ハーグ条約に揺れる親心 今年度内にも加盟実現
- 2013/5/16 1:49
国際結婚後に離婚した夫婦間の子供の扱いを定めた「ハーグ条約」への加盟が実現する見通しとなり、国内の離婚経験者らに期待と不安が広がっている。海外の元パートナーの下から子供を連れ戻しやすくなる一方、国外への引き渡しを強いられるケースもあり得るためだ。子供の居場所を決定づけるのは配偶者間暴力(DV)などの有無。結論を下す各国の裁判所の判断が今後注目される。
ハーグ条約は離婚夫婦の一方が無断で16歳未満の子供を国外に連れ去り、もう一方が返還を求めた場合にどちらの親が育てるか決める仕組み。今国会で条約承認案と、国内関連法案が衆院を通過した。近く成立し、日本は年度内にも加盟する見通しだ。
「条約に加盟すれば、元夫が子供を連れ戻す権利を主張してくるのではないか」。十数年前にコンゴ人の元夫と離婚し、日本に息子を連れ帰った40代の女性は不安な日々を送っている。
米国の化学系メーカーに勤務していた元夫は、息子が産まれて間もなく育児を放棄。家計にお金も入れなくなった。耐えかねた女性は元夫に無断で帰国し、埼玉県の実家に身を寄せた。
その後も元夫は子供との面会を繰り返し要求。養育費を一部負担してもらうことを条件に電話やメールでのやりとりは認めたが、面会を巡り先の見えない交渉が続く。
条約加盟前の事例まで遡って返還を義務付けられることはないが、女性は「加盟を理由に強硬に返還を迫られるかもしれない」との恐怖感が消えないという。
返還を拒否するには「子の心身に重大な危険がある」ことが必要。連れ去られた先の国の裁判所が判断するが、海外でDVを受けて日本に逃げ帰ったような事例では「DVの立証が難しく返還拒否が認められないのでは」と懸念の声が上がる。
東京弁護士会の堀晴美弁護士は「過去のDV被害を証明できるよう(在外公館などが)支援態勢を整えるべきだ」と主張している。
一方、日本国外に子供を連れ去られた親にとっては条約加盟が紛争解決の有力な手段になる。外務省に子供の返還を申し立てれば、相手国を通じて子供を捜したり、安全の確保をしたりできるようになるためだ。
「国際結婚の問題は共通の紛争解決ルールがないと、これからの時代に対応できない」。ハーグ条約への早期加盟を訴えてきた大谷美紀子弁護士は強調する。条約は外交当局同士の話し合いも促しており、従来より円滑に問題解決につながる可能性もある。
大谷弁護士は日本が非加盟だったために生じてきた海外との「意思疎通不足」を是正できる点を加盟のメリットとみる。「DVの認定方法など国内での具体的な運用については、加盟までに十分な議論と態勢づくりが必要だ」と強調している。