「婚外子」相続差別 最高裁が違憲判断
両親が結婚しているかどうかで子どもが相続できる遺産に差を設けている民法の規定について、最高裁判所大法廷は「社会が変化し、家族の多様化が進むなかで、結婚していない両親の子どもを差別する根拠は失われた」と指摘し、「憲法に違反する」という初めての判断を示しました。 明治時代から続いてきた相続に関する民法の規定は改正を迫られることになります。
民法では、結婚していない両親の子ども、いわゆる「婚外子」は結婚している両親の子どもの半分しか遺産を相続できないと規定されています。 これに対して、東京と和歌山のケースで、遺産相続の争いになり、ことし7月に最高裁判所の大法廷で弁論が開かれていました。 最高裁判所大法廷の竹崎博允裁判長は決定で「子どもは婚外子という立場をみずから選ぶことも取り消すこともできない。現在は社会が変化し、家族の多様化が進むなかで、結婚していない両親の子どもだけに不利益を与えることは許されず、相続を差別する根拠は失われた」と指摘し、「民法の規定は法の下の平等を定めた憲法に違反している」という初めての判断を示しました。 この決定は、審理に加わった裁判官、全員一致の結論です。 大法廷は平成7年に「憲法に違反しない」という決定を出しましたが、その後、結婚や家族に対する国民の意識が変化している実情を踏まえ、今回、18年前の判断を見直しました。 また、決定では「話し合いなどで合意し、遺産相続が確定している場合、今回の判断が改めて影響しない」と指摘し、過去のケースについてさかのぼって争うことはできないとしています。 今回、憲法違反とされたことで明治31年から100年以上続いてきた民法の規定は、改正を迫られることになります。
申し立てた婚外子女性「差別ない社会を」
申し立てを行った和歌山県の婚外子の40代の女性は和歌山市で会見を開き「決定をきいて心が高揚しています。私の価値は相手の方の2分の1ではなく、本当の価値を取り戻したと父に伝えたい。今後は1日も早く法改正が行われ、差別のない社会が築かれることを強く望みます」と話しました。
和歌山のケースの嫡出子「違憲判断は納得できず」
和歌山のケースの嫡出子は、「最高裁の違憲判断は、納得できるものではなく非常に残念で受け入れがたいものです。私たちの母は法律の規定を心の支えに40年間、精神的苦痛に耐えてきました。決定は日本の家族の形や社会状況を理解せず、国民の意識とかけ離れたものと思います」というコメントを出しました。
専門家「迅速に法改正を」
最高裁の決定について、家族法が専門の早稲田大学の棚村政行教授は「大法廷が全員一致で憲法違反だと判断したことは画期的で、非常に重い決定だ」と述べました。 そのうえで、今後の国会の対応について「相続は誰にでも身近に起こる問題で、いまだに解決していない多くの人のケースできょうの決定が影響を与えることが考えられる。国会は迅速に法律を改正すべきだ」と指摘しました。
婚外子制度の歴史は
両親が結婚しているかどうかで子どもの相続に差を設ける規定は、115年前の明治31年に施行された民法で設けられました。 当時の資料などによりますと、この規定は「法律上の結婚を重視しながら、結婚していない両親の子どもにも一定の相続を認める」という理由から作られたということです。 その後、改正すべきだとする声が高まり、平成8年には国の法制審議会が見直しを求める答申を提出したほか、3年前にも国が民法の改正案をまとめました。 また、この規定に対しては、国連の委員会から、「差別的だ」と勧告されるなど少なくとも10回にわたって見直しが求められています。 一方で、「制度を見直せば結婚せずに子どもを産む人が増える」とか「家族制度が崩れかねない」といった反対の意見もあり、改正は行われないままとなっています。
違憲判決は過去いずれも法律改正
最高裁判所が法律の規定そのものを憲法違反としたのは今回が9例目で、過去のケースではいずれも法律が改正されています。 最高裁は昭和48年に、両親や祖父母などを殺害した場合の刑罰を通常の殺人よりもはるかに重くする刑法の規定を憲法違反と判断しています。 また、平成17年には海外に住む日本人の国政選挙の投票を制限していた公職選挙法の規定、平成20年には日本国籍を取得する際に両親の結婚を条件にしていた国籍法の規定について、いずれも憲法に違反するという判決を出しています。 過去の例では最高裁の判決前に法律が見直されたケースを含め、いずれも「憲法違反」と判断された法律は改正されています。 今回、最高裁が違憲判断を行ったことで、相続に関する民法の規定も改正を迫られることになります。
谷垣法務大臣「違憲判断を厳粛に受け止める」
谷垣法務大臣は記者団に対し「違憲立法審査権を有する最高裁判所が、憲法違反の判断をしたことは厳粛に受け止める必要がある。判断内容を十分に精査して必要な措置を講じていきたい。相続は日々起きることなので、『法律にはこう書いてあるが、最高裁判所はこう判断している』ということで、いたずらに混乱を生じさせてはいけない。できるだけ速やかに検討して、速やかに対応策を講じていくのは当然だ」と述べ、民法改正に向けた作業を急ぐ考えを示しました。
今後の動き
最高裁判所大法廷の判断を受けて、法務省は、内容を精査したうえで、民法の改正に向けた作業を進めることにしており、「憲法に違反する」と判断された民法900条の「いわゆる婚外子の相続分は、嫡出子の半分とする」という規定を削除することを検討しています。 この規定を巡っては、法務大臣の諮問機関である法制審議会が、平成8年にすでに見直しを求める答申を出していることなどから、法務省は、今回は法制審議会に諮問せずに作業を進めたいとしています。 法務省幹部は「民法の改正案がまとまりしだい、できるだけ早く国会に提出したい」としていて、早ければ秋の臨時国会にも改正案を提出する方向で、政府内や与党との調整を行うことにしています。 ただ、自民党をはじめ与野党の保守系の議員からは、「婚外子と嫡出子の相続を平等にすれば、現在の結婚制度そのものが崩れかねない」といった懸念も出ており、今後の調整に手間取ることも予想されます。