2009年06月09日読売新聞
離婚後、我が子に会えなくなる親がいる。
別居する親と定期的に会うかどうかは、子どもにとっても大きな問題だ。
親権者から面会を拒まれた親たちが、「子どもの成長にかかわりたい」と声を上げ始めた。
成長を見守りたい
5年前に離婚した川崎市の女性会社員(36)の楽しみは、
毎月1回、3人の子どもに会うことだった。
面会は親権者の元夫も承認していた。
公園で遊び、自宅で夕飯を囲んだ後、みんなで風呂に入った。
だが、元夫は3年前、「面会は中止」と告げてきた。
再婚した妻への配慮だと思った。
会いたいが、子どもが混乱するのはかわいそう。
「自分があきらめれば子どもたちは幸せになれる」。
子どもと一緒の写真を段ボール箱にしまった。
昨冬、「会いたい」という気持ちが抑えきれず、
葛藤(かっとう)を抱きながら、子どもの小学校を訪れた。
2年半ぶりに対面した長女(11)は「パパに内緒でもいいからママに会いたい」と言ってくれた。
女性は「これからも成長する姿を見守りたい」と語る。
2007年の離婚件数は約25万組で、6割近い夫婦に未成年の子どもがいる。その数は24万人以上。
家族法に詳しい棚瀬孝雄弁護士によると、
別居する親が子どもと定期的に会う「面接交渉」について、
民法に明確な規定がないため、親権者が強く拒めば、面会は困難になる。
一方、諸外国では面会は常識という。
司法統計年報によると、面会を求める調停や審判は07年は計6800件(新規)に上り、
この9年間で3・4倍に増えたが、面会が認められるのは半分程度だ。
面会時の拒絶反応
昨年5月に離婚した都内の自営業男性(45)も、子どもとの毎月1回の面会を元妻と合意した。
再会したのは別居から2年2か月ぶりで、長男(11)と長女(9)に、「元気だった?」と語りかけたところ、
2人は目を合わせず黙り込んだ。「隣においで」と誘っても首を横に振るだけ。同居中は帰宅すると、
子どもたちは駆けよってくれたのに、態度が一変した。
今では、元妻から「会うのが負担だと子どもが言うので会わせられない」と告げられ、面会の予定はない。
男性は「父親らしいことが何一つできない」と涙ぐむ。
離婚と子どもの問題に詳しい棚瀬一代・神戸親和女子大教授(臨床心理学)の説明はこうだ。
普通に仲の良かった親に対し、離婚後に子どもが示す、あからさまな拒絶反応は、「片親疎外症候群」と呼ばれる。
両親間の紛争が激しい場合、子どもがこのストレスに耐える力が弱いと、同居する親が抱く、
別居した親に対する憎しみや不信感などを敏感にくみ取り、会いたいとの思いを封印してしまう。
棚瀬教授は「別居した親に会い続けることで、親子間の絆(きずな)が育ち、アイデンティティーも確立され、
自尊心のある大人に成長できる」と言う。
一方、「夫から暴力を受けた」「連れ去られそう」などの理由で父親に会わせない母親もいる。異性の役割を
強く意識して、子どもに接する親も多い。
昨年7月には、子どもに会えない親たちが「親子の面会交流を実現する全国ネットワーク」を結成した。
目標に掲げるのが、離婚後、夫婦のどちらかを親権者とする単独親権制度の見直しだ。
諸外国のような共同親権とすれば、面会の権利が保障されると訴える。代表の宗像充さん(33)は
「子どもの成長にかかわりたいと願いながらも、会えない親のつらさを理解してほしい」と話す。
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次回は、離婚後の面会を支援する動きがテーマです。