堀尾の保健学:「ハーグ条約の実施に関する法律案」は、あまりうまく行きませんでした

「ハーグ条約の実施に関する法律案」は、あまりうまく行きませんでした

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ハーグ条約で審議の対象になるケースは、違法な連れ去りのケースです。違法でない連れ去りでは、申し立ては却下されます。
違法な連れ去りであるから、元の国へ返して、そこで審議しようということです。ただし、連れ去った母と子が、体中アザだらけで、新旧の骨折の跡が多数あるような、一見して明白なケースでは、子どもを元の国へ連れ戻すことをしません。これが、ハーグ条約です。
今回の「ハーグ条約の実施に関する法律案」は、ハーグ条約とは矛盾する法律です。
「ハーグ条約の実施に関する法律案」の28条は、1号から6号までのいずれか一つでもあれば、裁判所は子どもの返還を命じてはならないと規定しています。
例えば5号は「子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること」となっています。
ただし、これら1号から6号までのうち、1号、2号、3号、5号については、それに該当しても、一切の事情を考慮して常居所地国に返還することが子の利益に資すると認めるときには、裁判所は子の返還を命ずることができることになっています。もちろん、返還を命じないことも可能です。
4号については、4号に該当する場合は、裁判所は子の返還を命じてはならないということです。
4号は、次のようです。「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くことになる重大な危険があること」。
この4号については、次の項で、さらに「耐え難い状況」の具体例が次のように列挙されています。
①常居所地国において子が申立人から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無 ②相手方及び子が常居所地国に入国した場合に相手方が申立人から子に心理的外傷を与えることとなる暴力その他の心身に有害な言動をうけるおそれの有無 ③申立人または相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無
この4号については、これらの例示だけでなく、裁判所は他の事情も考慮して判断します。
③は、連れ去った母親が、元の国で子どもを監護するのに困難な事情があれば、これに該当します。この③の例示に該当すれば、4号に該当します。そうすると、子どもは返還されません。
母親は、違法に連れ去っています。つまり、現地の法律に違反して連れ去っています。欧米では連れ去りは重罪です。例えば、ガルシア氏のケースでは、連れ去った母親には、25年の刑が求刑されました。日本にいれば、親子は平和に暮らしています。しかし、子どもを元の国へ返還すれば、もし母親が子どもに会いに行けば、逮捕されて収監され、犯罪者として重罪として処罰されます。
日本では問題ないのに、外国では犯罪者にされるのです。欧米に関しては、連れ去ったほぼ全員がこれに該当します。25年も収監されるのなら、平穏な監護はできません。少なくとも、そのおそれがあります。つまり、この法律に従えば、連れ去りは、返還しないということです。
①と②についても、おそれ(可能性)があれば、返還しないということです。精神的な打撃を受ける可能性があるだけでも、返還しないということです。日本にいれば、問題無いが、外国に行けば、母親は25年も刑務所に入るおそれがあるのです。母親が25年も刑務所に入るおそれがあるのなら、どう考えても、子どもの精神に打撃になるおそれがあるでしょう。
中間取りまとめにあった「明らかなおそれ」という言葉は、単なる「おそれ」に変わっています。明らかでなくても良いということです。わずかでもあれば、あるということです。
なお、4号についても、1,2,3,5号についても、それぞれ、裁判官が、ありとあらゆる事情を考慮に入れて決めます。
裁判では、相手方の弁護士は、ありとあらゆることを持ち出すことになるでしょう(そうして、裁判が長引けば、小さい子どもは父親のことを思い出せなくなります)。また子どもに「アメリカには行きたくない」と言わせるでしょう(ソフィーの選択が先取りされます)。子どもを連れ去る前には、打撲や精神的症状があるという診断書を作っておくように指示するでしょう(子どもを返還されないための「正しい連れ去り方」が指南されます)。
この法律は、「二人の親が協力して子どもを育てる」ことを実現しようとする法律ではなく、「二人の親が激しく争い、弁護士にお金をたくさん支払う」ことを実現しようとする法律です。
ハーグ条約の趣旨である「原則として返還する。ただし一見して明らかな危険がある場合は、返還しない」という状態ではありません。ありとあらゆることが議題になります。この状態は、ハーグ条約の状態ではなく、日本の家庭裁判所の状態です。日本の裁判所が、一切合財を考慮して決めるということです。返還しない場合が例示されており、元の国で監護が困難になるおそれがあれば返還しないということです。重罪になって収監される可能性は連れ去った全員にあります。つまり全員を返さないということです。
ハーグ条約は、この「実施に関する法律案」により完全に否定されています。
ハーグ条約は、もともとヨーロッパのような、簡単に国境を越えられる状況で効果が認められました。1980年というのは、すでに欧米では、離婚により片親が子どもとの関係を切られる弊害が認識された後です。違法な連れ去りを許さずに、速やかに元に戻して審議することが、すでに共通の認識になっていたのです。
今回、外国の圧力によって、ハーグ条約を批准させられたのですが、欧米は、日本に共同親権を実施させることを目的にしたのではなく、日本に圧力をかけて、子どもを外国に連れ戻すことを目的にしています。それは、真の解決ではなく、このようにうまくいかないのです。日本では「なぜ連れ去っては、いけないのか」が充分に理解されていません。
日本における司法の力関係は、以前のままです。日本では、子どもの権利条約は、司法によって無視されたままです。この「実施に関する法律」が無くてもこうなるのでしょうが、この法律ができたので、完璧になりました。
子どもの権利条約が守られていない状況で、ハーグ条約により裁判地だけ決めようとしても、結局こうなります。
米国政府は、日本を共同親権の制度に移行させて、両方の親に育てさせることをあまり考えていないようです。現状の力関係に影響を及ぼそうとすると、それなりの抵抗に会います。成田に飛行場を作るだけでも大変な抵抗に会いました。選挙向けに、「日本にハーグ条約を認めさせた」という表面的な成果を求めたのでしょう。手柄をもらう代わりに、骨抜きを容認したのだろうと推測します。
ジーン・シャープ氏は、「外国をあてにしてはいけない」と述べています。自分たちの運動を地道に展開する必要があります。外国をあてすると、運動をなまけてしまいます。外国が何かをしてくれると期待すると、つらいことをする気力が無くなります。ハーグ条約のことは忘れて、また地道に頑張りましょう。外国は、無いものと考えましょう。近いうちに参議院選挙もあるので、また頑張りましょう。地方議会を活用しましょう。
戦時中に、アメリカ軍は日本において、子どもを含む非戦闘員を大量に殺害しました。国際法に違反しています。ハーグ陸戦条約(1907年)にも違反しています。現在も子どもの権利条約を無視しています(ただし、実質的には守っている)。ハーグ陸戦条約を守らないアメリカが、子どもの権利条約を守らない日本に対して、裁判地をアメリカにする条約を批准せよと言っても、うまくいくわけがありません。現在の状況が続くでしょう。
ハーグ条約の裁判官は、子どもの返還について、否定的な見通しを述べた上で、面会交流の交渉を勧めるでしょう。「最初は月に1回から始めて、だんだん増やしましょう」というような殺し文句はいろいろ用意されています。月に1回は、交渉の出発点でなく、完璧に言いなりになった場合の努力目標です。
今回のパブリックコメントでは、最高裁も意見を述べています。例えば、最高裁は、返還の強制については、間接強制のみを認めるという意見を述べています。最高裁内部ではこれに反対する意見は無かったと書かれています。
間接強制だけなら、例えば「返還しないのなら、1日について5000円を支払え」という判決が出るだけになります。破産してお金を稼いでいなければ、痛くもかゆくもありません。親から、生活費を現物でプレゼントしてもらえば良いのです。
最高裁の意見は、あまり立法府を拘束しないでしょうが、下級裁判所の裁判官には大きな影響を与えるでしょう。最高裁の意向に逆らう下級審の裁判官は、2、3年ごとの移動の際に、自分への評価が分かるでしょう。直接強制を認めるような、根性ある判決を書く反抗的な裁判官がいることを願っています。
今回の、ハーグ条約の実施に関する法案では、大敗を喫しましたが、全体としては、勝ちゲームです。時代の趨勢が止まるわけもありません。これにくじけずに頑張ります。
11年前