時事:ハーグ条約、消えぬ不安=「子ども返還増える」-紛争解決、期待の声も

ハーグ条約、消えぬ不安=「子ども返還増える」-紛争解決、期待の声も

ハーグ条約の加盟承認案が参院で可決、早ければ年度内にも加盟が実現する見通しになったが、国際離婚の当事者からは期待だけでなく、不安の声も上がる。海外からの子どもの連れ戻しが容易になる一方、返還の可能性もあるためだ。
◇国際ルールに期待
「条約に加盟していたら、元夫はあんな行動を取らなかったはずだ」。米国人男性と離婚した熊本県の女性(42)は悔しさをにじませる。2006年、元夫は夏休みの帰省を装い、子ども2人を連れて米国に帰国。そのまま戻らなかった。
子どもが海外に連れ去られたケースでは、条約は原則、元の居住国へ返還した上で親権などを決めるとしている。女性は子どもたちの環境変化を望んでおらず、 返還ではなく面会交流を求めているが、実現はしていない。条約は加盟前の事案に適用されないが、「問題の解決には国際的なルールが必要だ」と加盟を歓迎す る。
離婚問題などに詳しい棚瀬孝雄弁護士も、加盟に賛成とした上で、「前提として子の連れ去りはあってはならず、日本に連れ帰った場合も元の国へ返還してから、もう一度話し合いで決めることが重要だ」と話す。
◇返還拒否は困難?
海外から子どもを連れ帰った日本人からは、加盟を懸念する声も出ている。オーストラリア人男性と離婚し、子どもと帰国した大阪市の女性(43)は「加盟し なくても問題は解決できる。海外に子を返還する事例が増えるだけでは」と話す。元夫からは親権訴訟を起こされ、現地では誘拐容疑で逮捕状が出ているとい い、「加盟後は、元夫からの要求がエスカレートする」と声を落とした。
加盟に反対する大貫憲介弁護士によると、日本への連れ帰りは大半が女性で、配偶者間暴力(DV)などから逃れたケース。条約実施法案では子にDV被害の恐れがある場合などは返還を拒否できるとし、東京、大阪の家庭裁判所が判断する。
ただ、海外でのDV被害の立証は困難が予想され、大貫弁護士は「『二度と暴力を振るわない』と誓約書が出されると、裁判所も返還を認めざるを得ないだろ う」とも指摘。「環境変化は相当な負担。『原則、元の国に戻してから考える』というのは、子どもの福祉を害する」と批判している。(2013/05 /22-06:09)

11年前