RAFU SHIMPO:ハーグ条約:弁護士が詳細説明会

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ハーグ条約:弁護士が詳細説明会
日本も加盟「正しい知識を持って」

Wed, Apr 23 2014 | 0 Comments

「専門家でも誤解している人が多い」というハーグ条約について、分かりやすく説明した大谷美紀子弁護士

「専門家でも誤解している人が多い」というハーグ条約について、分かりやすく説明した大谷美紀子弁護士

あいさつに立つ総領事館の須賀正弘首席領事

あいさつに立つ総領事館の須賀正弘首席領事

 今年1月に日本がハーグ条約に加盟し、4月1日に発効されたことを受け、外務省のアドバイザーを務めた国際家族法弁護士の大谷美紀子氏を招いた「ハーグ条約説明会」が11日、小東京で催された。会場には、ハーグ条約を正しく理解しようと、専門家やコミュニティーメンバーら約50人が集まった。
 日本のハーグ条約加盟をめぐっては、アメリカで家族を持つ日本人の間でも関心が高く、今後影響を受ける人も出てくることなどを受け、在ロサンゼルス日本国総領事館、リトル東京サービスセンターをはじめ、多数のコミュニティー支援団体が協力し、今回の説明会開催となった。
 
ハーグ条約とは
 
 あいさつに立った総領事館の須賀正弘首席領事は、「国際家族法という分野は日本でも専門家が少ない。その中でも大谷弁護士は外務省の法律アドバイザーとして協力してくださり、非常に心強い存在」と紹介。日本から来米した大谷弁護士は、専門家の間でも誤解されていることが多いというハーグ条約について分かりやすく説明した。
 ハーグ条約とは、国境を越えた子供の不法な連れ去りが起きた場合に、子供を元の国に迅速に返還することを定めたもので、16歳未満の子供が対象。1980年に締結され、現在欧米を中心に92カ国が加盟している。
 同条約は国際結婚した夫婦に限らず、日本人同士の結婚であっても、夫や妻の許可を得ずに無断で子供を国外へ連れ去ることに適用される。
 大谷氏によると、昔は多くの国が日本のように単独親権制度を採用していたため、条約が締結された当時は、親権を認められなかった父親が無断で子供を国外へ連れ去る事例が多かったが、アメリカをはじめ主要国で共同親権制度が採用されるようになった現在は、家庭内暴力(DV)や生活費問題、離婚裁判への不安や費用の問題などを理由に、子供を連れ去る親の7割が母親という。
 
誤解の多い条約
 
参加者からの質問に答える大谷弁護士

参加者からの質問に答える大谷弁護士

 大谷氏は、多くの人が「子供を元の国に返還する=元夫や元妻に子供を引き渡す」と誤解していると指摘。正しくは、「連れ去られた子供をまず住んでいた国に一旦戻し、その国の法律に従い、裁判所や仲介者を通じて親権や子供の将来について話し合いをすること」であると説明した。
 同条約が締結された背景には、(1)夫や妻の許可を得ずに無断で子供を国外へ連れ出すことは違法(2)法律、裁判所の制度はそれぞれの国によって異なるため、残された親が個人で連れ去られた子供の所在を探し出して元の国に連れ戻すのはとても難しい。そのため、国同士が協力し合い、連れ去られた子供の居場所を確認し、元の国に戻し、話し合いに向けた弁護士の手配などを支援する―ためと解説した。
 同条約はあくまで「子供の保護」「子供の返還」を目的にしており、親には適用されない。よって親に引っ越しの義務はないが、現実問題、連れ去った親が母親の場合、子供と一緒に移動を余儀なくされることが多いという。
 さらに子供が返還される「元の国」とは、夫婦や子供の国籍に関係なく、夫婦が住んでいた居住国を意味する。また、加盟したことで子供を連れて日本に帰国、または他国に移動できなくなると危惧する親が多いが、夫や妻の同意または裁判所の許可があれば可能であると強調した。
 日本との違いで気をつけなければならない点として、共同親権制度を採用しているアメリカの場合、「親権」を得て子供と一緒に住んでいたとしても、子供が今後どこに住むかを決める「居所指定権」は両方の親にある。親権を得ても、離婚した相手に引っ越しを告げず日本に帰国してしまう行為は監護権の侵害。不法であることを理解してほしいと訴えた。大谷氏は、「離婚後に子供と日本帰国を希望しているのであれば、離婚裁判の中で伝え、相手または裁判所の了解を得る必要がある」とした。
 
返還義務に例外も
 
 返還義務が免除される例外について、▽子供の監護権を行使していなかった▽子供の移動に同意していた▽子供の心身に危害を加える危険がある▽子供本人が元の国に戻ることを拒否している―などを挙げ説明した。子供本人が帰国を拒否している事例について、条例では特に年齢は定めておらず、子供の成熟度によって判断する。通常は14、5歳という。
 また、親がDVの被害に遭っていた場合でも、子供の返還が免除されることがあるという。しかしその場合、警察の調書や支援団体へ擁護を要請をした記録など、被害を受けていたという証拠を求められることが多いとした。
 一方で、片親により引き離された子供の心情への影響も心配されている。引き離された親との連絡が途絶えるだけでなく、連れ去った親に対する不信感も募り、どちらの親とも関係が悪くなると、イギリスの調査結果が出ていることが分かっていると紹介。大谷氏は、「親が連れて行くのだから問題ないということではなく、親による子供の奪い合いは子供に悪影響」と強調した。
 
加盟の必要性
 
 大谷氏が日本のハーグ条約加盟に賛同する理由として(1)日本が加盟していないことで、日本への連れ去りが発生した場合、海外に置き去りにされた親はわが子に面会することができない(2)子供にとっては両国ともわが国で、本人の意思を無視した移動は子供の心にも負担をもたらす―を挙げ、国際的な共通ルールの中で親と子供の健全な関係を築いていくべきと訴えた。
 今後の対策として大谷氏は、「ハーグ条約、離婚や親権問題に精通した現地の専門家や支援団体に相談を。国によって法律や価値観は異なるため、できる限り現地のことを知るよう各自努力をするべき」とまとめた。
 第2部では、ロサンゼルスで離婚調停や面会支援、カウンセリングなどのサービスを提供するコミュニティー支援団体が紹介され、カリフォルニア州結婚家族療法士の出蔵みどりさんが「片親からの引き離しが子供の心に与える影響」を紹介。最後に、DVの被害に遭った際、どのように警察に連絡をするかについて、元ロサンゼルス市警察のロン・ハセガワさんが分かりやすく説明した。
 南加には多くの支援団体が活動している。照会は、リトル東京サービスセンターまで、電話213・473・3030または日系ヘルプラインまで、電話213・473・1633。
【中村良子、写真も】

10年前