政府は当事者へ全面支援を
日本の「ハーグ条約」加盟が確実になった。国際結婚が破綻し、子どもの奪い合いが起きた場合の解決策に関する取り決めである。
条約の承認案と関連法案は今国会で承認・成立の方向で、政府は政令などを整備の上、条約を管理するオランダに批准書を寄託する。年内には正式に締約国となる見通しだ。
■半数が話し合い解決■
ハーグ条約は1983年に発効した。子どもを元居た国に戻し、親権などの争いをその国で決着させることを原則とする。2月現在で89カ国が加盟し、主要国(G8)では日本だけが未加盟で、各国から加盟を迫られていた。
あくまで民事上の手続きを定めた条約で、加盟しても当事者に対する国の全面的支援なしでは機能しないし、子どもに有害な決着をする恐れすらある。成否は政府にかかっており、あらゆる支援を想定した準備に万全を期すべきだ。
国際結婚が破綻すると、子どもの扱いをめぐって深刻な事態に陥る可能性がある。日本人女性が「実家に戻る」感覚で無断で子どもを連れて帰国した場合、米国などでは刑事責任を問われる恐れすらあるのだ。
条約加盟後の日本に仕組みを当てはめるとこうなる。
国際結婚が破綻した日本人の親が16歳未満の子どもを連れて勝手に帰国したら、もう一方の外国人の親は日本の外務省に子どもの返還申請ができる。外務省は子どもの所在を調査し、日本の裁判所が返還の適否を判断する。
ただ司法手続きの前に、外務省が当事者の話し合いによる解決を促すことが可能だ。任意の解決が好ましいことは言うまでもなく、政府はまず、こうした協議の支援に全力を挙げるべきだ。加盟国ではこの段階での決着が半数に達している。
■子どもの福祉最優先■
司法手続きに入っても、3割は裁判所が返還拒否の判断をしている。「子どもにとって重大な危険がある場合」は、拒否できることが条約に規定されているからだ。政府は関連法案で、家庭内暴力(DV)の親への返還などがこれに当たることを明確にした。
DV親への返還などがあってはならず、そのために必要なのが、立証に関する政府の支援だ。司法手続きで外国人親によるDVなどの証明を求められるのは日本人親の側だが、個人で対応するのは容易なことではない。
日本の在外公館が、現地で国際結婚している邦人の相談に日常的に応じる態勢が不可欠だ。DVなどの内容は証拠提出するときに備えて記録し、診断書や警察通報記録などの確保も助言する。外務省には専門要員の配置など一層の手厚い対応を望む。
日本から連れ出された子どもの返還を求める逆のケースも出るだろうが、最優先は子どもの福祉だ。それが実現できているのか、追跡調査などで検証も求めたい。