ハーグ条約加盟へ 子の利益 どう考えるか
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh201305260070.html
日本人の国際結婚の破綻は年2万件近くに上る。海外で離婚した日本人が一方的に子どもを連れて帰国した後、元の居住国から誘拐罪で指名手配されるなど、思わぬ事態も起きている。
国際離婚した夫婦間で子どもの奪い合いとなった場合のルールを定めたハーグ条約に、日本が加盟することになった。参院本会議が全会一致で承認した。国内の関連法を整備し、年度内にも正式加盟する見通しだ。
すでに89カ国が条約に加盟し、先進国では日本だけが未加盟である。加盟国同士、共通ルールに沿ってトラブルの防止や解決が図れること自体は評価していいだろう。
条約は、子どもを元の居住国へ返すことを原則としている。
離婚後に帰国した日本人女性が問題となるケースでは、海外に住む元夫からの求めに応じて外務省が子の居場所を特定し、親同士の話し合いによる解決を促す。不調に終われば、家庭裁判所が子どもを元の居住国に返すかどうかを決める。
まずは子どもを住み慣れた土地に戻す。その上で養育や親権の問題を協議するのが子ども自身の利益にかなう、というのが条約の考え方である。
タイ人元妻が帰国後、子どもと会えずにいる日本人男性の場合なら、タイ当局に子どもの帰国働きかけを申請する道が開ける。
ただ懸念もある。外国人元夫による家庭内暴力(DV)から逃れて帰国した女性のケースが少なくない。日本が条約批准に慎重だった一因である。
政府は条約の関連法で、DVが子どもにも及ぶ恐れがある場合など、元の居住国に返すことを拒否できる例外規定を盛り込む。子どもの立場を考え、慎重な配慮をすべきは当然だ。
問題は、どれだけ実効性を伴うかだろう。ハーグ条約にも同様の例外規定はあるが、国内法でも明記するのは異例だという。相手国から理解を得られない可能性は否定できない。
海外で受けたDVを立証するのも、簡単でない。情報収集などで在外公館の支援体制が問われよう。在留邦人に対し、ハーグ条約について知っておいてもらう努力も欠かせない。
日本は欧米から、子どもの「連れ去り大国」と批判されてきた。背景には親権をめぐる日本と欧米の制度の違いがある。
欧米では離婚後でも「共同親権」が普通である。子どもは当然のように、両親の間を行き来する。一方の親に会わせないのは子どもの権利の侵害となる。ハーグ条約の原則でもある。
ところが日本の民法は、離婚すれば単独親権しか認めない。このため親権争いに発展しがちだが、実際には母親が圧倒的に有利だ。面会交流に強制力がなく、わが子となかなか会わせてもらえない親も少なくない。
ハーグ条約ではこういったケースが連れ去りとされるのに、国内の離婚では問題にならないのはおかしい、という声もある。確かにちぐはぐである。本来なら条約加盟の機会を捉え、日本の親権のあり方や民法改正の是非をも根本から検討すべきだったろう。
最近は熱心に育児に関わる「イクメン」も多い。子どもが親と会う権利。親が子どもに会う権利。両方の観点から議論していくべきである。