フランスニュースダイジェスト:日本も加盟へ ハーグ条約とは?

日本も加盟へ
ハーグ条約とは?

http://www.newsdigest.fr/newsfr/features/5740-the-hague-convention.html

ハーグ条約の承認案が2013年4月23日に衆院本会議にて全会一致で可決され、5月9日には加盟した場合の裁判手続きなどを定めた関連法案も可決された。着々と進むハーグ条約加盟への道。日本が条約に加盟するとは、具体的にどのようなことなのだろうか?
(Texte:編集部)

子供の利益を守るために

ハーグ条約は、子供の利益を守るためのものである。この条約では、16歳未満の子供が無断で片方の親に国境を越えて連れ去された場合、原則として子 供を元の居住国へ返還するとしている。返還の理由は、連れ去られ、生活環境が急に変わることで、子供は言語や文化への適応を強いられるほか、それまでに交 流のあった親族や友人と離れ離れになってしまうことになり、このことが子供にとって有害な影響を与える可能性があるためだ。また、国境を越えてしまうこと で親と子供が会いにくくなる状況を改善し、親子の交流を図る機会を与えることが子供にとって利益になるという考え方から、ハーグ条約ではそのような面会の 機会を得られるように、締結国が支援をすることも定められている。

「連れ去り」問題の背景

外務省によると、日本人と外国人の国際結婚は、1980年代の後半から急増し、2005年には年間4万件を超えた。結婚するカップルの増加に伴い、 残念ながら離婚に至るケースも増え、片方の親がもう片方の親の許可を得ずに、母国へ子供を無断で連れ去ってしまう問題も生じるようになった。

主要8カ国の中で、現在条約に加盟していないのは日本だけであり、国際離婚が増加するにつれ、欧米から強く加盟を求められてきた。その理由は、日本 人の親が配偶者に無断で子供を日本に連れ帰るという事例が欧米諸国などから報告されており、外国人である配偶者が子供の居場所を見つけることができない、 会うことができないという問題が出てきているからだ。

フランス人と日本人が離婚する際に生じる問題の1つに、親権に関する考え方の違いが挙げられる。日本は親権を母親か父親の一方に定めるが、フランス では両親の共同親権が原則。片方の親が子供と共に住める監護権を持ち、もう片方が定期的に子供と会える面会権を得る。外国人である日本人でも監護権を得る ことは十分可能だが、子供を育てられるだけの十分な経済的保障を示せ、離婚後もフランスに留まる場合がほどんど。フランスの裁判所は、フランスで育った子 供にとって最良の選択は、同じ環境で生活し続けることだという判断を下す傾向があり、子供を連れて日本へ帰ることを認めないケースが目立つ。しかし現実 は、フランス人のパートナーを失った日本人にとって、1人海外で子供を育てるのは容易ではない。まして、それまで専業主婦だった人や、フランスでの経済基 盤を築けない人にとって、子供を連れて日本へ帰り、母国で一からやり直したいと考えるのは当然とも言える。これが子供の「連れ去り問題」を引き起こし、現 在「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」への加盟要請が各国からなされてい所以だ。

日本が条約に加盟していない場合、たとえフランスの裁判所で「子供を連れ戻せ」との判決が出たとしても、日本に子供がいる場合には、判決は執行され ない。ただし、子供が日本を出てハーグ条約を締結している国へ入国した場合は、その国からフランスへ連れ戻されてしまう。それを防ぐためには、子供を日本 から出国させないという事態にもなりかねない。

加盟することのメリット

一方、外国人配偶者が子供を勝手に国外へ連れ出し、音信不通になり苦しんでいる日本人がいるのも現状。このような場合、日本が同条約に加盟し、子供 の返還を要求することができることで、ようやく新たな道が開けることになるだろう。ただし、条約に加盟しても、条約発効前に連れ去られた件に関しては、条 約に基づく子の返還手続きが適用されない。それでも、親子間の面会について中央当局に支援を求めることが可能になるので、メリットは大きいといえるだろ う。

また日本に帰りたくても、日本がハーグ条約に加盟していないことが理由で、外国人の(元)配偶者が子供と音信不通になることを恐れ、帰国を許さない ケースもある。このような場合、条約に加盟することで相手の不安が減少し、帰国にも同意してくれるようになるのではないだろうか。

子の返還を求める手続きとは?

ハーグ条約が締結されると、締結国には政府の窓口(中央当局)が設置される。申請者は各国に設置された中央当局に申請することで手続きを開始し、各 国の中央当局同士で協力し、子の返還、もしくは面会の機会を確保するように動いていく。例えば、元配偶者が子供を無断で日本から海外へ連れ去ってしまった 場合、監護権を持つ親は、日本または子供が連れ去られた国の中央当局に対して、子の返還のための支援を申請することができる。また、子供との面会を求める 場合にも、同様に母国または連れ去られた先の国の中央当局に対して、子供との面会を実現させるための支援を申請することができるわけだ。

しかしハーグ条約は、あくまでも子供の利益を保護するものであるため、子供にとって不利益だと判断された場合には、子供の返還が拒否される場合もあ る。具体的には、子供への虐待があった場合や、配偶者に対するドメスティックバイオレンスがあった場合など、子供の心身に悪影響を与える恐れがある場合に は拒否される可能性がある。また、連れ去られてから1年以上たち、子供が新しい環境にすでに順応している場合や、子供自身が拒んだ場合で、子供が自分の意 見を述べるのに十分な年齢に達している場合にも、拒否されることがある。もしくは、申請した者が、事前に国を去ることについて同意していたり、事後に黙認 していた場合にも、却下される可能性がある。

ハーグ条約関係の問題で疑問点などがある場合には、在仏日本領事館や法律の専門家に問い合わせてみよう。

※ 参考文献:ハーグ条約を知っていますか? (外務省)、わかる!国際情勢vol.82(外務省)

12年前