「ハーグ条約」への加盟案と国内実施法案、国会で4月4日から審議が始まる
日本政府は2013年3月15日 の閣議において、国際結婚などで破綻した夫婦間で国境を越えた子どもの「連れ去り」が起きた際のルールを定めた「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する 条約」(ハーグ条約)加盟への承認案と「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案」(国内実施法案)を決定し、同日中に第183回国会(13年1月~6月)に提出していましたが、4月4日の衆議院本会議で岸田外相が条約承認案を、谷垣法相が実施法案の趣旨説明を行いました。それを受けて、民主党や公明党など4党とのあいだで質疑が行われました。その後、4月5日に外務委員会で、10日に法務委員会で審議が始まりました。
ハーグ条約は、一方の親が無断で子ども(16歳未満)を国外に連れ去る問題を解決することを目的に、ハーグ国際私法会議で1980年 に採択された条約です。残された親が返還を求めた場合、元の居住国(常居所地国)に子どもを戻すのを原則としています。また、国境を越えた親子の面会交流 実現のための協力について定めています。同時に、例外として子どもにとって返還が身体的・精神的に危険がある、連れ去りから1年以上経過して新しい環境に馴染んでいる、子ども自身が返還を拒んでいるなどの事情が認められれば返還を拒否できることも規定しています。
近年、国際結婚によって米国をはじめとする欧米諸国に移住し た日本人女性が結婚の破綻を契機に子どもを日本に連れて戻った結果、連れ去られた外国人の夫が子どもから引き離されても救済手段がないというケースが多発 しているとして、欧米加盟国は日本の加入を繰り返し要求してきました。12年12月現在、世界で89カ国が加盟しており、G8諸国のうち未加盟は日本のみとなっています。
民主党政権下の12年3月、条約加盟に向けて承認案と国内実施法案が国会に提出されましたが、審議されないまま同年11月の衆院解散で廃案となった経緯があります。
懸念を表明するNGO
ハーグ条約の締結をめぐり、日本で女性のDV被害者支援や移住女性の支援、国際結婚をめぐる諸課題に取り組む団体などは、ハーグ条約そのもの、およびそれに基づいて策定された国内実施法案に対して、DV被害女性の保護や虐待を受けた子の利益を著しく損なう危険性があるという強い懸念を示しています。
たとえば、「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)は、国内実施法案について、a. 返還命令にあたって、返還が子の利益に適合的かを審理の対象とせず、原則として、子の返還命令を義務づける内容となっており (法案27条、法案152条)、子の最善の利益が審理の対象となっていない、b. 法案では「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること」(28条1項)と返還拒否事由を規定しているものの、「連れ去り親」に対するDVが例外事由として明記されていないなど、きわめて狭い規定になっている、c. 元の国に返還された後の適正な審理が保障されていない、d. 日本に「連れ帰られた子」について、警察を含む日本の行政機関が、学校や民間シェルター、携帯電話会社などにまで情報提供を要請するとされていることから、所在捜査や返還の執行が、人権侵害をもたらす懸念がある、と表明しています。
そのような論点を根拠として、法案内容を懸念するNGOや法律家は、審議に関わる国会議員に対して子どもの最善の利益の確保、および移住女性を含む女性の人権の保障の明確化などを求めて働きかけを行っています。
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案
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