産経:「ハーグ条約」 日本はG8唯一の未加盟国

「ハーグ条約」 日本はG8唯一の未加盟国

2013.3.6 07:28 (1/3ページ)

 国際結婚した夫婦の一方が子供を母国に連れ去り配偶者が返還を求めた際の取り扱いを定めた「ハーグ条約」に、日本もいよいよ加盟へ動き出した。早 ければ5月にも国会で承認される。日本国内には外国人の元夫による家庭内暴力(DV)や虐待の事例を踏まえ加盟に慎重論も根強い。しかし、日本の加盟問題 は、2月22日の日米首脳会談で議題になるほどの重要課題になり、安倍晋三政権は日米同盟強化のため実現を急ぐ。(峯匡孝)

子供の人権を重視

「国際的なルールがあることが大切だ。今国会で承認が得られるよう努力をしていく」

安倍首相はオバマ米大統領との会談で、ハーグ条約加盟へ前向きに取り組むことを表明した。

条約の正式名は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」。

国際結婚とその離婚件数の増加により、夫婦の一方が相手の承諾なしに子供を母国に連れ帰り、面会させない事案も増加した。子供は両親の国境を越えた奪い合 いにさらされたり、言語や慣習が異なる国での生活を強いられたりすることがあり、子供の人権を守る観点から国際的なルールが必要だとの認識が広まった。
1983年12月に条約は発効した。現時点で条約締約国数は89カ国に上る。

まず元の居住国へ

条約は、16歳未満の子供を対象とする。親権を決めるには子供の生活環境を十分に調査する必要があるため、子供をいったん元の居住国に戻す。親権がない親にも国境を隔てた子供と面会できるよう支援することも定めている。

条約が定める具体的な手続きは次の通りだ。

一方の配偶者に子供を連れ去られた親が、自国や子供が居住する中央当局(日本では外務省)に返還の援助を申請する。子供が居住する国の中央当局は、申請書 類を審査し、居場所を特定する。中央当局は、任意の返還や当事者間での解決を促す仲裁や調停を行う。司法当局(日本では東京家裁と大阪家裁)が子供を返還 すべきかを判断する。

DV証明は困難?

条約には、返還 を拒否できる例外規定もある。配偶者によるDVや虐待により子供に危険が生じる場合が考えられるからだ。子供自身が返還を拒んだり、連れ去りから1年以上 が経過して子供が新たな生活環境に慣れ親しんだりしている場合も例外としている。条約事務局の統計によると、主要締約国では約3割が「返還拒否」と判断さ れた。
実は、主要国(G8)で日本が唯一の未加盟国だ。日本国内には、司法当局が判断する上で外国における元夫のDVや虐待の証明は難しく「再びDVや虐待を受ける懸念は強い」(弁護士出身の柴山昌彦総務副大臣)などと、例外規定の運用を疑問視する声がある。

しかし、安倍首相の意向も受けて、自民、公明両党は2月19日に条約加盟の方針を了承した。政府は、今月中に承認案と条約整備のための関連法案を国会に提出する。

■対日圧力も背景

安倍政権がハーグ条約加盟を急ぐのは、国際社会の日本批判が高まり、特に米国から「潜在的には(日米関係が)爆発するような重要案件だ」(ルース駐日大使)という圧力があったことも大きい。

日本が外国政府から提起された子供の「連れ去り」件数は、米国の81件をはじめ英国39件、カナダ39件、フランス33件と続く。

2010年9月には米下院、11年1月にフランス上院がそれぞれ、日本に条約加盟を呼びかける決議を採択した。米政府は、連れ去りを「拉致」と同じ英語で 表現、米国内で北朝鮮による日本人拉致と同一視する論調まで噴出し米下院外交委人権問題小委員会が12年3月、この問題に取り組まない国に制裁を求める法 案を可決したほどだ。

野田佳彦政権の昨年3月に条約承認案と関連法案が国会に1度提出されたが、衆院解散で廃案になった。

12年前