山陽新聞:[社説]ハーグ条約承認 適切な運用で子ども守れ

[社説]ハーグ条約承認 適切な運用で子ども守れ

http://www.sanyo.oni.co.jp/news_s/news/d/2013052608550615/

「ハーグ条約」への加盟が国会で承認された。国際結婚が破綻した夫婦間で子どもの奪い合いが起きた場合の、子どもの扱いを定めた国際的なルールである。早ければ年内にも加盟する見通しだ。

条約は、一方の親が16歳未満の子どもを国外に連れ去る行為を「不法」と位置付け、元に住んでいた国に戻すことを原則としている。

例えば日本人女性が外国人の夫と離婚し、子どもを連れて帰国した場合、元夫から返還のための援助申請を受け、外務省に設置される政府機関「中央当局」が子どもの居場所を捜す。その際、自治体や学校、警察などにも協力を求める。

子どもを見つけた後、当事者同士で話し合うが、不調に終われば、東京か大阪の家庭裁判所が審理を行う。返還命令が出れば母親が拒んでも強制的に子どもを返すための措置が取られる。

とはいえ、離婚や連れ去りの背景に家庭内暴力(DV)がある場合も少なくない。日本では、DVを逃れて子どもを連れ帰る母親のケースが目立ち、連れ去りを不法とする条約への参加には根強い慎重論もある。

条約は、虐待などが立証され、返還すれば子どもに「重大な危険」が及ぶと判断されれば返還を拒否できると規定する。子ども自身が戻ることを拒んだ場合も例外となる。

子育ての環境や子どもの思いに十分配慮した上で家裁の判断が下されることが重要になる。子どもの利益をうたう条約が、子どもを苦しめるのでは本末転倒だろう。

条約は1983年に発効し、米国や欧州連合(EU)各国、韓国など89カ国が加盟している。主要国(G8)では日本だけが未加盟で、“外圧”も受けてきた。

運用に当たっては、当事者への国の支援態勢が欠かせない。虐待などの事実を立証するのは子どもを連れ去った側の責任になる。やっとの思いで逃げ 帰った人が個人で十分な証明をするのは困難なこともあろう。外務省は、海外の日本大使館などでDV相談に積極的に乗り出すという。相談記録は家裁での審理 で証拠にもなる。相談の仕組みを整え、有効に生かしたい。

一時保護用のシェルターなど居住国の救済制度を紹介したり、福祉や法律の専門家に仲介することも大切だ。相談者の状況に応じ、きめ細かい支援を提供する必要がある。

日本から子どもが連れ去られるケースでは、日本に残された親が返還を申請する。ただし、中国やフィリピンなど条約未加盟国の元の妻や夫が連れ去っても、条約の効力は生じない。未加盟国への働き掛けも今後の課題となる。

国際ルールに基づき、子どもをしっかりと守ることが肝心だ。子どもの利益に反する形で親から引き離されたり、生活環境が損なわれてはならない。適切に対処できるよう準備を進めてもらいたい。

11年前