読売社説:ハーグ条約 子供のために体制作り急げ(4月30日付・読売社説)

ハーグ条約 子供のために体制作り急げ(4月30日付・読売社説)

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130429-OYT1T00933.htm?from=ylist

国際結婚が破綻し、配偶者が一方的に子供を国外に連れ去ったら、どう対処するか。そのルールを定めた条約にようやく日本も参加する。国内の体制整備を急ぎたい。

ハーグ条約の承認案が衆院で全会一致で可決された。参院でも可決が確実で、事実上、条約加盟が決まった。国内の関連法案も、近く成立する見通しだ。

条約は原則として、16歳未満の子供が無断で片方の親に連れ去られた場合、1年以内にもう一方の親から申し立てがあれば、子供を元の国に返すとしている。

主要8か国(G8)で、条約に未加盟なのは日本だけだった。

日本人の国際結婚が増加する中で、米国では、別れた日本人が子供を日本に連れ去る事例が約100件に上っている。外交問題にも発展し、米欧から日本に早期加盟を求める声が高まっていた。

条約加盟は、遅すぎたとも言えるだろう。

加盟により、日本人の子供が外国に連れ去られた場合も、返還を要求する道が開ける。条約未締結のために子供を連れての日本への帰国が制限される例もあったが、そうしたトラブルもなくなる。

日本の加盟が遅れたのは、外国人の夫の家庭内暴力(DV)から逃れようと同意なく子供を連れ帰る日本人の女性が多く、こうした日本人の人権を守れるかどうか懸念する声があったからだ。

国会審議でも、夫などの申立人に対し、例外的に認められる「子供の返還拒否」の条件をどう規定するかが焦点になった。条約は「子の心身に害を及ぼす重大な危険がある場合」としている。

国内の関連法案は、申立人が「子供に暴力を振るう恐れがある場合」に加え、「子に悪影響を与えるような暴力」を母親に対しても加えかねない場合を含めた。

あえて「子に悪影響を与える」と条件をつけたのは、条約があくまで「子供の幸せ」を中心に考えているからである。ただ、DVが子に悪影響を与えているかどうかの立証は難しいだろう。

申し立てを受ける東京と大阪の両家庭裁判所には、子の心情に十分配慮した判断が求められる。

条約に従い、親権を巡って日本人が現地での裁判に臨む場合に備えて、外務省は、海外での支援体制を整える必要がある。

日本の在外公館の一部では、すでに相談窓口を設けているという。弁護士や通訳の提供、現地のDV問題支援団体との連携など、きめ細かな対応が必要である。

(2013年4月30日01時17分  読売新聞)
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