YOMIURI ONLINE(読売新​聞):

妻と離婚しても子供と会える?親権は?

母親が子供に会わせてくれないときは?

 前述のとおり、家庭裁判所に調停または審判の申し立てをして、面会交流に関する取り決めを求めることができます。調停手続きを利用する場合には、子の監護に関する処分(面会交流)調停事件として申し立てをします。手続きの中では、話し合いにより、面会交流に関する取り決めを行うよう進めますが、話し合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に審判手続きが開始されて、裁判官が、一切の事情を考慮して、審判をすることになります。

 上記のような手続きにおいて、面会交流に関する取り決めが成立しているにもかかわらず、監護する親(通常は親権者です)がその取り決めを守らない場合は、間接強制の申し立てをすることが考えられます。間接強制とは、義務を履行しない者に対し、「義務を履行せよ。履行しなければ、不履行1回毎に金〇〇円を支払え」と警告(決定)することで義務者に心理的圧迫を加えて、自発的な義務履行を促すものです。

 この点、面会交流は関係者の協力の下に実行されてこそ子の福祉に合致するなどとして、間接強制は許されないとする意見もありますが、実務的には認められています。例えば、岡山家庭裁判所津山支部決定(平成20年9月18日)は、「面接交渉が不履行の場合における間接強制金の支払額は、債務者の拒否的な姿勢のみを重視するのではなく、債務者の現在置かれている経済的状況や1回あたりの面接交渉が不履行の場合に債権者に生じると予測される交通費等の経済的損失などを中心に算定するのが相当であり、本件における諸事情を総合考慮すれば、不履行1回につき5万円の限度で定めるのが相当である。」とし、また東京高等裁判所決定(平成24年1月12日)は、不履行1回について8万円を債権者である相手方に支払うべき旨を命じるのが相当である旨を判示しています。

注目すべき最高裁判所の判断

 従来、この点に関する最高裁判所の判断はありませんでしたが、昨年3月、最高裁判所が、面会交流にかかわる審判に基づき間接強制決定をすることができる具体的な事例を明示して注目を集めましたので、ご紹介したいと思います。

 判断対象となった事案の概要は以下の通りです。

 X(父)とY(母)は離婚し、長女の親権者はYと定められましたが、その後、Xが家庭裁判所において、Yに対し、Xが長女と面会交流をすることを許さなければならないとする審判を求め確定しました。その審判には、(1)面会交流の日程等について、月1回、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時までとし、場所は長女の福祉を考慮してX自宅以外のXが定めた場所とすること(2)面会交流の方法として、長女の受け渡し場所はY自宅以外の場所とし当事者間で協議して定めるが、協議が調わないときは所定の駅の改札口付近とすること、Yは面会交流開始時に受け渡し場所において長女をXに引き渡し、Xは面会交流終了時に受け渡し場所において長女をYに引き渡すこと、Yは長女を引き渡す場面のほかはXと長女の面会交流には立ち会わないことなどが定められていました。

 最高裁判所(平成25年3月28日決定)は「監護親(筆者注:Yを指します)に対し非監護親(筆者注:Xを指します)が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は、上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。」として、原審が下した不履行1回につき5万円の割合による金員を相手方に支払うよう命ずる間接強制決定を正当なものと判断しました。

 この決定によって、例えば「1か月に1回以上、面会交流ができる。具体的な日時、場所等については、その都度協議して決定する。」といった抽象的な内容の取り決めでは間接強制はできませんが、前記のように具体的に取り決めておきさえすれば、間接強制という方法で面会交流を実現することも可能であると最高裁判所が認めたわけです。今後、将来における面会交流の実効性担保という観点からは、面会交流の取り決めにあたって、最高裁判所の上記判断に沿った内容にしなければならないということです。

面会交流拒否に対して慰謝料が認められた事案も

 さらに、離婚した父親の子に対する面会交流を拒否した親権者である母親の不法行為責任が認められた判決もあります。

 静岡地方裁判所浜松支部判決(平成11年12月21日)は、「被告が原告に対して一郎との面接交渉を拒否したことは、親権が停止されているとはいえ、原告の親としての愛情に基く自然の権利を、子たる一郎の福祉に反する特段の事情もないのに、ことさらに妨害したということができるのであって、前項で検討した諸事情を考慮すれば、その妨害に至る経緯、期間、被告の態度などからして、原告の精神的苦痛を慰謝するには金500万円が相当である。」と判示しています。

 従って、このような法的措置をとることを通じて、子供との面会を実現していくことも可能ということになります。

子供の利益が最優先

 以上ご説明したように、日本において、離婚後に父親が子供と会って交流を深めるという制度が必ずしもうまく機能していない現実があるのは事実です。また、先ほど引用した統計上の数字から見て、子供に会えるとしても、一定の条件のもとに、月1回程度となるのが一般的と思われ、相談者が期待するように頻繁に面会できるかは疑問もあります。

 ただ、この点は、離婚時における取り決めの仕方次第で、適宜調整することができますし、万が一、奥さんが取り決めた条件通りに子供と会わせまいとしても、前述したように、法的にそのような妨害を排除する手段も存在しています。

 いずれにしても、改正された民法の規定にも明記されているように、本件のような事案では、「子の利益」が最も優先されるべきであり、単に子供がかわいいから会いたいという感情のみで判断すべきものではないはずです。離婚という大人の事情に巻き込まれた子供の感情によく配慮し、冒頭でご紹介した事件で見られた、独りよがりな対応が引き起こした悲劇も参考にしつつ、両親が十分に協議して、何が子供にとって望ましいかという観点から慎重に判断していただきたいと思います。

※これまでの連載に大幅加筆した法律解説書「おとなのIT法律事件簿」が発刊されました。

11年前