ハーグ条約
http://www.nishinippon.co.jp/wordbox/word/4350/9523
正式名称は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」。1980年にオランダのハーグ国際私法会議で作成され、83年に発効した。昨年12月末現 在、欧米諸国や韓国、タイなど89カ国が締結している。返還申請の対象となる子どもは16歳未満。政府は昨年3月、条約承認案を閣議決定した。条約承認 後、外務省を中心に申請の窓口をつくる。司法判断は三審制で、家庭裁判所の決定に不服があれば、高裁や最高裁に抗告できる。
(2013年3月24日掲載)
ハーグ条約 今秋にも日本運用 どうなる子の居住国 原則返還、利益考え例外も
国際結婚が破綻した夫婦間で国境を越えた「子どもの連れ出し」が起こった際のルールを定めたハーグ条約が5月にも国会で承認される。秋にも発効し、運用 が始まる見通し。日本は同条約締結の後発国だが、具体的にはどうなるのか-。政府の説明や外国の先例から実態を検証する。
ハーグ条約は子どもの利益最優先が理念。基本的に監護権(親権)は子どもが慣れ親しんだ「連れ去りまでの居住国」が望ましいとし、夫婦の一方に連れ去ら れた子どもは「元の居住国に返還」を原則とする。ただ、条約締結済みの外国では、裁判所の司法判断で「返還拒否」を認めた例外も少なくない。
外務省によると、2008年のハーグ条約に基づく子どもの返還申請は約2千件に上る。うち56%は当事者間の協議を通じた「任意の返還」や「申請取り下 げ」などで解決しており、司法判断に至ったのは半数以下の44%。さらに司法判断の3分の1(全体の15%)は返還拒否が認められた。
例外を認めた理由は、子どもへの身体的・性的虐待、返還を求める親の生活能力の欠如など。夫婦間の暴力や脅迫も子どもに精神的悪影響や心的外傷後ストレス障害(PTSD)をもたらす問題として重視される。
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裁判所が連れ去り行為を不法と認定しながら、返還拒否を認めたケースには「元の居住国で窃盗容疑の逮捕状が出ている母は帰国できないが、子の面倒をずっ とみており、引き離すと子を耐え難い状況に置く」(カナダ)、「1歳児には母が必要」(米国)、「8歳と6歳の子ども本人が返還拒否の意思を示し、3歳の 子も兄弟から引き離せば精神的に悪影響」(英国)などがあった。
ただし、日本の裁判所が、まだ幼く、精神的に揺れ動くこともある低年齢児の主張を「子どもの意思」と見なすかどうかは「裁判所が個別に子の成熟度を判断し、意思の有効性も審理することになるだろう」(外務省関係者)と明確でない。
元の居住国の定義も「日本に7年間居住後、米国に3カ月間だけ暮らしていた」といったケースでどう判断されるのか不明。「連れ去りから数年後の返還申請は有効か」といった時効の概念も曖昧。
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ハーグ条約の発効後、日本でも返還申請が相次ぐ可能性がある。外務省によると、外国政府から提起されている日本への連れ去りは昨年9月までに米国81 件、英国とカナダ各39件、フランス33件に上る。厚生労働省によると、外国人との国際結婚は1990年代から急増、06年の4万4701件をピークに減 少に転じているが、その離婚は11年に1万7832件を数えた。
申請を受けた場合、外務省は子どもの所在を自治体情報などで確認し、まずは当事者間の平和的解決を促す。それが不調に終われば裁判所の審理へ進む。申請者が裁判所に直接申し立てることも可能。東日本は東京家裁、九州を含む西日本は大阪家裁で一括審理する。
ハーグ条約を主要国(G8)で締結していないのは日本だけで、締結は時代の要請ともいえる。日本では離婚後の親権は父母の一方が持つ「単独親権」だが、 世界には両親が共有する「共同親権」の国も多い。条約の締結を契機に、日本で共同親権の導入論議が高まる可能性もある。