神奈川新聞社説:ハーグ条約

ハーグ条約

2013年5月30日

http://news.kanaloco.jp/editorial/article/1305300001/

「子の利益」を最優先に

国際結婚が破綻したケースで国境を越えた子どもの連れ去りを「不法」とする「ハーグ条約」へ、日本が年内にも加盟する見通しとなった。国会が承認し、条約とセットとなる国内法の見直しなども近く整う。

条約は、16歳未満の子どもを一方の親が無断で国外に連れ去った場合、残された親が要求すれば、原則として婚姻当該国に戻さなければならないことを定めている。養育費などをめぐる協議は居住国で行った方が「子の利益」につながるとの判断による。

しかし、家庭内暴力(DV)などから逃れるための出国は、連れ去りとは言い切れない。夫婦のどちらの権利に軽重を置くかなどが論点になりがちだが、「子の利益」を最優先に考えたい。関連法の整備などは子どもの人権保護を軸に進めてほしい。

ハーグ条約には米国や韓国、欧州連合(EU)傘下国など89カ国が加盟している。主要国(G8)で未加盟なのは日本のみだ。

わが国では、国際結婚をした日本人の母親が「DVを避けるため」として子どもを連れ帰国するケースが目立つという。欧米からは「連れ去り大国」との批判を浴びてきた。

条約発効後は外務省が責任機関として各種実務を行う。「連れ去られた」との届け出があった子どもの居場所の確認、当事者間の話し合いのサポートなどだ。不調に終わった場合には家庭裁判所の判断を仰ぐ。

課題はDV被害など緊急性の高い訴えに即応できるかどうかだ。日本政府は関連法に「虐待の恐れがある場合には子どもを引き渡さない」という拒否規定を盛り込むが、適切な運用には証拠が必要となる。

成否の鍵を握るのは各国に置かれている日本の大使館や領事館であり、相談機能の充実が急がれる。DVなど人権侵害行為を伴う事案については、当該国の相談窓口を紹介し、司法上の必要な手続きも促してほしい。

経過をきちんと記録することも欠かせない。当該国での公的な手続きは、引き渡し拒否の規定を行使する上での確実な証拠となろう。

外務省は条約加盟国への派遣職員を対象に研修を行うとしているが、相談を受ける専従者を増員してはどうか。条約加盟を前向きに捉え、国際結婚をサポートする仕組みを整えれば、日本の地位も高まるはずだ。

11年前