産経新聞:「ハーグ条約」加盟を閣議決定 暴力夫から子供守れるか

「ハーグ条約」加盟を閣議決定 暴力夫から子供守れるか

産経新聞 3月15日(金)15時14分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130315-00000136-san-pol

ハーグ条約の仕組みと想定される課題(写真:産経新聞)

政府は15日午前の閣議で、国際結婚が破綻した夫婦間で子供の奪い合いが起きた際のルールを定めた「ハーグ条約」加盟に向けた承認案と関連法案をそれぞ れ閣議決定した。同日中に国会に提出し、5月中にも国会承認、成立する見通し。条約加盟をめぐっては、米側の強い要請を受け、安倍晋三首相が早期実現を表 明。日米関係改善の象徴のひとつとなった。ただ、日本人の母親と子供が、夫の暴力や薬物中毒などを理由に帰国したケースの対応など課題は残る。(大谷卓)

◆十分な協力得られる?

「条約加盟でドメスティック・バイオレンス(DV)被害からの逃げ道がなくなる」「子の監督者として不適切でも、外国の裁判所は共同親権を認め、定期的な面接も命じる」

平成22年に外務省が在外公館やホームページなどで行ったハーグ条約に関連する調査には、外国から子供を連れ帰った母親のそうした意見が寄せられている。

回答者64人のうち、外国から子供を連れて帰国したのは18人。逆に子供を海外に連れ去られたのは19人。残る27件は移動制限が設けられている。日本人の母親が子供を連れて帰国する理由には、外国人の元夫によるDV被害や薬物乱用、酒乱などが挙げられている。

条約加盟後、外国人の元夫から日本に帰国した子供の所在を捜すよう申請を受けた場合、外務省がそれを調べた後、東京・大阪家裁が返還の可否を判断する。 DVや子供への虐待、薬物中毒の有無など、母親が帰国せざるを得なかった理由を調べるが、これには相手国の捜査機関の協力が必要。

ただ、その調査内容と異なる「自前の判断」が下されるとは考えにくく、十分な調査内容、協力を得られるのかとの不安も残る。

◆「親権」考え方の違い

未成年の子供を監護・教育し、その財産を管理する「親権」に対する考え方の違いも懸案のひとつだ。

過去には、兵庫県の女性が、米国で離婚訴訟中に子供とともに帰国した際、子供を連れ去ったとして親権妨害の罪で刑事裁判を受け、その後、女性はハワイに滞在中に逮捕される事態に至った。

離婚しても双方が親権を持つ共同親権が一般的な欧米に対し、日本では幼い子供の場合、母親に親権が認められることが多い。女性の場合、日本では単独親権を認められたが、米国では男性に単独親権が認められていた。

共同親権をめぐる民法上の違いは、加盟後のトラブルの原因にもなりえる。

◆返還拒否できる仕組みは

ハーグ条約加盟は民主党政権下でも承認・関連法案が国会に提出されたが、実質審議されないまま昨年11月の衆院解散で廃案に。承認・関連法案を了承した 今年2月19日の自民・公明両党の合同部会では、DV被害などの実情を考慮し、子供の返還を拒否できる仕組みを求める意見が出された。

一方で、国外に子供を連れ出された場合、その所在地などを自力で探し出す必要がなくなる。「連れ去った方がいい」という状況に歯止めをかける効果は大きい。

首相は2月22日(日本時間同23日)の日米首脳会談後、条約加盟について「子供の立場で考えないといけない」と表明した。子供にとって最善とは何か。そのために条約加盟後の対応を早急に考える必要がある。

【用語解説】ハーグ条約

国際結婚の破綻後、一方の親が無断で子供を国外に連れ去り、他方の親が会えなくなる事態に対処するための条約。1983年に発効した。米国や欧州連合 (EU)全加盟国、韓国、タイなど89カ国が加盟(今年2月1日現在)。16歳未満の子供が対象で、連れ去られた側の親が返還を求めた場合、加盟国は子供 の所在を調べて元の居住国に戻す義務を負う。(1)連れ去りから1年以上経過(2)戻れば子供に身体的、精神的に重大な危険が及ぶ-と判断されるケースで は返還を拒否できる。

12年前