ハーグ条約 子供の利益守る制度を築け(2月28日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130228-OYT1T00143.htm?from=y10
子供の利益が損なわれないよう、政府は適切な法制度と支援体制の整備に努める必要がある。
安倍首相は、国際結婚の破綻に伴う子供の連れ去りに対応する「ハーグ条約」への早期加盟を、日米首脳会談でオバマ大統領に約束した。
この条約には、欧米を中心に89か国が参加しており、国際ルールとして定着しつつある。主要8か国(G8)で唯一未加盟の日本も締結を急がねばならない。
自民、公明両党は、条約の承認案と関連する国内法案の国会提出を了承した。民主党も与党時代、加盟を推進する立場だった。与野党は今国会中の承認・成立に努力してもらいたい。
条約は、16歳未満の子供が片方の親に連れ去られた場合、もう一方の親が返還を求めれば元の国に戻すことを原則としている。
関連法案は、子供の返還を命令するための国内の裁判手続きや、条約を所管する外務省の役割などについて定めるものだ。
国会審議の焦点は、子供の返還を拒否できる条件である。
法案は、返還の申立人が子供や元配偶者らに暴力を振るう恐れがある場合などと明記する。元の国に戻った親や子供が家庭内暴力(DV)にさらされるとして加盟慎重論があることに配慮した。
だが、元の国でのDV被害を立証するのは容易ではない。この条件で十分なのかどうか、審議を尽くしてもらいたい。
欧米では、子供を連れ去った親を「誘拐犯」として訴追する場合がある。子供を連れて戻れば逮捕されかねない。こうした事情をどう判断するかも重要である。
法案は、担当裁判所を東京と大阪の両家庭裁判所に限定する。返還の申し立ては年数十件程度と見られており、裁判所を絞ることで審理のノウハウが集積しやすくなると判断したのだろう。
東京、大阪でなくても近くの裁判所から電話やテレビ会議での審理参加も認めるという。遠隔地に住む人の負担を抑えようという方針は評価したい。
日本が条約に加盟すれば、返還命令を受けた日本人の親子が、元の国に戻って親権を巡る裁判に臨むケースも出てくる。在外公館は邦人支援の一環として、現地の弁護士や支援団体を紹介するなどの措置を取ることが望ましい。
一方、日本から海外に連れ去られる子供についても、条約は適用される。外務省は、子供の返還を求める日本人に対する支援体制を整えるべきだ。