年間5,000件程度だった日本人と外国人の国際結婚は,1980年代の後半から急増し,2005年には年間4万件を超えました。これに伴い国際離婚も増加し,結婚生活が破綻した際,一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく,子を自分の母国へ連れ出し,もう片方の親に面会させないといった「子の連れ去り」が問題視されるようになったほか,外国で離婚し生活している日本人が,日本がハーグ条約を未締結であることを理由に子と共に日本へ一時帰国することができないような問題も生じています。
さらに近年,日本人の親が自らの子を(元)配偶者に無断で日本に連れ帰る事例が米国,英国,カナダ,フランスなどの政府から報告されている一方,外国人の親により日本から子が国外に連れ去られる事例も発生しています。
子の利益を守る「ハーグ条約」とは?
世界的に人の移動や国際結婚が増加したことで,1970年代頃から,一方の親による子の連れ去りや監護権をめぐる国際裁判管轄の問題を解決する必要性があるとの認識が指摘されるようになりました。そこで,1976年,国際私法の統一を目的とする「ハーグ国際私法会議(HCCH)他のサイトヘ」(オランダ/1893年設立)は,この問題について検討することを決定し,1980年10月25日に「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」を作成しました。2014年1月現在,世界91か国がこのハーグ条約を締結しています。(締約国一覧(PDF)PDF)
なお,ハーグ条約とは,HCCHで作成された30以上の国際私法条約の総称を指すこともありますが,ここでは「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」のことを「ハーグ条約」と表記することにします。
ハーグ条約の仕組み
国境を越えた子の連れ去りは,子にとってそれまでの生活基盤が突然急変するほか,一方の親や親族・友人との交流が断絶され,また,異なる言語文化環境へも適応しなくてはならなくなる等,子に有害な影響を与える可能性があります。ハーグ条約は,そのような子への悪影響から子を守るために,原則として元の居住国に子を迅速に返還するための国際協力の仕組みや国境を越えた親子の面会交流の実現のための協力について定めています。
(1)子を元の居住国へ返還することが原則
ハーグ条約は,監護権の侵害を伴う国境を越えた子の連れ去り等は子の利益に反すること,どちらの親が子の世話をすべきかの判断は子の元の居住国で行われるべきであることなどの考慮から,まずは原則として子を元の居住国へ返還することを義務付けています。これは一旦生じた不法な状態(監護権の侵害)を原状回復させた上で,子がそれまで生活を送っていた国の司法の場で,子の生活環境の関連情報や両親双方の主張を十分に考慮した上で,子の監護についての判断を行うのが望ましいと考えられているからです。
(2)親子の面会交流の機会を確保
国境を越えて所在する親と子が面会できない状況を改善し,親子の面会交流の機会を確保することは,連れ去りや留置の防止や子の利益につながると考えられることから,ハーグ条約は,親子が面会交流できる機会を得られるよう締約国が支援をすることを定めています。
条約を締結する意義
最も優先されるのは子の幸せ
これまで日本から外国に子を連れ去られた日本人の親は,異なる法律,文化の壁を乗り越えながら,自力で不和となった相手と子の居所を探し出し,外国の裁判所に子の返還を訴えなければなりませんでした。また,日本がハーグ条約を未締結である現状においては,外国で離婚し生活している日本人が,子と共に一時帰国しようとしても,仮に一時帰国にとどまらず子の留置に発展したときに条約に基づく返還手続が確保されないとして,外国の裁判所等において子と共に日本へ一時帰国することが許可されないといった問題も発生していました。
しかしながら,日本がハーグ条約を締結することによって,双方の国の中央当局を通じた国際協力の仕組みを通じ,相手国から子を連れ戻すための手続や親子の面会交流の機会の確保のための手続を進めることが可能になります。
それにより,子の不法な連れ去りが発生した際の返還のためのルールが明確となり,国際的な標準(条約)に従って,問題の解決が図られるようになるほか,その国際的なルールを前提として海外で生活している日本人が実際に受けている制約等を回避することができます。
より具体的には,日本から他の締約国への子の連れ去りに対し,返還申請等の相談窓口となる「中央当局」による支援を受けつつ,条約に基づいた返還手続をとることができるようになるほか,外国で生活している日本人にとって,日本がハーグ条約を未締結であることを理由とする子を伴う渡航制限が緩和されることも期待されます。
また,一方の親の監護の権利を侵害するような子を不法に連れ去った場合に原則返還しなくてはならないという条約の原則が広く周知されることにより,更なる子の連れ去り事案の未然防止の効果が期待できます。
さらに,国境を越えて所在する親子が面会できる機会の確保が期待できます。
条約の締結
日本においては,政府が,2011年1月から,ハーグ条約の締結の是非を検討するために関係省庁の副大臣級の会議を開催他のサイトヘし,締結賛成派,締結反対派等各方面から寄せられる意見も踏まえ,日本の法制度との整合性,子の安全な返還の確保,中央当局の在り方等について慎重に検討を行いました。その結果,ハーグ条約の締結には意義があるとの結論に至り,2011年5月に条約締結に向けた準備を進めることを閣議了解し,返還申請等の担当窓口となる「中央当局」は外務省が担うとの方針の下,法務省及び外務省において当事者や専門家等の様々な方面からの声を踏まえつつ,実施法案が作成されました。
そして,2013年の第183回通常国会において5月22日にハーグ条約の締結が承認され,6月12日に「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(いわゆるハーグ条約実施法)が成立しました。
条約及び条約実施法の承認・成立を受け,1月24日,我が国は,条約の署名,締結,公布にかかる閣議決定を行うとともに,条約に署名を行った上で,オランダ外務省に受諾書を寄託しました。この結果,我が国においては,ハーグ条約は,4月1日に発効することになります。
(詳細は締結に至る経緯をご覧ください。)
関連資料
条約テキスト(英語)他のサイトヘ ・(和訳(PDF)PDF)
ハーグ国際私法会議事務局他のサイトヘ
締約国一覧(PDF)PDF
(2)手続の流れ
ハーグ条約においては,主に(1)中央当局による援助と(2)子の返還手続についての内容が定められています。
(ア)中央当局による援助
条約締約国は,ハーグ条約により課される義務を履行するため,政府内の機関を,「中央当局(Central Authority)」として指定する必要があります。日本の場合には,外務省が中央当局を担うこととなります。
子を連れ去られた親は,自国の中央当局や子が現に所在する国(連れ去られた先の国)の中央当局を含む締約国の中央当局に対し,子の返還に関する援助の申請を行うことができるほか,子との接触(面会交流)に関する援助の申請を行うことができます。子が現に所在する国の中央当局は,申請書類の審査を行った後に,返還対象となる子の所在を特定した上で,返還と面会交流の機会を確保するためのあっせん等の支援を行います。中央当局によるあっせんが奏功しない場合には,裁判所が,子を元の居住国に返還するかどうかにつき判断を下すことになります((イ)へ)。裁判所によって子の返還決定が下された場合には,中央当局は,子を安全に元の居住国に返還するための支援を行います。
(イ)子の返還手続
双方の間で話し合いがつかない場合には,裁判所が原則として子を元の居住国に返還することを命ずることになります。ただし,裁判所は,子の生活環境の関連情報や子の意見,両親双方の主張を考慮した上で,以下に該当する場合には,子の返還を拒否することができます。
ア 連れ去りから1年以上経過した後に裁判所への申立てがされ,かつ子が新たな環境に適応している場合
イ 申請者が連れ去り時に現実に監護の権利を行使していなかった場合
ウ 申請者が事前の同意又は事後の黙認をしていた場合
エ 返還により子が心身に害悪を受け,又は他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険がある場合
オ 子が返還を拒み,かつ当該子が,その意見を考慮するに足る十分な年齢・成熟度に達している場合
カ 返還の要請を受けた国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により返還が認められない場合
申請を受けた後の主な流れ
2.ハーグ条約実施法の概要
(1)趣旨
ハーグ条約実施法(「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(平成25年法務省第48号))は,ハーグ条約の実施に必要な国内手続等を定めるものです。
ハーグ条約は,不法に連れ去られた子の迅速な返還の確保等を目的とし,このような目的を達成するため,中央当局は全ての適当な措置をとること,司法当局又は行政当局は子の返還のための手続を迅速に行うこと等を定めていますが,各国における具体的な手続等については各国の制度に委ねられています。日本においては,本条約により導入される制度は新規のものであり,今までの国内法令によっては条約上の義務の履行を担保することはできないため,新規立法が必要になり,そのために策定されたのが,ハーグ条約実施法です。
(2)概要
(ア)我が国の中央当局を外務大臣と指定し,その権限等を定めるとともに,
(イ)子が不法に連れ去られる前に常居所を有していた国に子を返還するか否かを決定するために必要な裁判手続(子の返還手続等)について定めています。
ハーグ条約が45条で構成されているのに対し,実施法は153条で構成されています。
(3)施行日等
(ア)公布日 平成25年6月19日
(イ)施行日 条約が日本国について効力を生ずる日から施行します。
(4)実施法テキスト他のサイトヘ
(5)実施法概略図とポイントとなる条文
実施法概略図
実施法概略図
ポイントとなる条文
中央当局の指定と権限
中央当局の指定 3条
外国返還援助
申請 4条
子の所在の特定 5条
援助決定及び申請の却下 6条 7条
合意による子の返還の促進 9条
日本国返還援助
援助決定及び申請の却下 12条 13条
子の社会的背景に関する情報の交換 15条
日本国面会交流援助 16条~
援助決定及び申請の却下 17条 18条
外国面会交流援助 21条~
援助決定及び却下 22条 23条
子の返還のために必要な裁判手続
管轄
子の返還事件を審理する裁判所を東京家裁,大阪家裁に集中 32条
子の返還事件の審理
子の返還を拒否できる事由について列挙 28条
出国禁止命令制度を規定 122条~
裁判等
終局決定 91条~94条
調停 144条~
和解 100条
不服申立て 101条~
執行手続
間接強制のほか子の返還の代替執行を利用 134条~
法律が適用される事案
附則2条
本法律は法律の施行前にされた不法な連れ去り,留置には適用しない。
(6)関連する政省令等
(ア)国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づく子の住所等及び社会的背景に関する情報の提供の求めに関する政令(平成26年政令第11号)(PDF)PDF
(イ)国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づく外務大臣に対する援助申請に関する省令(平成26年外務省令第1号)(PDF)PDF
(ウ)国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律第5条第3項の規定に基づき外務大臣が都道府県警察に求める措置に関する省令(平成26年外務省令第2号)(PDF)PDF
(エ)国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律による子の返還に関する事件の手続等に関する最高裁判所規則他のサイトヘ