NHK くらし☆解説 「子どもの奪い合いを防ぐために ~ハーグ条約~」2014年04月24日 (木) 

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/186326.html

くらし☆解説 「子どもの奪い合いを防ぐために ~ハーグ条約~」2014年04月24日 (木) 

出石 直 解説委員

Q1、くらし☆解説、岩渕梢です。きょうのテーマは「子どもの奪い合いを防ぐために」

担当は出石 直(いでいし・ただし)解説委員です。

kkk140424_00mado.jpg

「子どもの奪い合い」というと穏やかではありませんが、きょうは以前にもこの番組でお伝えしたハーグ条約についてのお話ですね。

A1、ハーグ条約という国際条約の話ですが、実は非常に身近でしかも深刻な問題なのです。岩渕さん。子どものいる夫婦が離婚した時、子どもはどちらが育てるべきだと思いますか?

Q2、母親が引き取って育てる人が多いような・・・

A2、日本では一般的にはそれが普通と考えられていますが、外国、特にヨーロッパやアメリカなどではそうではないのです。
欧米では、両親は離婚しても親であることに変わりはない。
片方の親が引き取ったとしても、子どもと会ったり遊んだりするのは当然だという考え方です。こうした考え方の違いが、実は長い間、深刻な国際問題になっていました。

Q3、国際問題ですか?

A3、きょう日米の首脳会談が開かれますが、首脳会談で毎回、取り上げられるくらい、欧米諸国はこの問題に強い関心を持っていました。国際問題だけでなく実際に深刻なトラブルも起きていました。
国際結婚をしていたカップルが離婚して、片方の親が子どもを自分の国に連れ帰る。
相手が合意していれば問題ないのですが、無断で連れ帰った場合、欧米などでは「子どもを誘拐した」として罪に問われることもあるのです。
実際にアメリカでは日本人の母親が誘拐罪で起訴されたケースもあります。
こうしたトラブルを防ごうとして作られたのが「ハーグ条約」という国際条約です。
日本は長くこの条約に入っていなかったために「拉致天国だ」などという批判まで受けていたのです。
各国の批判もあって、日本はようやく今月1日から91番目の加盟国としてこの条約に加わりました。

Q4、子どもの奪い合いを防ぐ取り組みに日本も参加することになったわけですね。

A4、どんな条約かおさらいしておきますと、Aという国に住んでいた子どもがBという国に連れ去られてしまった場合、
kkk140424_02_1.jpgkkk140424_02_2.jpg

ハーグ条約の取り決めに従って、Aという国とBという国が協力して、子どもを元々住んでいたA国に連れ戻します。

kkk140424_02_3.jpgkkk140424_02_4.jpg

Q5、でも子どもから引き離されてしまった方の親は納得できないのではないでしょうか。

A5、この条約は、どちらの親が育てるのかを決めるものではありません。
子どもが元々住んでいた国、この場合はA国に戻して、そこで話し合い、話し合いがまとまらなければ裁判で決めることになります。kkk140424_02_5.jpg

元の状態に戻して、親どうしの奪い合いから子どもを守る、子どもの人権を最優先しましょうというのがハーグ条約の精神なのです。

Q6、日本がハーグ条約に加盟したことで何が変わるのでしょうか?

A6、2つのケースをご紹介したいと思います。
まず日本に「連れ帰った場合」です。
例えばアメリカ人の男性と結婚してアメリカに住んでいた日本人女性が、
離婚して相手の合意を得ないまま子どもを日本に連れ帰ってしまった。

kkk140424_03_1.jpgkkk140424_03_2.jpg

アメリカにいる男性から子どもを返してほしいという申請が、政府間のルートで日本の外務省に届きます。

kkk140424_03_3.jpgkkk140424_03_4.jpg

外務省は各自治体や警察などと協力して子どもの所在確認を行います。
この時点で母親が子どもをアメリカに戻すことに同意しなければ、日本の裁判所で子どもを返すかどうかの審理を行います。
裁判所が戻すべきと判断した場合は、子どもは元々住んでいたアメリカに戻されます。
子どもをどちらが育てるのかの判断は、子どもがアメリカに戻った後、アメリカで行われることになります。

Q7、子どもを返してほしいという申請があれば、必ず連れ返されてしまうのでしょうか?

A7、必ずしもそうではありません。
まずこの条約が対象にしているのは、条約発効後、つまり4月1日以降に連れ去られた子どもだけです。それより前のケースは対象になりません。

kkk140424_03_6.jpg

4月1以降の場合でも、いくつか返還を拒否できるケースがあります。
▽子どもが16歳以上である場合、
▽1年以上が経過して、子どもが新しい環境に適応している場合、
▽子どもが戻るのを拒んでいる場合、
このほか▽戻ることで子どもに害悪を及ぼす重大な危険がある、
例えば家庭内暴力を受ける恐れがある場合などは、戻すのを拒否することができます。

Q8、逆に子どもを「連れ去られてしまった場合」はどうなるのでしょうか。

A8、逆のケースですね。
例えば日本で暮らしていた夫婦が離婚して、父親が断りもなくアメリカに連れ帰ってしまった。
kkk140424_04_1.jpgkkk140424_04_2.jpg

この場合は、日本にいる母親はまず日本の外務省に相談して、アメリカ側に対し子どもの所在確認と返還を求めることができます。
kkk140424_04_3.jpgkkk140424_04_4.jpg

先ほど紹介した返還拒否のケースに当たらなければ、子どもは日本に戻されます。

Q9、実際にどれくらいの申請が来ているのですか?

A9、外務省によりますと、条約発効からこれまでに「日本にいる子どもに会いたい」という外国からの申請、あるいは「外国にいる子どもに会いたい」という日本の親からの申請が、合わせて11件寄せられているということです。

ただこの条約は4月1日以降の連れ去りを対象にしていますので、「子どもを返してほしい」という申請はまだ一件もありません。
今後、増えてくるものと見られています。

国際結婚が破たんして別れてしまった「国際離婚」は年間2万件近くに達します。
これからはハーグ条約が適用になりますので、国際結婚をする場合には、その趣旨を十分理解しておかないと、裁判に巻き込まれてしまう恐れがあります。相手の合意を得ないで子どもを連れ帰ることはできなくなります。
何よりも子どもが板挟みにならないよう、こじれる前に当事者どうしできちんと話し合っておくことが大切だと思います。

(岩渕キャスター)
問い合わせや相談は、

「外務省領事局ハーグ条約室」
電話番号は、03-5501-8466、
ハーグ条約の詳しい内容などついては、以下のホームページにも紹介されています。
アドレスは、
URL:http://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html

海外にお住まいの方は、最寄りの日本大使館や総領事館の領事窓口にご相談ください。
弁護士費用などの相談は、ご覧の日本司法支援センターで受け付けています。
「日本司法支援センター(法テラス)」
電話:0570-078374
URL:http://www.houterasu.or.jp   

10年前