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働いても働かなくてもシングルマザーの貧困率が変わらないという衝撃
安倍政権では成長戦略の一環として女性の活用を掲げているが、一方で、働く女性の貧困が大きな社会問題となっている。
あるテレビ番組をきっかけに、ネット上では働く女性の貧困問題に関する議論が活発になっている。働く女性の貧困問題とは、仕事があるにも関わらず貧困水準の生活しかできない女性が多いというもの。特にシングルマザーにその傾向が顕著といわれる。
日本が1億総中流であるという幻想を持っている人はさすがに少なくなってきており、日本が先進国の中で突出して貧困率が高いという現実は、多くの人が知るようになってきた。だが、OECDがまとめた子供の貧困に関する調査結果は、さらに衝撃的なものである。
多くの国で無職の一人親世帯の貧困率は高い水準となっているが、仕事がある一人親世帯の貧困率は一気に低くなる。当たり前のことだが、仕事さえ見つかれば、ほとんどの国では貧困とは無縁な生活を送ることができる。だが、この傾向があてはまらないのが日本である。
日本における仕事がない一人親世帯の貧困率は50.4%なのだが、仕事がある一人親世帯の貧困率もやはり50.9%とほとんど変わらないのである。これは日本だけに顕著な傾向である。仕事がある一人親世帯のかなりの割合がシングルマザーであると考えられるので、働くシングルマザーで貧困にあえぐ人が多いというのは、統計的に見ても事実ということになる。
働く女性の貧困が多い原因のひとつとして考えられるのが、非正規労働に従事する女性の割合である。女性の就業者のうち、非正規労働に従事する割合は50%を超えている。一方、男性の非正規の割合は20%に過ぎない。つまり非正規労働のほとんどが女性となっているのだ。
この結果、女性の平均的な月収は23万円と男性の約3分の2にとどまっている。これは全女性の平均値なので、女性の労働者の中には、月収10万円に満たない人が数多く存在すると考えられる。この収入では子供を育てることはおろか、自身の生活を成り立たせることも不可能である。
もう一つの理由として考えられるのが、生活保護など各種セーフティネットの不備である。日本は生活保護の捕捉率が極めて低く、こうしたシングルマザーの多くは、ほとんどのセーフティネットを受けられない状態にあると考えられる。
日本の生活保護は、満額給付するかゼロかという極端な基準になっているが、欧州や米国では、給付を受けられるサービスが多岐にわたっており、幅広い層をカバーしている。例えば、シングルマザーで仕事に就いている世帯であれば、生活保護は満額受けられなくても、子育て支援費と暖房補助費は給付されるというようなイメージである。
日本の生活保護が、このような極端な内容になっているのは、基本的に家族や親族が生活の面倒を見るということを大前提にしているからである。家族や親族の支援がまったく得られない環境の人しか、原則として給付を受けることができないので、捕捉率は非常に低くなってしまう。
親族が面倒を見るというのは、物語としては美しいものだが、日本は明治維新以後、伝統的な家族制度を、いい意味でも悪い意味でも徹底的に破壊してきた。また伝統的な家族制度というのは、身分格差があってはじめて維持可能なものであり、近代化や民主化がここまで進んだ状態で、生活困窮者の面倒を親族に負担させるというのは、まったくもって非合理的である。
つまり働く女性の貧困問題の背景には、近代化に対して制度や意識が追い付いていないという、日本の社会保障制度特有の問題が横たわっているのだ。
女性の貧困が著しいという問題に対しては、早急な対策が必要だが、同時に、日本の社会保障制度のあり方について根本的に問い直す作業が必要だろう。