共同:【子の連れ去りにルール】ハーグ法案成立へ 「虐待逃れたケース多い」「共通ルール参加を」─賛成派、反対派の声

【子の連れ去りにルール】ハーグ法案成立へ 「虐待逃れたケース多い」「共通ルール参加を」─賛成派、反対派の声

 

 

国際結婚の破綻に伴う子どもの連れ去りに関するルールを定めた「ハーグ条約」加盟関連法案は、9日午後の衆院本会議で全会一致により可決し、 衆院通過した。 参院の審議を経て今国会で成立するのは確実な情勢だ。

条約の国会承認手続きも5月下旬に終える見通しで、今国会で加盟に必要な一連の手続きが完了する見込みだ。政府は来年早期の加盟を目指し、制度導入の準備を急ぐ方針。主要国(G8)で、日本だけが未加盟で早期加盟を対米公約化していた。

条約は国外に連れ去られた16歳未満の子どもに関し、元の居住国に残る親が返還を求めれば原則として応じるとの内容。「子の利益」を最重要に考 え、子どもが慣れ親しんだ元の居住国で養育や親権の問題を協議することを想定している。連れ去られた子どもの所在確認などを担う政府機関「中央当局」の設 置を求めている。

関連法案は国内の返還手続きを規定。中央当局に当たる外務省が子どもの居場所を捜し当事者間解決を促す。不調に終われば、東京、大阪の家庭裁判所が判断する。虐待の恐れがある場合、返還拒否できる例外規定も盛り込んでいる。

◎返還で犠牲のケースも 反対派の大貫憲介弁護士 

 大貫憲介弁護士

―条約加盟の問題点は  「親権を持つ一方の親に無断で子どもを国外に移動させると経緯や理由に関係なく一律に違法とみなし、元の国に返還するという条約の原則は乱暴だ。家庭内 暴力(DV)や虐待からやむを得ず逃げて来たケースは多い。返還自体が子の福祉にかなうかどうかを審理する必要があるのに条約は禁止している」

―条約には返還を拒否できる規定もある

「拒否するには、過去だけでなく将来にわたってDVや虐待を受ける可能性を立証する必要があり、ハードルが高い。返還を求めた親の養育能力を事前 に審査しないのも問題だ。条約に基づいて父親の国に子どもを返したら、養育能力がなく里親に預けられたケースもある。原則返還で子どもが犠牲になった形 だ」

―未加盟だと日本から連れ去られた子どもの返還請求ができない

「現行の法制度を利用すれば可能だ。私が代理人となって米国や英国から子どもを取り戻した事例がある。米国では、日本の家庭裁判所が出した子ども の引き渡し命令を州の裁判所が代理執行する制度がある。逆に日本に連れ去られてきた場合、海外に住む親は人身保護法に基づく引き渡しを日本の裁判所に求め ることができる」

―加盟後の課題は

「関連法案に『子の利益に反する場合は返還しなくていい』という規定を設ける必要がある。そもそもDV被害者が国外に逃げなければいけないような事態を未然に防ぐため、被害邦人に対する海外での支援態勢の充実が不可欠だ」
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おおぬき・けんすけ 弁護士。国際離婚や入管問題などを数多く扱う。

◎共通ルールに参加を
賛成派の大谷美紀子弁護士

 大谷美紀子弁護士

―条約未加盟の問題点は

「米国への手土産として条約に加盟するとの見方もあるが、間違っている。日本は『国境を越えた子どもの連れ去りについて何もしない』と米国以外の 国からも批判されている。共通のルールに参加しないと国際社会の一員ではいられない。日本人同士のカップルでも、どちらかが海外に子どもを連れ去れば条約 は適用される。日本人と外国人だけの問題ではない」

―子どもにとって不利益にならないか

「話が逆だ。多くの場合、連れ去った側の親は奪い返されることを恐れて極度に子どもを囲い込み、もう一方の親との関係を絶とうとする傾向がある。そうした行為こそが子どもの利益に反する。子どもは、両親だけでなく双方の親族や文化とつながる機会が与えられるべきだ」

―家庭内暴力(DV)から逃れてきた親子が再び被害を受ける恐れはないか

「子どもをDVから守ることと、連れ去りによる不利益から守ることは矛盾しない。DV被害者の保護は日本だけでなく各国共通の課題だ。各国の裁判所が個々のケースでDVを認定し、どちらの親が育てるべきかを適切に判断するだろう」

―「子どもにとって重大な危険」という返還拒否理由が抽象的だとの批判もある

「むしろそれぞれの事案に即した柔軟な救済が可能となるのではないか。各国の裁判所は個別の判断を積み重ね、DVの危険もこの中に取り込んできた。国内の法案にも、何が子どもにとって重大な危険になるかの判断要素が明記されている」
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おおたに・みきこ 弁護士。法制審議会ハーグ条約部会委員。

(共同通信)

12年前