愛媛新聞社説:ハーグ条約加盟へ 子どもの福祉第一に支援策を

特集社説2013年05月26日(日)

ハーグ条約加盟へ 子どもの福祉第一に支援策を

http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201305268951.html

国際結婚が破綻した夫婦間で子どもの奪い合いが起きた際、一方の親が国外に子どもを連れ去る行為を「不法」とし、子どもを元の居住国に戻すことを原則とする―。この国際ルールを定めた「ハーグ条約」に日本が年内にも加盟する見通しとなった。
連れ去りでは、国外で家庭内暴力(DV)を受けて追い詰められた母親が、子どもを連れて、やむを得ず日本に逃げ帰る事例も目立つ。「返還」の原則と、社会の現実の間には矛盾があり、問題を抱える。
そもそも、複雑な家族の事情を一律のルールで解決しようとすることには無理があり、子どもが犠牲になる恐れがある。政府は子どもの福祉を第一に、条約の不備を埋める支援策強化に早急に取り組まなければならない。
条約運用の主導的役割を担うのは外務省に設置する「中央当局」。メンバーは外務、法務両省職員や弁護士ら約10人。自治体や学校、警察に子どもの所在情報などの提供を要請できる仕組みも政令や省令で整備する。
海外に住む元夫が中央当局に返還申請をすると、同局は子どもを捜し、当事者間の解決を促す。不調に終われば、東京か大阪いずれかの家庭裁判所で審理。返還命令が出て元妻が拒むと、財産の差し押さえや執行官による強制的な引き離しが行われる。
虐待の恐れがある場合、返すのを拒否できる例外規定はある。しかし、過去だけでなく将来にわたってDVや虐待を受ける可能性を立証する必要がある。しかも6週間の迅速審理が求められており、ハードルは非常に高い。
また、返還を求めた親の養育能力に関する事前審査はなく、海外では、条約に基づいて父親の国に子どもを返したら、養育能力がなく里親に預けられたケースもある。子どもを犠牲にしないよう十分な調査体制が不可欠だ。
ハーグ条約は30年前に発効した。子どもが、もう一方の親と会えなくなったり、生活環境が激変したりする不利益を受けないよう取り決めたが、当 時はDVや虐待の実態に対する認識が十分ではなく、子どもの権利への配慮が足りない。その条約に加盟する限り、不条理な結果を回避する対策は国の責務だ。
DV被害者が国外に逃げなければいけないような事態を未然に防ぐため、海外での相談体制も欠かせない。
条約に未加盟なのは主要国(G8)では日本だけだ。加盟していないために、子どもを連れての帰国すら止められる理不尽な事例もあり、加盟を歓迎する声もある。しかし今回、政府は米国からの再三の要求に応じて加盟を決めた。その陰で子どもたちが泣くなど許されない。

12年前