変わる?母子密着の家族観 ハーグ条約、運用に課題
2013.6.15 20:25 (1/2ページ)
国際結婚が破綻した夫婦間で子供の奪い合いが起きた際のルールを定めた「ハーグ条約」に加盟するための関連法案が12日、成立した。年度内にも加 盟の見通しだが、今後は実際の運用の行方に注目が集まる。母子密着傾向が強いとされる日本の家族観の下で、加盟各国と協力して運用ができるかが大きな課 題。また、離婚においてはドメスティックバイオレンス(DV)が原因と主張するケースも多く、「子供の利益」の観点でそれをどう判断していくかも難しい問 題だ。
ハーグ条約には5月現在、米国や欧州連合(EU)加盟各国、韓国など89カ国が加盟しているが、それぞれ家族観は違う。日本では他 の国に比べて母子の密着度が高いとされるほか、離婚後の共同親権が認められていない。ハーグ条約加盟で家族のあり方も変化していくのだろうか。
国際結婚破綻による子供引き渡し請求事件を手掛ける池田崇志弁護士は「日本社会の家族への考え方は確実に変わっていく。日本の家族法制度は改革が必要。まず、離婚後の共同親権を認めるべきだ」と話す。
国際的な子供の連れ去り問題に詳しい大谷美紀子弁護士は「ハーグ条約加盟で、日本と諸外国との離婚、親権などの考え方の違いが浮き彫りになる。国内法改正議論が高まってくるだろう」と予測する。
池田弁護士は「『日本は形式的に条約を締結しただけでは』とみる加盟国もある。諸外国との協力による運用がないと国際的信用を失う」と、条約趣旨に沿った厳格な運用を求める。
また、離婚原因として多いDVをどう取り扱うかも大きな問題だ。
池田弁護士は「欧米では、連れ去った親が女性の場合、ほぼ100%でDVが主張され、連れ去り正当化のためにDVをでっち上げるケースも相当数含まれるといわれる。日本でも同様の状況が予測されるため、認定は慎重に行う必要がある」と話す。
カナダ・トロントで暮らす日系コミュニティの生活相談の受け皿となっているジャパニーズ・ソーシャル・サービス(JSS)の公家孝典カウンセラーは、日本に連れて来られた子供の返還についての家庭裁判所の判断に注目している。
ハーグ条約では、当事者間の協議が不調の場合、東京、大阪家庭裁判所が子供を元の国に戻すかどうかを決める。日本の条約実施法では、子供を元の国に戻すと身に危険が及ぶ場合などに、返還を拒否できる規定もある。
公家氏は「DVの対象がが配偶者だけで子供へはない場合もある。カナダではその場合でも加害者に子供への面会権が与えられる場合も多い。こうしたケースで 日本の家裁が返還を拒否していくようだと、各国から反発も予想される」と話す。「子供の利益」を最優先に、個々のケースでの冷静な判断が求められる。
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【用語解説】ハーグ条約
正式名称は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」で、1983年発効。国際結婚の破綻で一方の親が16歳未満の子供を国外に連れ去り、もう一方の親が返還を求めた場合に、原則として子供を元の国に戻すことを義務づけている。