TORJA:ハーグ条約批准決定!  

7月 10, 2013
ハーグ条約批准決定!  
http://torja.ca/business/the-hague-convention%E3%80%80/
—親の事情、国の判断、そして子供たちの自由?について—

newspaper_thehagueconvention本年5月、日本は「国際的な子の奪取についての民事面に関する条約」(いわゆるハーグ条約)の批准を決定した。同条約は、国際結婚していた両親が離婚した際、片方の親の判断で子供が海外に「連れ出された」場合の対応策を規定している。今回の批准はアメリカやフランスなどの強い要請によるものだが、国内には根強い反対意見も存在する。今回は、ハーグ条約を巡る論争点と、その背景について整理してみたい。

本年5月22日、日本の国会は「国際的な子の奪取についての民事面に関する条約」(いわゆるハーグ条約)の批准を決定した。次いで同条約に関する国内手続きを定めた関連法も成立し、本年中の施行に向けての法整備が完了した。

ハーグ条約は、1980年に調印され、83年に発効した。国際結婚した両親が離婚した際、子供をどちらの親が養育するのかが問題となることがある。片方の親が子供を自身の出身国に連れ帰った場合、もう一方の親がそれに同意していないと、「子供の連れ去り」として非難される。子供に会えなくなった親は、子供を元いた国に連れ戻すことを求めるかもしれない。ハーグ条約は、このような場合に「連れ去られた」子供を迅速に当初の居住国に戻させることを目的とし、その手続きについて定めている。現在までに89カ国が加盟しており、近年日本政府に対して早期の批准を求める声が高まっていた。

ハーグ条約への参加が日本に強く要請される理由として、アメリカを中心として、日本人女性と当該国の男性が結婚し子供を養育している段階で離婚すると、その女性が子供を日本に連れ帰って育てることが多く、それへの反発が強いことが挙げられる。他国出身の母親に比べて、本当に日本人女性が子供を連れ帰る比率が高いかは判然としないが、少なくともそのように認識されていることは確かなようである。例えば2010年3月18日、アメリカやカナダなど8か国の駐日大使は、東京・港区でハーグ条約批准を求める共同声明を発表した。また、本年2月14日には、アメリカのルース駐日大使が河井衆院外務委員長を訪ね、今の国会中に批准を実現するよう求めていた。アメリカ本国の上院外務委員会でも日本のハーグ条約批准に関することが取り上げられており、関心度の高さが伺われる。

海外からの強い圧力に反して、国内に批准への反対意見があったことも事実である。反対を訴える人々の主な主張は、いわゆる「連れ去り」が行われた原因について、しっかり考慮する必要があるというものだ。国際結婚し、海外で子供を出産した後、配偶者からの暴力(DV)や子供への虐待に直面し、やむを得ず子供を連れて帰国する例が少なからずあるというのだ。この場合、子供を「連れ出す」ことは本人の人権を守ることに繋がり、決して不当な行為ではないとされる。もちろんこれは「連れ去り」を実行した親の主張であり、保護の必要性の有無は両親の間の論争点となろう。

さらにこの問題の大きな背景として、離婚後の「親権」についての日本とアメリカなどとの考え方の違いを指摘することができるだろう。日本の民法は、単独親権という考え方を取っており、離婚後は両親のいずれかが子供の養育について主たる権限を有することになる。日本では、母親が子どもと同居する場合が多く、そのため母親が親権を有することが多い。一方、フランスやアメリカ(州により制度は異なる)では共同親権の考え方を採用し、離婚後も両親が共に参画して親権を行使する。すなわち、子供がどこに住み、どのような学校に通わせるか、といったことについては両親の同意が必要であり、片親の判断のみで転居などを決定できない。そこで他方の親の許可なく海外への移住を行うことなど言語道断ということになる。こうした考え方がハーグ条約に反映されていると考えられ、そのことが日本での反発を生んでいるのかもしれない。

今回日本政府は、子供の返還が申請されても、虐待などが立証されれば返還を拒否できるとして国内運用を行うという。子供が直面する具体的な危険を回避するとともに、各国の反発に対処するという難しい判断が求められることもあるだろう。批准後の具体的運用について、注視していきたいと思う。

ハーグ条約では、「子供」とは16歳未満の人を意味している。つまり中学卒業頃までは「子供」とされてしまうのだ。条約では、返還要求があっても子供自身が戻ることを拒んだ場合を例外として認めるが、親の都合、国際ルールによって移動を命ぜられる多感な少年・少女のことを思うと心が痛む。「子供」の意思が尊重され、独立した個として敬意を払われることを願わずにいられない。

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伊藤丈人【いとう・たけひと】

神奈川県生まれ。青山学院大学非常勤講師。2009年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科にて博士号取得。専門は国際政治学・政治過程論で、特に地球環境問題に詳しい。視覚障害があることもあり、アクセシビリティや差別の問題などにも広く関心を持つ。単著論文に『食品安全問題を巡る日本国内の政治過程・・・遺伝子組み換え食品とBSE問題を事例として』、共著に『視覚障害学生サポートガイドブック』など。

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