堀尾の保険学:今週の共同養育

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(1)「子どもの親権、交流、親の責任」(Child Custody, Access and Parental Responsibirity)という文章の要旨の部分を読みました。著者は、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のKruk教授です。以下のような文がありました。

・研究によって明らかなのは、親が別居した子どもは、親同士の争いから隔絶され両方の親と意味のある関係を維持する場合に、最もうまく行くことである。

・新しい研究が実証的に明らかにしたのは、単独養育の設定では、時間が経過するにつれて、両親の争いは増加するが、共同養育の設定では、両親の争いは減少することである。共同養育の設定では、時間の経過により、争いが減り、協力が増える。両方の親は、子どもを失って親としての役割を失うことを恐れる必要がない。

・母親の単独親権は、しばしば、片親引き離しや父親不在を引き起こす。父親不在は、子どもの精神的予後を悪化させる。刑務所にいる若者のうち、85%は父親不在である。高校でドロップアウトした若者のうち、71%は父親不在である。家出した子どものうち、90%は父親不在である。父親不在の若者は、重度のうつ状態になりやすく、自殺、犯罪、乱交、十代の妊娠、問題行動、薬物依存などを起こしやすい(参照文献13本あり)。また、父親不在の若者は、虐待の被害者になりやすい。離婚により父親不在になった子どもは、それまでの自己の概念が消失することが多い。

・親が離婚した子どもは、両方の親と同じ時間を過ごすことを望んでいる。そして、身体的共同養育の設定が、最も自分の利益に合致したものであると考えている。親が離婚した子どもの70%は、各親と等しい時間を過ごす設定が、自分にとってベストであると考えている。そして、実際に両方の親と等しい時間を過ごす子どもは、両方の親と最も良い関係を維持している(Fabricius、2003年)。

・共同養育の設定では、単独養育に比較して、子どもは問題行動がより少なく、家族関係がより良好で、学業成績がより良く、自己評価がより高い。こうした共同養育の特徴は、高葛藤のカップルにおいても認められる。

(2)「父親の関与のハンドブック」(Handbook of Father Involvement)という本の第24章「結婚、父親、育児のプログラム」(Marriage, Fatherhood, and Parenting Programming)を読みました。以下のような文章がありました。

・父親が子どもに関与すれば、父親は、子どもの生涯を通じて、子どもの社会的発達、認知的発達、身体的発育を支援する。

・子どもに関与する父親は、生きる目的を強く自覚して、仕事の達成度が良くなる。

・米国政府や地域が、父親の子どもへの関与を促進するために出資する理由は、父親の関与が子どもの健全な発達を促進し、父親自身の健全な成長を促し、母親の育児をサポートするだけでなく、子どもの犯罪を減らし、子どもの他人に対する問題行動や子ども自身の精神的問題を減らし、早期の性的活動や十代での妊娠を減らすからである。

・1995年にクリントン大統領は、政府の関係部局に、「父親が家庭で子どもに積極的に関与すること」を支援するように指示した。

・ブッシュ大統領は、クリントン政権の方針を引継ぎ、2001年に「責任ある父親」の事業を推進するために、6000万ドル(約60億円)を予算配分した。

・父親の関与を促進するために行われているのは、結婚教育プログラム、親教育プログラム、責任ある父親プログラムである。

・初期の「責任ある父親プログラム」は、父親に働きかけるだけであったため、父親から子どもへの養育費は増えたが、父親が子どもに関与する時間は増えなかった。初期のプログラムは、母親には働きかけず、また交渉の仕方を父親に助言することもなかった。母親は、父親が子どもと会う時間を増やすことに同意しなかった。

・結婚教育(夫婦関係教育)プログラムは、有効である。結婚教育プログラムが、夫婦関係の質を改善し、コミュニケーションの技術を改善し、夫婦関係の満足度を高めることは、多くの研究によって実証されている。それはいずれも、子どもの発達を促進する。

・著者は、各州の家族センターを多く訪れたが、それらは女性が好む装飾を行い、母と子の写真を掲げ、待合室には女性用の物品が置かれ、職員も「野蛮な男性から、か弱い女性を守る」という態度であり、「子どもの良好な発達には父親は有害である」という偏見を持っている。父親に友好的な家族センターが必要である。

なお、この文章中には、吉田氏の共著の論文が参照されている。

(3)運動の方向性
欧米では、単独親権でも子どもの時間の20%程度は会えるのに、日本では月に2時間程度しか会えないのは、どうしてでしょうか。欧米と比べて、どこがどう違うのでしょうか。共同養育を実現するために、運動は何をすれば良いでしょうか。

共同養育の問題に興味を持っておられる方は、この点についてどうお考えでしょうか。ぜひ聞いてみたいところです。原因をどう考えるかによって、打つ手は全く異なります。

私は、以下のようであると考えています。

・多くの研究によって得られた科学的知見は、英語で報告されているので、米国ではその成果を多くの人が容易に知ることができる。また、米国政府も父親が子どもと多くの時間を過ごすように国民を啓蒙している。それで、法的共同養育は、ほとんどのケースで実現されており、身体的共同養育(子どもの時間の40%以上を共に過ごすこと)も、半数近くで実現されている。

・ヨーロッパ言語は、相互に似ている。また、複数の言語を理解する人が多いので、米国で知られている科学的知見を、ヨーロッパ諸国では容易に把握できる状況にある。それで、米国に近い状況にある。

・日本では、言葉の壁が厚く、情報の井戸の底にあり、欧米で共通認識となっていることが、日本では把握されていない。

・コーゾー・ヤマムラ氏は、次のように述べている。「政治経済体制は多くの組織と共存共栄の関係にある。したがって、ひとたび深く根を下ろした体制が、本当の意味で急転することは無い」。日本の裁判所が、離婚後の子どもから片親を排除するのは、そうした方が弁護士の収入が増えるという法曹共通の利害関係によるものである。裁判所は、権力機構の重要な一翼を担っており、他の組織と共存共栄の関係にある。

・しかし、日本でも国民の多くは、離婚後の共同養育を支持している。大きな政党は、そのことを理解しているので、ハーグ条約は全会一致で締結され、平成23年の民法改正の付帯決議などは成立するが、実質的には何も変わっていない。

・共同養育が実現するのは次のような経緯が考えられます。

(1)外部の力による
       アメリカの意向‥‥あてにできない
                米国は、自国の利益のために活動する
       IMFの指示‥‥‥‥いつになるか分からない
                日本が経済破綻した後の話 (韓国と同じ方式)

(2)ネットを通じた情報革命による
       ヨーロッパ諸国の同等くらいに、必要な情報が国民に行き渡る場合
       (アラブの春と同じ方式)
       裁判所または議会が、共同養育を認める

(3)議会へのロビー活動による
       (米国の州法改正と同じ方式)

       多数国民の意思を実現する

最近、婚外子差別が解消された理由は、「日本人の結婚観・家族観が、2000年頃に変化したから」ではなくて、「これは法の下の不平等であり、欧米でこうした制度を維持する国は無く、国連の人権委員会から是正勧告が何回も出ている。そのことを多くの人が容易に知るようになった」という情勢の変化によるものだと私は考えます。つまり上記の(2)であると考えます。

・運動の青写真が必要です。活動目標を決めるべきです。3ヵ月後、1年後に何を実現すればよいでしょうか。誰に何を働きかけるべきでしょうか。組織内、組織間の分担はどうなっていますか。そもそも何をするのですか。ネットのニュースを見ながら、何かを待っているのですか。ハーグ条約が成立すれば、それで満足ですか。運動のVWは何でしょうか。方向性、活動内容について、知恵を集めましょう。

11年前