「私一人で育てる」の単独親権は、子供の意思を無視していないだろうか?
http://www.cyzowoman.com/2014/04/post_11961_2.html
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うまないうーまん
2014.04.22
イラスト:小野ほりでい
※先日配信しました当コラムにおきまして、「国際結婚の場合、相手が日本に帰化しない限り、相手と同じ戸籍に入ることもなく、それどころか住民票にさえ相手が記載されることはない」という記述がありましたが、法改正に伴い、外国人も住民票が作成されるようになりました。編集部における事実確認が不十分であったと反省しております。謝った情報を掲載したことをお詫びし、訂正いたします。
サイゾーウーマン編集部
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日本で国際結婚をしているカップルはどのくらいいるか、ご存じだろうか。
2010年のデータを見ると、70万組の結婚したカップルのうち、3万組強が国際結婚である。結婚総数の4%以上が国際結婚ということになり、意外と多いと思ったかもしれない。1980年のデータでは77万組の結婚のうち、国際結婚は約7,200組で、1%未満である。この30年でかなり増えているのだ(ちなみに2000年代は5~6%で最も多かったが、偽装結婚も多かったからという説がある)。ちなみに、「日本女性は外国人男性にもてるからカップルは多いが、日本男性は外国人女性にもてないのでカップルは少ない」という“都市伝説”もあるが、実際には、日本男性と外国人女性のカップルの方が約2万2,800組で、日本女性と外国人男性のカップルは約7,300組なので、3倍以上も多い。
ちなみに国際結婚の場合、相手が日本に帰化しない限り、相手と同じ戸籍に入ることもない。例えば日本人が外国人と結婚する場合、日本人はまず親の戸籍からは独立して、戸籍筆頭者になる。そして、戸籍の本欄ではなく、身分事項の欄に外国人の結婚相手の情報が記載されるだけだ。
「戸籍に日本人しか記載されないのは仕方ない」と思う人もいるかもしれないが、2012年7月までは住民票にさえ相手が記載されることはなかった。これまでは、日本人のみ住民基本台帳法、外国人は外国人登録というシステムで管理されており、日本人と結婚しても住民票には記載されず、本人が望んだ場合に、住民票の備考欄に相手の情報が記載されるだけだったのである。
私の知人である外国人女性は、日本人男性と結婚し子供にも恵まれたのだが、若くして夫を失ってしまった。子供はまだ小学生と幼稚園児。しかし日本に帰化していない彼女は住民票には入れず、住民票に記載されるのは小学生と幼稚園の子供だけで、世帯主は長男である小学生がなっていた。彼女は「夫が死んだ時もつらかったが、3人家族で生きていくのに、自分が住民票に記載されず、息子が世帯主とされたのも同じくらいつらかった。私の国では、外国人も住民票に記載されるのに」と語っていて、本当に申し訳なく思ったものだ。
2012年7月に外国人登録法が廃止され、中長期在留する外国人については新しい在留管理制度が始まって、外国人も条件が該当すれば、住民票を作れるようになったのである。知人家族とは久しく連絡を取っていないが、彼女を世帯主とする住民票が作れたに違いない。
さて、国際結婚をめぐって新たなトピックがあるのをご存じだろうか。それがハーグ条約で、正式な名称を「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」といい、1980年にハーグの国際会議で採択された法律である。これは国際結婚しているカップルが離婚して、一方の親が無断で子供を連れて出国した場合、もう一方の親から申し立てがあれば、原則として子供を元の国に帰すという法律である。
すでに90あまりの国が加入しているのだが、日本が加入していないことが長く問題となっていた。とくにアメリカで暮らすアメリカ男性と日本女性のカップルが離婚し、母親が子供を連れて日本に帰国するケースが問題となることが多かったのだ。
日本では離婚すると、“単独親権”となり、多くの場合(8割以上)は母親が単独親権を持ち、子供と暮らしている(実は1960年代までは父親が親権を持つことの方が多かった。跡取り息子などを母親に任せられないなどの家意識もあり、母親だけが追い出されるケースも多かったという)。アメリカなどの諸外国では、離婚しても“共同親権”となるため、母親が一方的に子供を日本に連れ帰るのを「奪取」や「拉致」と表現するほど、非人道的な犯罪行為だと思われている。
アメリカ人同士が離婚した場合も、一方の親が子供を連れて逃げたら「誘拐犯」としてFBIから指名手配されるほどである(ちなみに離婚して子供をめぐって裁判で争う家庭を描いた映画『クレイマー、クレイマー』は、単独親権だった時代のアメリカの物語である)。このような長年の国際的な圧力を前に、2014年4月に日本もやっと正式加入したのである。
日本がハーグ条約を加入したことは、海外では歓迎されているが、日本国内では賛否両論がある。外国男性と日本女性の離婚の場合は、日本女性がDVなどの被害者である場合が多いという意見もあるからだ。ただハーグ条約では、結婚相手にDVなどがあれば、子供の返還拒否をすることはできる。
私は以前は、ハーグ条約の加入には懐疑的であったが、今では賛成寄りになっている。そもそも単独親権というシステムが、子供のためになっているのかに疑問を持つようになったからだ。たしかに日本では、離婚した母親と子供の家庭の多くは貧困に苦しんでいるし、養育費も8割が支払われていない(ちなみに結婚しないでシングルマザーになったケースでは、離婚してシングルマザーになったケースよりも、もっと苦しい条件になっている)。
そして例えば、「離婚しても父親に会わせたくないから、養育費はいらない。自分一人で子供を育てていく」というシングルマザーもいる。一見すると、素晴らしい決意のように見えるが、そこでは「父親と会いたい(かもしれない)」「父親の養育費で、もう少しいい生活が送れる(かもしれない)」という子供の意思も、「子供に会いたい」「自分の養育費で、子供にいい生活を送らせたい」という父親の意思も、無視されている。
もちろん離婚の背景にはいろいろな事情があるだろう。無責任な父親だって多いのだと思う。しかし単独親権というシステムが、もしかしたら、離婚家庭の子供も母親も父親も追い詰めているという一面があるのではないか、と思うようになったのだ。
日本でも共同親権にしようという団体も多く活動している。 私自身は、自分の育った家庭にも自分自身にも離婚経験はないし(離婚は本当にしんどいとみな言うので、本当に大変なのだろう)、子供もいないという立場ではあるが、今回のハーグ条約加入を機に、国際結婚だけではなく子供の親権の問題など、“子供”を重視するシステムをもう一度考えてみたいと思うのである。
深澤真紀(ふかさわ・まき)
1967年、東京生まれ。コラムニスト・淑徳大学客員教授。2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞。雑誌やウェブ媒体での連載のほか、情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系)の水曜コメンテーターも務める。近著に『ダメをみがく:“女子”の呪いを解く方法』(津村記久子との共著、紀伊國屋書店)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など。