SBSラジオで
2014年5月7日に放送されたものの台本です。
当日は若干違う内容となっています。
野路 【情報三枚おろし】
♪BGM~
時刻は7時 分です。
気になる話題を取り上げる「情報三枚おろし」のコーナーです。
さて、今朝はみなさん、ちょっと耳慣れない「ハーグ条約」についてです。
この「ハーグ条約」、今年の4月1日から日本は正式加盟したんですが、
みなさんご存知でしょうか?
北朝鮮を拉致問題で日本は非難していますが、
実は日本はこの条約に加盟していなくて、
海外から子供の拉致で非難されてきていたそうなんです。
そこで今朝は、「子供に会いたい親の為のハンドブック」の著者で、
今まで多くの相談を受けてきた、
宗像 充(むなかたみつる)さんと電話がつながっているので伺ってみましょう!
もしもし~宗像さん おはようございます!
宗像 おはようございます。
■ まずはこの「ハーグ条約」ですが、一体どんな条約なのでしょうか?
「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」というのが正式名称です。
1980年にできました。
「子の奪取」という名前がちょっとすごいですが、
一方の親の同意のない子の連れ去りは国際的には奪取とされています。
簡単に言うと片方の親が子を不法に海外に連れ去っても、
連れ去られた側からの申し出があれば、その子を元いた国に戻すというものです。
不法というのは、養育権を侵害する場合です。
養育権に争いがあれば、子どもが元いた国のルールで決められます。
子どもにとっては、親どうしの関係が破たんしても、
両方の親と自由に行き来できるほうがいいし、
それは国境をまたぐ場合でも同じ、という考えが条約の背景にあります。
あまり紹介されていませんが、親子の交流に協力することも
加盟国に課されています。
子どもが、暮らしたこともない国にいきなり連れ去られて
親や故郷と引き裂かれるようなことがあってはならない。
そのために即座に返還する手続きが用意されています。
■ これまで日本は、この条約に加盟してないことで、
海外から非難されてきたって本当でしょうか?
それは本当なんですね。
この条約には欧米各国を中心に91か国が加盟していますが、
もちろん加盟していない国もたくさんあります。
だけど未加盟国の中で日本だけに批判が集中しました。
アメリカやフランスで未加盟国に加盟を促すために
議会で非難決議が挙げられましたが、
その際、日本は名指しで批判されています。
制裁まで議論されたんです。
もう10年近く、加盟国の日本大使館は、
日本に加盟を促すシンポを毎年共同で開いてきました。
私たちは「急にどうして」と思うかもしれませんが、
彼らにしてみれば「やっと」という感覚です。
実は、未加盟国の中でも、政府が責任を持って
1度も子の返還に応じたことがなかった国が日本だったんです。
今の日本の裁判所は、子どもを手元に確保しているほうに親権と養育権を与えます。
その上親子交流の権利は保障されていません。
日本に子どもを連れ去られると絶対に戻ってこないし、
生涯生き別れになりかねない。
日本政府も話にならない。
海外から日本に子どもを連れ去られた親は
「拉致問題」で連れ去られた親と同じ感覚でしょう。
日本は、「子の奪取者のサンクチュアリ」と呼ばれることもありました。
■ なぜ日本は、今までこの条約に加盟しなかったのですか?
離婚したら子どもはどちらかが見ればいい、という考えは
日本では珍しくないですよね。
母親が子どもを見るのが当たり前という考えは強かったし、
子どもを連れて母親が実家に帰るということもよくあります。
その考えが強いうちは、今のままでいいということだったんでしょう。
でも、その考えを私たちが変えないうちは、
親権を得るための子どもの奪い合いがますます助長されます。
「クレイマー・クレイマー」という映画がありましたよね。
条約ができる1年前に公開された映画ですが、
アメリカでは親権争いが当時熾烈でした。
そのころのアメリカと今の日本はよく似ていると言われます。
どの国も日本のような状況から、
両方の親が子どもの成長にかかわり続けるように、法律を変えてきたんです。
離婚で親どうしの感情の対立に子どもが巻き込まれることを防ぐためです。
■ この条約に加盟したことで、今後国際結婚をしたけど、
その後離婚することになった場合どのように変わってくるのでしょうか?
そうですね。海外で結婚していた場合は、
日本のような感覚で子どもを連れて国に戻っても、
子どもは返還させられます。
国内から連れ去られた人は、子どものいる国に
返還を求めることができるようになります。
「連れ去り得」は許されなくなります。
■ この条約に問題点などはないのですか?
海外から逃げてきた母親のもとから
子どもを返還するのはかわいそうだという意見が、
加盟の議論のときにはよくありました。
母親の中にはDVの被害を主張している人もいました。
子どもを連れ去ったら海外では刑事罰の対象ですから、
なおさらそう感じられたでしょう。
ただ、この条約は子どものためのものだというのを忘れてはいけません。
繰り返しますが、両方の親が子どもにかかわることが、
子どもの成長にとって重要、というのが条約の背景にある考えです。
返還の対象は子どもであって親ではありません。
DVや虐待の場合には、それに対する例外も条約に明記されています。
条約の加盟国で、裁判所が返還を命じたのは実際には15パーセントです。
任意の返還が2割ほどあるんですが、
これから国際的な調停制度も整えられていきます。
ほんとだったら、子どものことは親どうしの
話し合いで解決するのがいいですよね。
「連れ去り得」が許されなくなるので、
自主的に自分たちの問題を解決するきっかけを得られる、
ということが重要なんです。
これは国内の場合にもあっていいはずのルールです。
国際結婚が破たんした場合が問題にされますが、
この条約は日本人夫婦でも、未婚の場合でも、
片方の親が子を海外に連れ去れば条約が適用されます。
そういう意味では国籍を問いません。
夫婦になって子どもを作った以上、
親としての責任はずっと続く、というのは
何も国際結婚に限ったことではありませんよね。
今朝は、「ハーグ条約」について、
「子供に会いたい親の為のハンドブック」の著者の、
宗像 充(むなかたみつる)さんにお話を伺いました。
宗像さん、ありがとうございました!
以上、情報三枚おろしでした。 →曲へ